デジタル時代のセカンドブレイン仕事術(その1) - 生き残る仕事とクリエイティビティ
デジタル時代のセカンドブレイン仕事術: 急速に変わる仕事の環境で生き残り活躍するためには、なぜクリエイティビティが必要なのか。そしてどうしたら開発することができるのか、その方法について、3回のシリーズでお届けします。
今、私たちの働き方は急激に変化しています。何も政府がデジタルトランスフォーメーションだとか、新聞記事に言われるまでもありません。身の回りに起こりつつある変わりように必死で追いつこうとしています。
また、表立って言わないかもしれませんが副業をすでにしていたり、あるいは残りの人生を生き残るための収入の手段として検討している人が、水面下では急増しています。
私たちの仕事は、今大きく変わろうとしています。
しかし、これは何も今始まったわけではありません。
生き残る仕事、淘汰される仕事
振り返ってみると、20数年前、インターネットとパソコンの登場と急速な普及により、私たちの仕事の仕方がまるで変わってしまいました。社内文書は次第に減り、メールにとって変わりました。気がつくと、私たちの仕事の実際の作業は、パソコンの画面上でワードやエクセルで処理されています。
ほんの少し前、十数年前には、スマホとタブレットの登場により携帯電話と手帳が消えました。クラウドとブロードバンドでつながり、ノートパソコンも手軽になりいつでもどこでも仕事を持ち運べるようになりました。
そして最近の数年では、AI(人工知能)が彗星のように現れ、囲碁の達人を軽々と破ってしまい唖然としました。さらに、人間の職業を大量に奪うという研究レポートまで登場し、話題をさらっています。
これ、本当でしょうか?
このような大きな変化についての疑問は、歴史を紐解くと多くが見えてきます。
21世期へ突入する前後で起こったネットバブルで、置き換わった職業はどのようなものだったかを研究したレポートがあります。それによれば、この時期を生き残ったのは、知識や長年にわたる高度教育から得られたスキルではありませんでした。
新しい情報技術にに置き換えられたのは、低いレベルのスキルではなく、高度な教育を受け、複雑で人間とのコンタクトを必要とするような仕事でした。
そして生き残ったのは、単なる情報を処理する能力ではなく、情報や知識を深く掘り下げ、独自の解釈や新たな視点を提供するものだったというのです。
もし機械でできる仕事をしているのであれば、機械に置き換えられるのは当然です。
ジョージタウン大学のコンピュータ工学教授のカル・ニューポート氏は、「深いレベルでの思考をともなう仕事 − これまでの教育やトレーニングを生かして希少価値の高い成果を生むことができる認知思考の活動、により多くの時間を割く必要がある」と結論しました。
これは一体、何を指しているのでしょう?
私たちは、深いレベルでの思考から生まれる希少価値の高い成果に対して畏敬の念をもって「創造的である、クリエイティブである」という表現をします。
これは、AI(人工知能)で可能でしょうか?
最近のニューヨークタイムズの記事では、1人の人間の脳の神経回路の総体は13億テラバイトであり、全世界のコンピュータ総合計26億テラバイトの半分に相当するとのこと。これは、人間たった2人で全世界の記憶量を使ってしまい、処理のためにも使えないほどしかないというのです。
また別の研究では、人間の脳のシミュレーションをするには、世界4番目のスーパーコンピュータでも40分必要と言われています。したがって、全く比較にならないことがわかります。
人間の脳は、スーパーコンピュータやAI(人工知能)を凌駕する能力があり、クリエイティビティを遺憾なく発揮する可能性を秘めています。
デジタル時代のセカンドブレイン仕事術: クリエイティビティとは何か
では、高いパフォーマンスを可能にする創造的活動とは、一体何なのでしょう?
これに答えるには、「クリエイティビティ(創造性)とはなにか」という議論が必要となります。
通常、「創造性はオリジナルな視点から生まれる」と言われます。
それ、本当でしょうか?
クリエイティビティ(創造性)については、国内外を問わず、多くの視点から語られています。
ナンシー・アンダーソンはThe Atranticで「創造性の高いクリエーターは、多様な情報の関係性を理解し、複数の情報間の連携性やつながりを見つけることに長けている」と表現しています。
また例えば、最近のNHKのドキュメンタリーに「レオナルド・ダ・ビンチ」に関するものがありました。この稀代の天才のクリエイティビティを疑う人はいないでしょう。この天才科学者であり芸術家は、生前に驚異的な量のメモ書きのノートを残していました。
Leonardo da Vinci’s とParis Manuscript
ダ・ビンチは、日頃の自然や身の回りのあらゆる出来事や気づきをメモし、几帳面に書き残していきました。そして、その膨大な情報の中から、つながりを見つけ、ここから膨大な時間と試行錯誤を費やして、新しい作品や発見へとつながっていきました。
彼のクリエイティビティついては、誰も疑問を呈する人はいないでしょう。
さて、お話をもう少し現代に近づけましょう。
日本経済が高度成長期の入り口を迎えた頃、このダ・ビンチノートに注目した有名な学者がいます。
それは、京都大学で教鞭をとっていた民俗学者の梅棹忠夫氏です。1969年、今ではクラシックとなった伝説の書籍「知的生産の技術」を世に問いました。
知的生産の技術と梅棹忠夫
当時はまだ考え方すらなかった「情報化時代」という言葉を最初に使ったのも梅棹氏です。
梅棹氏は、ダ・ビンチのノートを模倣することから始めました。しかしこのノートが書き込んだ順番でしか表示されず、組み替えができずに困っていました。これをカード式にしたところ、並べ替えが自由にでき、新たな発想へとつながっていったのです。
モンゴルへ民俗学の研究に出向く際に、その後「京大式カード」と呼ばれるカードによる情報収集と管理の方法を生み出しました。このシステムから次々と画期的な研究成果を出し続けました。
京大式カード
海外にも同じようなカードによる情報整理の方法はありましたが、彼の提唱した方法は、世界的に見ても画期的でした。
まさしく、「クリエイティブ」な仕事をしたのです。
このころは、梅棹氏以外にも、加藤秀俊氏の「整理学」や川喜多次郎氏のKJ法「発想法」、外山滋比古氏の「思考の整理学」など、次々と画期的な考え方や手法が生まれていきます。
「知的生産の技術」を読むと、当時の時代背景が見えてきます。この時代は高度成長が始まったばかりで、情報は多くの部分で紙に印刷され、テレビやラジオを除けば、本や雑誌、新聞などが中心に伝わりました。
仕事も紙の上で展開していました。フォルダやキャビネット、バインダーなどの文書管理ツールが開発され、急速に官庁やオフィスに普及していったのです。
古い年代の人であればよく覚えていると思います。(稟議書は紙で印刷され、管理者や経営層のはんこを押して各部署を回っていきました。)
今、必要とされるクリエイティビティとは
では、今の時代はどうでしょう?
先ほどのお話にもあったように、私たちはネットワークでつながり情報はインターネットやSNSで瞬時に拡散します。情報は全てデジタル化され増え続けています。
それがTwitterであれ、フェイスブックであれ、あるいはラインニュースやYahoo!ニュースであったとしても、情報はランダムに現れ、タイムラインを次々と流れていきます。その爆発的な増殖はとどまることを知りません。
私には、これは梅棹忠夫氏が「京大式カード」を生んだ背景と同じに見えてきます。
今必要なのは、「デジタルとなった情報からいかに価値を生んでいくか、クリエイティブな仕事をするか」ではないでしょうか?
カル・ニューポートに戻ると、「歴史的な観点から言うと、製造現場の熟練した労働者に比較して、ナレッジワーカーは、システム的改善のカルチャーに欠けている。」と言っています。
知識やナレッジに付加価値をつけるのがナレッジワーカーの仕事です。
しかし、これは長期間かけて築き上げた重要な資産であるにもかかわらず、ナレッジベースとして管理するシステムを持っていません。これは通常の経営的視点からは許されることではありません。
毎回毎回、貴重な資産である時間を使ってゼロベースから準備をしなければならないという状況は、通常の生産現場ではありえないのです。
考えてみれば、知的生産の技術と情報の整理学は、「紙の時代の考え方でありアプローチ」です。
これをどうデジタル化が急速に進む、働く環境が急速に変化する中で活用するのか。
また、ダ・ビンチがノートを使ったように、梅棹氏の情報カードをデジタルの世界で創造性を発揮する手段にする方法はあるのでしょうか。
デジタル時代のクリエイティビティとは
通常、「創造性とはオリジナルな視点から生まれる・・・」と言われます。
これは、本当でしょうか?
実は調べれば調べるほど、意外な事実関係が出てきます。
これに答えるためには、「デジタル時代に高いパフォーマンスを発揮するクリエイティビティとは何か」という問いに答える必要があります。
そして、AI(人工知能)や最新技術に仕事を奪われるのではなく、逆にデジタルを使いこなしてクリエイティビティをさらに高める方法も必要です。
次回は、デジタル時代のセカンドブレイン仕事術(その2) として「デジタル時代のクリエイティビティ」を深く展開していきます。
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Evernote(第2の脳): クリエイティビティを創り出す方法
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