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浅き川も深く渡れ

はじめまして、幹です。

今年の4月より飛騨市に移住し、地域おこし協力隊として活動しています。

飛騨市といえば、君の名はをイメージする方が多いかも知れませんが、それだけではありません。飛騨市は広葉樹林業の先進地として近年注目を集めている地域でもあります。

広葉樹のまちづくり事業という大きな枠組みの中で、私は広葉樹の需給コーディネーターとして広葉樹材の円滑な流通を構築することを目標に活動しています。

持続可能な山林管理を行い、次世代に向けて、資源価値や環境価値、文化価値の高い良い山を残せるよう、飛騨市一丸となってがんばっています。

さて、このNOTEで私がやりたいことは、これまで私が体験してきた自然の神秘や文化を整理し、改めて文章にして綴ることです。

そこで今回は、自己紹介というかたちで、私が山に深い関心をもつきっかけをくれ、いまも大事にしている3人の考え方を紹介します。

ワタリガラスの物語を追って

一人目はタイトルにも書いた言葉を遺した写真家、星野道夫さんです。

星野道夫さんの功績や、遺した問いかけというのは、いまさら語るべくもないので割愛しますが、遙か昔より訥々と繰り替えされてきた動物や自然の営みが、アラスカという広大な大地ではほんの一部分にすぎない一方で、そんな小さな部分の営みが全体の生態系を形作っているという関係性が写真と文章の中に垣間見られ、読んでいて震えました。

また、星野道夫さんはアラスカに住む人間にも焦点をあて、晩年にはアラスカのイヌイットに伝わるワタリガラスの神話を通して、イヌイットのルーツを探っています。そこには、現代人によるアラスカの資源開発や、現代的な土地所有制度と民族的な自然観との軋轢、都市部に流出していく若者など、古き良き時代と現代との間で起こる社会問題も語られていました。

こうした一括りにはできない全体性こそが自然なんだと気づかされます。

かつて狩猟民族が自然の中で独自の神話を育みながら生活をしていた環境や時代に、私たちは後戻りできないけども、今まさに失われようとしているそうしたものに立ち会わなければという危機感を星野道夫さんはもっていました。

限られた人生の中で、少しでも多くの自然の営みに立ち会えたらという一心で、私は山に関わり続けています。全体のなかの、ほんの小さな部分として。

センス・オブ・ワンダー

二人目はレイチェル・カーソンさんです。著書、沈黙の春で世に知られているため、環境保護活動家としての一面が注目されがちですが、もう1冊、センス・オブ・ワンダーという実に優しい目線にあふれた本を記しています。

彼女の姪の息子であるロジャーとともに過ごした自然の中での出来事を綴っています。センス・オブ・ワンダー、つまり自然に潜む神秘や不思議に感動し、楽しむ心の大切さを、ロジャーの純粋な反応を通して感じることができます。

外へ出るのよ。野原へ出て、自然と、日光の恵みとを楽しむのよ。自分自身の中にある幸福を、もう一度つかまえるように努めるのよ。あなたのなかと、あなたの周囲とにまだ残っている、あらゆる美しいもののことを考えるのよ。そうすれば幸せになれるわ!

3人目はアンネ・フランクです。

第二次世界大戦中、ユダヤ人に対する虐殺が平然と執り行われている世の中にあって、アンネもまたユダヤ人として匿われる生活を余儀なくされていました。外の世界からは隔離された狭く閉じた世界の中で、彼女は自身の文才を発露させ、思春期の心の動きのなかで感じた、人が生きていく上で大切なことは何かを、素晴らしい文章にして記しました。

勇気や愛情、友情、そういった精神的なものや仕事を通して自身の力を発揮したい希望とともに、自然のなかにある変わることのない美しさを繰り返し説いています。

閉じた部屋の中からかすかに見える青空や太陽に、彼女はどれほど励まされていたことか。人間によって簡単に失われてしまう繊細な生態系を構築している自然、その一方で太古より繰り返されてきた季節の巡り合わせのように圧倒的なスケールで訪れる自然。その美しさに希望を見いだし、どうしようもない人間の生んだ絶望的な状況と向き合っていた・・・。

もうどうしようもないなと感じたとき、アンネの言葉がどこからか聞こえてきます。自然に目を向け、その圧倒的幸福感を感じなさいと。

次の世代にバトンを渡すために

だから私は山に足を運びます。

限られた時間の中で少しでも多くの神秘に立ち会い、それを次世代に繋げていきたいと思い、山に向き合っています。

民族的な世界観の中での自然との関わりは失われつつありますが、科学的な知識・技術と先人たちのもつ知恵とを組み合わせた林業であれば、資源利用と文化的な関わり、生態系とのバランスを崩さず、持続可能な関わりができるのではないかと希望をもち、現在の仕事に至ります。

自然の営みを時間の許す限り味わい、ひとつでも多くの物語を自然から読み取りたい。そしていつか、満点の星空の下、焚き火を前にして、娘に伝えられたら…そんなことを夢想しています。

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