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【前編】「逃げ恥」作者の海野つなみさんが見る、子育て共働き夫婦が直面する社会課題とは。「これまで可視化されにくかった『男性側の呪い』を描きたかった」

 オイシックス・ラ・大地の広報室が運営する、いま伝えたい情報を発信するnote「The News Room」。今回は、スペシャルインタビューとして、『逃げるは恥だが役に立つ』の作者、海野つなみ先生にお話を伺いました。
2021年1月2日にTVで新春スペシャルが予定されているドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」は、原作の第10巻と第11巻が舞台。主人公のみくりさんと平匡さんの間に子どもが誕生し、共働きの子育て夫婦が直面する課題感が描かれています。
 9巻で完結したはずの物語に、なぜ、この続編は生まれたのか。そこには、「逃げ恥」を描いたからこそ新たに見えてきた、夫婦や社会の課題があったといいます。
 ミールキット「Kit Oisix」など、共働きのご家庭に寄り添うオイシックス・ラ・大地の広報室が、ライターの佐藤友美さんと一緒に大人気漫画の作者から見た社会的な課題感とその向き合い方について、伺いました。


●男性側の呪いについては、まだ描けていなかった

___『逃げるは恥だが役に立つ』は、9巻でいったんの完結を迎えましたよね。その後、あらたに、10巻、11巻の続編を描こうと思われたのには、どんな理由があったのでしょうか。

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海野つなみ先生(以下、海野):
「逃げ恥」の連載が終わった後、いろんな方との対談をさせていただいたり、男女共同参画センターでの講演などで地方をまわらせていただいて、専門の方とのお話をさせてもらう機会が増えたんです。
その時に、私はこれまで「女性にかけられている呪い」についてはずっと描いてきたけれど、そういえば、「男性側の呪い」については描いていないな、とぼんやり思ったんですよね。

___男性側の呪い、ですか。

海野:
仕事の面でも家庭においても、女性の生きづらさについては、ある程度女性同士で共有しているし、社会でもその認識が浸透してきたと思います。
でも、女性が大変な思いをしているときに、男性だけがパラダイスというわけはありませんよね。どこかに課題があるときに、それが女性だけの問題、男性だけの問題ということはないと、私は思うんです。

男性だって、辛いことやしんどいことがあって、それを一部の人たちに搾取されているのだけれど、女性に比べて、それを声に出しにくい現状がある。そもそも、当の男性自身が、そのことに気づいていない、というよりも、気づかないようにされている部分があると感じていました。

___なるほど、気づかないようにされている……。

海野:
私が一番根深いと感じるのは、男性が、男性の大変さについて自覚的じゃないところだと思います。
男性って弱音を吐く事をよしとしない文化で育てられていますよね。でも、その弱音の部分に大事な課題があるはずなんです。女性に比べて、それがなかなか表面に出づらかったのかなあと感じます。

もちろん、以前に比べたら、「男性の生きづらさ」や「男性にかかっている呪い」についても言及されるようになりましたし、男性学を研究されている方もいらっしゃるので、徐々に可視化されてきたとは思いますが、それでもやっぱり、まだ表立っていないところがあるなあって。

女性が抑圧されている部分は、そのまま、男性が抑圧されている部分につながっているはずですよね。
だから、もし続編を描くとしたら、そのあたりを描きたい。男性も女性も、両方で一緒によくなっていくことができないかなあ、と考えていました。

____では、「逃げ恥」をいったん完結された後、いろんな方の話を聞いて、生まれた続編なのですね。

海野:
でも、私、ずるいから。誰かが描いてくれるなら、それでいいやという気持ちもあったんですよね(笑)。
ドラマ「逃げ恥」の脚本家である野木亜紀子さんは、社会派ですから。野木さんががっつりやってくれないかな〜なんて、ずるいことを考えていたんですけれど(笑)。
最終的には、やっぱり、自分でやらなきゃダメか〜、みたいな。

●サポートするのではなく、一緒に考えてほしい

____続編は、2人に子どもができる話ですが、ずっと体調が悪いみくりちゃんに対して、平匡さんがパニックになるシーンなども出てきますよね。

海野:
家族に健康状態の悪い人が常にいる。自分もストレスがかかってくる。そういう時に、先輩となるロールモデルがあるわけでもない。そういう状況で、男の人たちは、どうしていいかわからなくなる。

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平匡さんにしてみても、ある程度女性に理解はあるのだけれど、そうはいっても完璧ではないというところはちゃんと描かないとな、と思いました。

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____たしかに、母親になる大変さはいろんな作品で描かれていますが、父親の物語は、あまり見たことがないなと、新鮮な感動がありました。

海野:
一番反響があったのは、平匡さんがみくりちゃんに「僕は全力でサポートしますので」と言うのに対して「そうじゃなくて、あなたも一緒に不安になって、一緒に喜んで」と言うシーンだったと思います。

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私の周りでは、女性からの「ほんまそれ!」という多数の声が。
どちらかが主で、どちらかがサポートするという関係ではなく、双方が一緒に考えていく問題なのだなあと。


●「名もなき料理」でいいんです

____10巻、11巻の2人の関係を見ていると、「食生活から生活が崩れていくんだ」というのが印象的でした。

海野:
食べ物関係は大事だなぁと思っているんです。
続編を描く前のとき、読者の方から、みくりちゃんの料理は品数が少ないって言われたことがあったんです(笑)。そう言われて「ええー、みんな厳しいなあ!」って思っていました。
SNSの写真でも、ご飯とお汁物の配膳の位置が違うのが気になりますとか。見る目が厳しいなあと。

でも、ちゃんと栄養がとれて、ちゃんと美味しかったらそれでいいんじゃないかなと思っていたので、それこそ、今回の10巻と11巻では、料理を楽にしてくれるホットクックのような調理家電も出てくるんですよ。材料を入れて、お塩をはかるだけ。

今は、「料理をしよう」と思ったら、レシピを検索して、材料を見てメモをして、買い物にいったりするけれど、昔の人たちって多分誰もそんなことしていなかったと思うんです。
お買い物にいって旬のものを買って、煮込むだけ、焼くだけ。そういった、「名もなき煮物」のようなものが、どの家庭にもあったはずなんですよね。

本当は、それでよかったはずなのに。もっとそういう心に戻れたらいいなと意識して描いていた部分があります。

____平匡さんが料理を始めて、どんどんできることが増えていくのも印象的でした。

海野:
たぶんレシピをたくさん覚えなきゃいけないということだと、嫌になっちゃうと思うんです。
そうではなくて、化学の方程式を頭の中に入れたら、何を買っても、その方程式通りに味付けをすればなんとかなる。
そういうのが男の人というか、平匡さん的には多分、楽だったのかな、って思います。

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私自身もホットクックを買って、勝間和代さんのブログを見て、「お塩0.6パーセントか! そうかー!」て思って作っていますから(笑)

後編に続く)

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このたびは、海野つなみ先生のインタビュー記事をご覧いただき、ありがとうございました。今後の運用の参考とさせていただきたく、アンケートのご記入をお願いできれば幸いです。

聞き手/佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。

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