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鑑賞*この国のこの屋根が好き初燕

宮島ささえ
                 
春になると南方から燕がやって来る。
まずこの句の「好き」なのは燕か作者か。主体が燕ならば、日本を選んで来てくれた燕に親しみを感じているところ。主体が作者であったら、空高くから見下ろす燕の気持ちになって、改めて日本の屋根を見直しているのだろう。
 次に、日本の「この屋根」とはどんな屋根だろうか。「この国の」というのだから、どこか特定の家の屋根ではないだろう。日本の気候や風土に合った独特の屋根の素材や形状を言っているに違いない。
 日本に憧れて駐日大使に着任(大正十年)したポール・クローデルは、日本人の感性や日本文化を深く理解し、俳句や短詩、日本文化の随筆を残した。在任中に関東大震災を経験した。大通りの町屋が焼け落ちた後に、屋根の平たいビルが建ち並ぼうとしているのを見て、町の形がまるで変って、日本にいる感じがしなくなりかけていることを惜しいと思ったという。
 現代の屋根は、都市部ではビルなどの平たい屋根が増えた。民家でも板屋根や草屋根はなくなり、大正時代に比べれば、屋根材や形状についての日本の独自性と地域性は、希薄になった。
句で改めて「日本の屋根」と言われてみれば、淋しさを覚える。当の燕に、日本のどんな屋根が好きかと尋ねたら、〝巣の作りやすい屋根〟と返ってくるのだろうか。

(俳句雑誌『風友』 令和三年十月号)
(岡田 耕)

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