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#書評

【書評】高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社、二〇一九)の倫理的問題――「村」へのまなざし

【書評】高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社、二〇一九)の倫理的問題――「村」へのまなざし

晶文社が京都大学学術出版会とともに第一七回出版梓会新聞社学芸文化賞を受けたという。

上掲サイトによると受賞理由の一つには同社刊のルポタージュである高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』の評価があるということらしい。しかし稿者は同書の刊行以来、その内容や表現には多くの問題点があると考えてきた。すでに刊行からいささかの時間が過ぎているが、いまこの機会に、考えを整理しておきたい。

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【書評】上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)

【書評】上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)

 上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)は、著者が地域研究の過程で資料に接した澤田美喜の乳児院、小学校、中学校を視座として、主に占領期の米国軍人と日本人との間に出生した混血児をめぐる教育のありようを歴史的に叙述した一書です。澤田は三菱財閥の創業者岩崎弥太郎の孫娘で、夫は外交官の澤田廉三、一九四八年二月に乳児院エリザベスサンダーホームを創設したのを嚆矢に、生涯、混血児の教育に熱意を傾けた

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【書評】福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、2020)

【書評】福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、2020)

福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、二〇二〇)は、立命館大学産業社会学部教授で歴史社会学・メディア史を専攻する著者の新著です。氏は先に『「働く青年」と教養の戦後史―「人生雑誌」と読者のゆくえ』(筑摩選書、2017年)でサントリー学芸賞を受けています。表題にある「勤労青年」とは中卒の労働者の謂いです。本書は、主として敗戦から1960年代末において勤労青年たちに共有されていた教養主義を歴史

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