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外山滋比古『思考の整理学』

こんにちは。私が住んでいる大分市はこのところ一日が過ぎる毎にひんやり度が増しており、秋の深まりを感じます。

今日は外山滋比古さんの『思考の整理学』(ちくま文庫)をご紹介します。この本はかなり長い間大学生の間でベストセラーになっており、「東大生が一番読んでいる本」として以前は紹介されていました。最近はどうだか分かりませんが。

英文学者の外山先生が日頃思うこと感じたことをエッセイ調にまとめたもので、比較的読みやすいです。中学生でもたぶん最後まで読めるでしょう。

ページを開くと、最初に「グライダー」の話が出てきます。学校教育は自力で飛び上がることができないグライダーのようなもので、独力で知識を得るのではなく、先生と教科書に引っ張られて勉強する場所です。学校は自力で飛べる飛行機人間はつくりません。

「グライダーの練習に、エンジンのついた飛行機などがまじっていては迷惑する。危険だ。学校では、ひっぱられるままに、どこへでもついていく従順さが尊重される。勝手に飛び上がったりするのは規律違反。たちまちチェックされる。やがてそれぞれにグライダーらしくなって卒業する。優等生はグライダーとして優秀なのである」

『思考の整理学』p.11

しかし、グライダー人間は自分の好きなとおり論文を書いてみるように求められると、たちまち困惑します。グライダーとして優秀な学生ほど慌てます。外山先生によれば、学校教育を受けた期間が長ければ長いほど、自力飛翔の能力は低下するそうです。

人間にはグライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。両社はひとりの人間の中に同居している。グライダー能力をまったく欠いていては、基本的知識すら習得できない。何も知らないで独力で飛ぼうとすれば、どんな事故になるかわからない。

『思考の整理学』p.13

今の世の中はグライダー能力が高く評価される傾向がありますが、新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠です。また、グライダー専業で安心していられない事情もあります。コンピューターや人工知能(AI)が人間の能力を凌駕する場面がどんどん増えてきているからです。

2015年、野村総研とオクスフォード大学の共同研究で、「AIの導入によって日本の労働人口の49%の仕事が10-20年以内になくなる」という衝撃的な見通しが発表されました。今や多くの場面でAIが人間の生活に侵食してきています。YouTubeなど大規模なソーシャルメディアは多くの業務をAIがほぼ運営管理しています。今後、受付や経理事務などの業務は人間からAIに変わっていくとみられています。

逆に、AIが浸食しにくい分野の職業としては、芸術関連、理髪師、カウンセラーなどが挙げられています。要はクリエイティブな仕事、共感力や柔軟性が求められる仕事が重視されるわけです。学校の教科書から学ぶ領域よりも、人と共同生活を送りながら体得していく知恵や感情の領域の方が今後は「喰っていける」職業に直結するのかもしれません。

『思考の整理学』の文章は初出が1983年ですから、ちょうど今から40年前にあたります。それでいて筆致に少しも時代を感じないのは、外山先生の洞察力があまりにも鋭いからでしょう。

折に触れてまた本書をご紹介していこうと思います。

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