【後編】 「逃げ恥」作者、海野つなみさん。「家事の内政干渉しないと決めるだけで、世の中はずいぶん変わる」
オイシックス・ラ・大地の広報室が運営する、いま伝えたい情報を発信するnote「The News Room」。
前回(→コチラから)に引き続き、スペシャルインタビューは『逃げるは恥だが役に立つ』の原作者、海野つなみ先生です。
2021年1月2日にTVで新春スペシャルが予定されているドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」は、二人に子どもが生まれて、また新たな転換期を迎えます。前編(→コチラから)で触れられた、家事や育児の分担の話から、話題は料理をすることについて広がっていきました。
ミールキット「Kit Oisix」など、共働きのご家庭に寄り添うオイシックス・ラ・大地の広報室が、ライターの佐藤友美さんと一緒に、大人気漫画の作者から見た社会的な課題感とその向き合い方について、伺いました。
●一品あったら、十分ごちそう!
____前編(→コチラから)で、海野先生は「お料理は旬のものを美味しく食べられればそれで十分」とおっしゃっていました。でも、世の中には「家族のための料理に、手間ひまをかけないと」と思って、苦しい思いをしている女性も多いと感じます。
海野つなみ先生(以下、海野):
みくりちゃんが作った料理に対して「品数が少ない」というコメントをもらったといいましたが、今は、SNS映えを意識したり、自分はこれだけやっていますということをアピールしてしまいやすい世の中なのかもしれませんね。そうなると、どうしても人と比べてしまう。
私の母親は看護師だったのですが、「となりの奥さんは、手作りのおやつやパンケーキを作ってくれるのに、ごめんね」なんて言っていましたが、私自身は、「そんなの全然気にならないけどなあ」と思っていました。
____Oisixの一番の人気商品であるミールキット「Kit Oisix」を使うにも、最初は「手抜きにならないかな?」と、ためらいを感じるという声もあるんだそうです。
海野:
え? それはどうして? ミールキットって、届いた食材を調理するやつですよね。
____すべて手作りをしなきゃ!という先入観がある方にとっては、野菜などがセットになっているキットを買って、レシピどおりに作るということに対しての、うっすらとした手抜き感を感じる人もいるらしいんです。
海野:
そんなの、全然手抜きじゃないですよ! それを言い出したら、自分で畑から耕して収穫しなきゃいけなくなるじゃないですか。
「体にいいものを」と考えて作られた生産者さんの食材を、調理している。もう、十分すぎるほど、十分な料理ですよ。
うーん、でも、誰かにそういうふうに言われちゃうのかな……。雑誌などで「食事には主菜と副菜があって……」なんて書かれているのにも影響されるのかもしれませんね。
____「手間をかけた時間と愛情が比例する」と思っている方もいそうです。
海野:
いや、働いていたら、レンジでチンする時間すらしんどかったりしますよね〜。
私、朝ドラの『ごちそうさん』を見た時に思ったんです。あそこで出てくる食事って、ごはんとみそ汁があって、あとお皿にメインがひとつなんですよね。「これでいいんじゃん!」って、心から思うんですよ。
副菜とか野菜とか無くても。ごはんとみそ汁と漬物があって、あともう一品あったら、もう十分にごちそうじゃん! って。
もちろん、料理が好きな人もいるだろうし、作り置きしておいたものをちょっと出したりしたら、食卓の彩りも良くなるから、楽しい。もちろん、それも全然いいんですけど。
でも、人に対して、「あなたのところ品数が……」とか、「それは手抜きじゃない?」なんて言ったりするのは、余計なお世話ですよ。内政干渉ですよ。
いろんなやり方があっていいと思うんです。
一週間の中でも、きっちり下ごしらえして作る日もあれば、Oisixのミールキットの時もあれば、ポップコーンの時があってもいいんですよ。
人の家のことにアレコレ言わないと決めるだけでも、ずいぶん違うと思います。
●人の数だけ幸せの形がある
____料理のことだけでなく、その「いろんなやり方があっていい」という部分が、「逃げ恥」を読んでハッとさせられるところだと感じます。
個人的な感想で恐縮ですが、7巻で百合ちゃんが、「私みたいな生き方をしてもいいんだ、って思う後輩がいたら嬉しい」と言うシーンがありますよね。でも、風見さんが「そんなこと、言わないでください」というところが、私、本当に号泣ポイントで。
海野:
そうでしたか。たしかに、あのシーンは、読者の反響が大きかったシーンでした。
百合ちゃんの世代が、一番「こうあらねば」という価値観を背負っている世代なのかもしれないですね。
今だと、ファッション誌も多様化しているし、そもそも雑誌を読まずにネットでチェックしている人もいますけれど、百合ちゃんの世代は「バリバリ働いて、子どもも産んで」という、できすぎた女性像が、雑誌などでロールモデルとして紹介されて。それに憧れた世代じゃないかなと思うんです。
実は、このシーンは、実際、私自身に起こったできごとだったんです。
私は結婚もしなかったし、出産もしなかったけれど、それでもそんな私を見て「あの人自由に生きてたらいいなー」って思われたらいいなとベッドの中でぼんやり思っていたんですよね。
そうしたら、頭の中で、誰かわからない声が「そんなこと、言わないで」って言ってきて。「え!何? 今の声は誰?」というような経験があったんです。
私自身は、強がって言っているつもりじゃないのに、どうして頭の中にそんな声が聞こえてきたんだろうと思ったら、泣けてきちゃって。それを、そのまま描いたのが、あのシーンでした。どうして涙が出てきたのか、自分でも答えがわからないまま描きました。
でも、「読んで泣きました」という感想をたくさんいただいたので、もしかしたら、何かしらぐっとくる感情は、みんな同じなのかもしれないなあと思ったんですよね。
_____「カッコよく楽しく生きている自分でなきゃ」という呪縛から、救ってもらえた気がして、私たちも泣いてしまったのかもしれません。
海野:
誰だってみんな、楽しく生きたいなと思っているんですよね。
それは、教科書のように何歳で結婚をして何歳で子供を産んで、どういうとこに勤めて、定年後はいくらぐらい貯めてみたいな、そんな既定路線じゃなくても、幸せはいっぱいあるじゃないですか。
それぞれの幸せがあって、それは別に他人が決めるものじゃない。
だったら、いろんな形の幸せを定義すれば、読んでくれる人も「あ、こういうパターンもあるよね」とか、「こっちの方向で考えた事なかったけど、でもそれも別におかしい事じゃないよね」とか、考えてもらえるかなあ、と思っているんです。
いろんな生き方があっていい。
いろんな関係性があっていい。
そんな、多様性がある世の中になったらいいな、と思いながら、いつも描いています。
(完)
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このたびは、海野つなみ先生のインタビュー記事をご覧いただき、ありがとうございました。今後の運用の参考とさせていただきたく、アンケートのご記入をお願いできれば幸いです。
聞き手/佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。
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