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地域で楽しく過ごすためのゼミ 23年8月

 2023年8月28日、地域で楽しく過ごすためのゼミが開かれました。

 今回の課題図書は『芸術を誰が支えるのか』(編著:橋本裕介 2023年 京都芸術大学 舞台芸術研究センター)です。担当は渡辺です。
この文章では、実際にゼミで使用した要約文章を一部修正したものを掲載します。

〈以下要約〉


〈本の概要〉

 筆者の仕事はアートマネジメント、舞台芸術の制作である。本書は、これからも舞台の仕事を続けたいと考えた筆者が、海外研修制度を利用し、アメリカに滞在して、その文化政策について調べた内容をまとめたものである。1年という限られた期間であったため、拠点をニューヨークとし、ファンドレイジング(資金調達)という観点に絞っての調査となっている。

〈選定の理由〉

 以前のゼミでも触れられたが、米国では、政治と社会を区別し、その上で政府を必要悪とし自治を尊ぶ─小さな政府の思想が強い。そして、自治を具現化する慣習・制度として、寄付文化を外すことは出来ない。しかし、日本在住者にとって、これらの実体は想像することも知ることも難しい。本書では舞台芸術に携わる様々な立場の人々のインタビューを通じ、米国の寄付文化を多面的に紹介する。米国の寄付文化は、芸術だけに限ったものではない。本書で得られる知見は、地方自治や地方創生を考えるうえでも有用だろうと考えた。

〈全体の構成〉

 本書は5つの章で構成されている。
 内訳は、問題提起となる第1章、そして寄付文化を構成する3つのプレーヤーを1章ずつ紹介していく第2~4章、そしてまとめの第5章となっている。第2章は支援される芸術団体、第3章は支援する財団、第4章はそれらの仲介を行う中間支援団体が取り上げられている。
 この順番となっている意図は明示されていないが、筆者が様々なインタビューを通じて、次第に中間支援団体の存在に気付いたという時系列の反映であり、また筆者自身が、日本においても中間支援団体の存在が重要になると考えており、それを印象付ける意図も含まれるように感じられた。

〈各章節の要約or抜き出し〉

※インタビュー等は要約が難しいため、担当者が重要と感じた点を抜き出してまとめた
※論考や対談など、一部は資料があまりに長くなるので割愛した

第1章 京都/日本/アメリカ

①なぜアメリカの文化政策なのか

 あいちトリエンナーレ2019における『表現の不自由展・その後』が起こした議論は、芸術関係者と一般市民との間に、文化芸術政策についての意識の乖離があることを明らかにした。この乖離は、「芸術」の社会的位置づけ、そして、それを「誰が」「どのような方法で」「なぜ」支えるのかという議論が長年放置されてきた事が原因だと考えられる。
 「寄付大国」と言われるアメリカにおいて、芸術は政府ではなく民間の支援によって支えられている。そして、それは既に1990年前後に「あいトリ」で生じたような議論を通過したうえで形成されている。アメリカ芸術界の生態系には、日本の今後の文化政策を考えるうえで注目すべきものがある。

②日本の文化政策における諸問題─私自身の経験から

 日本における、企業の文化支援活動は、1980年代には「スポンサー」活動という形で始まり、バブル後半の90年には、社会貢献を含意する「メセナ」がとって代わることになる。同年には、国による芸術文化への公的助成制度も開始された。2010年代には文化庁大型補助金が開始され、多くの芸術祭が誕生する事となった。しかし、日本の文化政策には、調査データや事業評価などに基づき文化政策を立案する実証主義が欠けており、過去の検証を踏まえずにその場しのぎの政策が実施されている。そして、支援される側もそれに流されているだけに留まり、日本の公共文化政策は様々な問題を曖昧にし続けてきている。アメリカの文化政策は、実証主義の点でも、制度の面でも日本と異なっており、学ぶ点は少なくない。


第2章 どのように資金調達するのか─アメリカの芸術団体の生存本能

〈総論〉伝統的なセオリーと新たな手段の開拓─社会の変化と共に

 「小さな政府」を志向するアメリカでは、多くの公的サービスが、民間支援で支えられている。2020年には、慈善寄付=フィランソロピーは約51兆8千億円になり、その69%が個人による。また寄付のうち5%(2.6兆円)が芸術分野へと配分されている。
 芸術団体の収入のうち24%が個人寄付で、企業、財団、行政からは5%弱に過ぎず、個人寄付が関心事となっている。資金調達方法は体系化されてきており、聞き取りの結果、理事会、マーケティング、関係づくりの3点が重要だとわかった。ただ、新しい状況や実践も存在しており、芸術団体は自分たちのミッションが誰のどうような企図をもった資金によって支えられうるかを絶えず探求している。

【レポート】資金調達の王道─メトロポリタン・オペラの事例

メトロポリタン・オペラ(MET)
1883年に創設された、アメリカ合衆国で最も伝統のあるオペラ・カンパニーのひとつである。オペラをアメリカに根付かせるために尽力した出資者たちは、カンパニーの専用劇場を建設、彼らが毎年一定の金額を拠出して総裁を雇い、オペラ上映を行っていた歴史を持つ。

(P.69)

まとめ
 METの職員数は約3000人、常勤職員は約700人。うちディベロップメント部門(※1)に42人おり、MET運営予算3億ドルのうち1億5千万ドルを調達している。その大半(約9割)は個人寄付である。部門は7チーム─小口(2.5万ドル以下)寄付、大口(2.5万ドル以上)寄付、政府、企業、財団、イベント、計画贈与(※2)─に分かれている。イベントチームは、ガラ・パーティー(※3)やカルチベーション(※4)など、支援者との関係を深める活動全般を担当している。彼らは、人間関係を築き、資金を求めるための専門知識を身につけるとともに、膨大な量の寄付の記録を、いつでも遡ることが出来るようにデータ管理することで、具体的で効果的な活動(※5)を可能としている。しかし、その基盤には、アーティストや作品のファンを増やし、組織自体への愛着を深めていくことに向けた努力がある。

※1 ディベロップメント
 『寄付者(個人・法人・助成団体・政府等)との長期的かつ継続的な関係性を作り上げることを意味する。』 (P.354)
※2 計画贈与(Planned Giving)
 『年ごとの寄付とは別に生前に寄付者から遺贈の約束を取り付けること、そして寄付者にとっては生前に計画的に行うことのできる寄付の事を呼ぶ。』(P.354)
※3 ガラ・パーティー
 ガラ・パーティーとは特別なパーティーを意味する。METでは『年に5~7回程度、基本的に公演初日の夜に開催して』いる。『年間7万5千ドルを寄付した特別な支援者』は『どの演目でも特等席で案内』したり、『著名なアーティストを集めた夕食会にも招待』する(P.77)
※4 カルチベーション
 『新規の募金活動の場合には新たに、既存の寄付者の場合には引き続き、かつ前回よりも大きな規模で寄付してもらえるよう、寄付者の関心を掘り起こす活動』(P.355)
※5 効果的で具体的な活動
 チケット購入の案内や、ディナーやオペラへの招待など、内容は多岐に渡る。関係が深まったと判断した時に、初めて寄付を依頼する。寄付情報やチケット購入情報は紐づけて管理されており、どのタイミングで何をすると効果的かが判別できるようになっている。


【インタビュー】

ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック(BAM)

ブルックリンにある舞台芸術複合文化施設で、設立は1861年に遡る。オペラハウス(2098席)、中劇場(837席)、小劇場(250席)を擁し、演劇、ダンス、オペラ、音楽、映画など多種多様な作品を紹介するニューヨークを代表する劇場の一つ。

(P.85)

名誉総裁 カレン・ブルックス・ホプキンス
 
大学卒業後、ワシントンD.C.の劇場に勤務。1979年にBAMの資金調達部門のデベロップメント担当職員として採用。その1年後、29歳の時に、デベロップメント担当の副社長が退職し、その後任として採用。やがてBAM全体の副総裁に就任し、99年に総裁の引退を受けて総裁を引き継ぐ。2015年に総裁を退任し、名誉総裁となる。

まとめ
 資金調達には綿密な計画が必要であり、支援者の属性ごとにプランを組み、ガラ・パーティーや特別イベントの開催、政府からの資金調達など、目標達成にためには、あらゆること(※6)を行う。資金調達スタッフは30人ほどで、BAMの予算は約5千万ドルのうち3千万ドルを資金調達によっている。初期は助成財団からの調達が多かったが、成功を収めるにつれ、富裕層の個人支援者が多くなり、退任時にその割合は最大となった。
 芸術分野に限らずとも、成功を目指すのなら、その国のルールを受け入れる必要がある。米国で言えばそれはフィランソロピーであり、その根源にある資本主義である。お金は持っている人から集めるほかなく、広範なキャンペーンを行う事で複数の資金源(企業、財団、政府、富裕層など)からお金を集めている。

※6 あらゆること
 カレン氏は、各種の年次報告書や、資金調達情報、新聞を読み込むことで、お金の有りそうなところを調査し、情報を得ては多くの人との面会を繰り返すことで、資金調達先を確保した。
 またBAMは現代的な視点を反映した作品に特化することで、ブルックリンのブランドを形成し、他の芸術団体を呼び寄せる結果につながった。また住宅開発、商業開発、教育開発、そして文化開発などにも携わることで、文化地区としてブルックリンのアイデンティティを確立させた。結果、ニューヨーク市から、資金だけでなく、BAMの建物を市の持物にするなどハード面での援助も引き出すことに成功している。


アポロシアター

ニューヨーク・ハーレムにある劇場。1930年代以降からはしばらくアフリカ系アメリカ人アーティストを雇用する唯一の劇場であり、“黒人文化”の象徴的な場所として世界的に知られている。様々なプログラムの中でも34年に始まる「アマチュア・ナイト」は有名で、~中略~数多くの伝説的ミュージシャンが輩出されてきた。演劇やダンスのプログラムも充実している。

(P.99)

チーフ・ディベロップメント・オフィサー ドナ・リーバーマン
 アポロシアター勤務以前は、ニューヨーク植物園やニューヨーク市立博物館、ニューヨーク・シティ・バレエなどに在籍。プロダクションマネージャーや舞台監督などを務める。当時勤めていた、非営利劇団が資金調達に失敗しつぶれた経験がきっかけとなって、アポロシアターの資金調達の職に就く。

まとめ
 アポロシアターはその成り立ちから、「機会の提供」と「音楽」を重視しており、近年は“黒人文化”の紹介もそこに加わっている。この理念自体を支持してくれる人から資金をもらう事にしており、近年はアフリカ系アメリカ人の支援を表明して資金提供する企業も増えている。
 デベロップメント部門には9人が在籍しており、個人、企業、財団、政府担当と、イベント担当、全般アシスタント、データベース担当がいる。支援者の利益とこちらのニーズの一致点(※7)を見出す事、そして長期間伴走してくれる関係を築くように努めている。
 芸術の公共的な意義は、教育や経済発展の観点から語られる事が多い。しかし、真の意義は、私たちより長く生きて、私たちが誰であったか、そして誰でありたいかを伝えてくれることにある。

※7 一致点
 
一般的には、その芸術が好きだとか、権威ある団体に寄付することでステータスシンボルを得たいというパターンが多い。しかし、アポロシアターは、アフリカ系アメリカ人コミュニティのシンボルとなっており、地域社会の重要な一部であり、自分たちの遺産の重要な一部として存続してほしいと考えて寄付する人がいる。また、アーティストと一緒にいることで、自分とは異なる考え方に触れる機会を持ちたいと考えて寄付する人もいる。


ニューヨーク・ライブ・アーツ(NYLA)

身体表現やライブ・パフォーマンスにフォーカスしている芸術組織。チェルシー地区に、184席の劇場と2つのスタジオを拠点施設として保有し、数多くの作品の制作や発表の場となっている。アメリカのダンス界の代表的存在であるビル・T・ジョーンズ/アーニー・ゼイン・カンパニー(1982-)と、ニューヨークのダンスシーンを牽引してきたダンス・シアター・ワークショップ(DTW、1965-)が2011年に合併し、現在の組織形態となっている。

(P.115)

チーフ・ディベロップメント・オフィサー デーヴ・アーチュレッタ
 
幾つもの芸術団体のエグゼクティブ・ディレクターや資金調達を務めてきたほか、インディペンデントの音楽家としても活動。2005~8年にかけてはビル・T・ジョーンズ/アーニー・ゼイン・カンパニー(以下カンパニー)で働いた経験も持つ。ベルリンでの生活を経てNYLAに戻ってきた。

まとめ
 ビルとアーニーは共にパフォーマーで、異人種かつゲイのカップルである。その二人が作ったのがカンパニーである。一方、DTWはダウンタウンに劇場を所有しており、ビルのキャリアスタートの場であった。カンパニーが劇場を持っておらず、またDTWの財政が赤字続きであったため合併されることとなった。
 ディベロップメントチームは5人(責任者、個人寄付・特別イベント、アシスタント、機関寄付×2、)で、エグゼクティブ・ディレクターが主導し、チームがサポートしている。資金の3/4が個人寄付で、事業収益も含めれば80%以上が個人による。
 個人の資金調達においては、寄付の対価を理解することが重要である。寄付によって得られるものは、人生の目的意識と充足感である。人々が目的意識を与えてくれるものが何かを考える手助けのつもりで資金調達を行っている。


インヴィジブル・ドッグ・アート・センター(IDAC)

2009年、ルシアン・ザヤンにより、ブルックリン地区の工場跡をリノベーションして設立された、現在ニューヨークで最も注目される領域横断型アートスペースの一つ。1階は~中略~展覧会や上演のスペースとして活用されるほか、2階と3階には30以上のアーティストのスタジオがある。

(P.127)

ディレクター ルシアン・ザヤン
 フランスの国立劇場や国立フェスティバルで演劇やオペラ関係の仕事を担当。2008年、突如仕事をやめて9か月間欧州を旅行したのち、ニューヨークに滞在する。その際に、後にセンターとなる建物を発見する。そこでセンターの着想を得る。一旦フランスに帰国し、そこで企画書を書き、大家の承認を経て、再度ニューヨークに戻り、センターの運営を開始する。2022年にフランス政府から芸術文化勲章シュバリエを受勲する。

まとめ
 IDACはあらゆる芸術表現が交差する領域横断的スペースを目指しており、多様性という点では群を抜いている。支援者との関係構築のために、小規模な食事会やクラウドファンディングなどを行っている。IDACの資金調達で特殊な点は、不動産収入を持っていることである。スタジオの貸し出しや、1階のポップアップストア、Airbnbなどを運営している。
 人々が芸術に寄付するのは、単に芸術を愛しているからだと考えている。そもそもフランスには寄付の文化はなく、寄付について学ぶ必要があった。
 欧州と米国は異なるシステムで動いており、その国のやり方を受け入れなければならない。しかし、出資者がお金を出す判断をするという点では全く同じプロセスであり、単に出所が違うだけのことであると思う。それぞれの国に異なる歴史があり、他との比較は難しい。


チョコレート・ファクトリー・シアター

1995年に共同作業を始めたアーティストのシーラ・レヴァンドフスキとブライアン・ロジャースの二人が設立したアートスペース。それまでアートと縁遠かったクイーンズ地区を拠点とすることで、地域社会とも密接な関係性を結んでいる点に特徴がある。現役のアーティストが直接運営に関わりながら、芸術政策における労働搾取等の問題にも目を向け、独自の取り組みを実践している。

(P.141)

共同創設者/芸術監督 ブライアン・ロジャース
 1995年にニューヨークにきて、シーラと共に作品制作を開始する。当時はDTWで働いており、そこで舞台芸術のアーティストからなる大きなコミュニティとの関係を形成する。既存の劇場での発表の機会を得ることが難しかったため、自分たちのスペースを持つことを決意し、チョコレート・ファクトリーを始めた。コミュニティとのつながりがチョコレート・ファクトリーの独自性の確立につながった。

まとめ
 チョコレート・ファクトリーのあるクイーンズは、それまでに芸術的な活動が少なかったため、地域から多くの支援を得る事が出来た。現在では地元の政治にも積極的に参加し、地域社会の問題解決に貢献することで、地元や行政との協力関係(※8)を築けている。
 資金の割合は民間財団からのものが最も多く76万6千ドルである。裕福な個人支援者の数が少なく、少額寄付の個人支援者が多い事を誇りに思っている。
 チョコレート・ファクトリーが他の団体と異なるのは、現役のアーティストにより運営されている事で、これにより外部アーティストとコラボレーションに近い形でプロジェクトを行えることである。そして、もう一つが、報酬をアーティストだけでなく、アーティストの雇ったスタッフにも支払う点で、これにより労働搾取を防止している事である。

※8 協力関係
 チョコレート・ファクトリーが出来たことで、市外から来た人々が、その地域のレストランで夕食を取るようになり、周辺のコミュニティとの強い関係を築くことが出来た。また、地域の50以上のレストランが集まる食のイベントを開くことで、地域への謝意を示すとともに資金調達につなげている。逆に、政治家や行政からは、チョコレート・ファクトリー移転の際に援助をもらう事に成功している。


【論考①】塩谷陽子「アメリカの非営利法人《501(c)(3)》とは?─『非営利』の概念と仕組み、その活用様式」

 501(c)(3)とは、税法上の分類コードの事である。このステイタスを持つ団体は、非営利、非課税、そして、この団体への寄付が控除される特徴を持ち、「チャリティ的、宗教的、科学的、教育的等の目的」で公共の利益になる様な活動を行っている。なお、本書が取り扱う芸術分野はチャリティ的にあたる。
 このステイタスは、取得と維持に高いハードルを有しているが、このハードルは社会的な信用も生み出すものであり、イメージアップを期待する企業からの協賛にも繋がっている。このステイタスの税制面での優遇措置と縛りは、その団体に使命感を意識させ、同時に、社会の中に非営利と営利の間の明確なモラルを敷くのに役立っていると思われる。


第3章 「資金を提供する」ための思想

〈総論〉なぜ芸術に資金を投じるのか─その理想主義と功利主義

 アメリカ合衆国は、イングランドから逃れてきたピューリタンが、社会契約と自治社会の理想を持ち、政府によらず自らの手でコミュニティを作り上げてきた。そのため、アメリカでは、税金をいかに払わないかという観点で社会制度が議論されており、本章で扱う民間財団もその一例である。
 現在、全米には民間財団が9万あり、主要な千の財団の芸術関連への助成は、総額30億ドル弱で、助成全体の7~9%を占める。芸術分野の傾向として、上位25団体の占める寄付割合が30~40%を占め、大型助成の出来る少数団体が、助成額の半分を支えていることが挙げられる。民間財団は、様々な規則に従う代わりに大きな裁量が与えられており、アメリカの文化政策を実質的に形づくるプレーヤーとなっている。

【インタビュー】

ドリス・デューク財団

タバコ産業と電力産業で巨万の富を築いたジェイムズ・ブキャナン・デュークを父に持つドリス(1912-93)の意志により、その遺産を元に1996年に設立された。ドリスはその死に際して、財団の活動に対して明確な指針を書面で残した。それに基づき、舞台芸術、環境保護、医学研究、児童福祉等への助成プログラムを運営するほか、自然と人間の共生を目指した「デュークファーム」やイスラム美術を扱った「シャングリラ美術館」を運営している。

P.177

チーフ・プログラム・オフィサー モウリーン・ナイトン
 ミネソタ州のツインシティを拠点とするペナンブラ劇団のマネージング・ディレクターとして現場で働く。その後、ブルックリンを拠点とする651アーツというプレゼンターのエグゼクティブ・プロデューサーで芸術団体の運営に携わった後、アッパー・マンハッタン・エンパワーメント・ゾーンにスカウトされ、フィランソロピーに携わるようになる。2016年にドリス・デューク慈善財団に参画する。

まとめ
 舞台芸術の新作が業界の生命線になるという考え方から、新作の制作と流通に対する支援を行っている。また、アーティストが実際に関心を持っている事に資金を投じるべきと考え、使途制限を設けていない。
 支援団体の選定は、直接選ぶ場合と、中間支援団体を通す場合の2通りがある。中間支援組織は、知識、ネットワーク、人間関係を持っており、優れた判断をしてくれるが、我々が適切に判断できるケースもあると考えているためである。また、財団は、社会正義が活動の根幹にあるべきと考え、組む中間支援組織もそれを念頭に選んでいる。
 芸術は本来日常生活の中に組み込まれているものである。芸術への参加が、コミュニティに良い影響を与えるという研究も出てきている。芸術が他の公共セクターと同程度の地位を得ることは難しいが、より良い地位にしたいと思っている。


全米芸術基金(NEA)

アメリカ合衆国連邦政府が、芸術活動に対する公的支援・助成を目的とした独立機関として、1965年に設立。冷戦下の当初は、ソ連に対抗して合衆国の幅広いアートをアピールする国策と密接に連動していたが、80年代末から90年代にかけての「文化戦争」では、芸術表現の自由をめぐる保守派の反対によって大幅な予算削減にあうなど、助成内容をめぐって常に論争が生じてきた。

P.191

州・地域・地方および国際活動担当ディレクター マイケル・オルロフ
 シカゴ市の文化局で、20年間にわたり市のコンサートやフェスティバル、イベントを企画する仕事に従事。すべての市民が楽しめるような文化イベントを提供するプロデューサー側の立場で関わる。2012年にシカゴからワシントンに移り、NEAで働き始める。上演・展示&領域横断的活動部門、アーティスト部門のディレクターを務めた後、現在のポジションに移る。

まとめ
 NEAは公的芸術助成団体として、全てのコミュニティへの関与を保証する必要がある。ただし、公的であるがゆえにサポートに限界があり、特定の社会問題に特化して対処することは難しい。例えば、自分のキャリアの中で不採択になった申請は無いが、政府が支援したいと思うような内容の方が良いとアドバイスするし、そのような内容の申請が送られてくるのも事実である。
 芸術は一般的に職業として認識されていないが、教育や公衆衛生など、他の公共部門と同様のものと捉えられるようになるのが目標である。芸術関係の仕事もまた、他の職業と同様に重要で、専門職である。NEAでは、経済的な分析から芸術の生産性を実証し、芸術が地域社会の雇用に責任を負いうるものだと証明しようとしてきた。自分にとって芸術は「私たちそのものである」と考えている。


ブルームバーグ・フィランソロピーズ

金融・ビジネス情報を世界配信するブルームバーグL.P.社の創業者であり、ニューヨーク市長も務めたマイケル・R・ブルームバーグにより設立された国際的な慈善団体。「芸術」のほかに、「環境」「教育」「ガバメント・イノベーション」「公衆衛生」の5部門の助成プログラムを持ち、世界173国941都市に総額16億6千ドルの支援を行っている(2021年度実績)。アフリカ系アメリカ人の福祉向上にも力を注いでいる。

P.203

芸術部門 ケイト・レヴィン
 マイケル・ブルーム・バーグが市長だった2002~13年に、ニューヨーク市の文化局コミッショナーを務める。それ以前も文化団体で働いたり、大学教授をしたり、前市長のエド・コッチのもとで行政の仕事などを行う。その後2014年にブルームバーグ・フィランソロピーズに着任する。団体の芸術領域を担うチームの監督と、世界17都市に芸術関連のコンサルティング業務を行っている。

まとめ
 支援では地方自治を重視し、首長の考えや地域のアイデンティティを中心に据えている。あるプログラムは、中小規模の団体が多い都市に対して、そこで共同体形成を援助する形で進めている。対立するより協力する方が魅力的になり、より良い支援にもつながると考えている。また、中小規模の団体が不得意なマネジメントなどのトレーニングを行う事で、互助のシステムにも繋がっている。才能ある組織に力を与え、ツールや戦術を増やし、活動し続けるサポートをする事を重視している。
 交通局が道路を直すように、芸術分野にも公的な意味があるが、一般的にそう見られていない。ただ芸術には協働という考え方があり、様々な人々も巻き込むことが出来る。そして人々とのやり取りを経れば、なぜ芸術に公的な資金を提供すべきかを理解してもらえると思う。


アンドリュー・Wメロン財団

『1969年に設立された、ニューヨークを拠点とする助成財団。2020年末における基金総額は約82億ドル、年間助成額は4億ドル超。「芸術と文化」「高等教育」「場の人文科学」「公共知」の4つのコア・プログラムを持ち、よりつながりのある、創造的で公正な社会に貢献するアイデアや組織を支援する助成を行っている。』

P.217

元プログラム・オフィサー スーザン・フェダー
2007年に、ドン・ランデルが第5代理事長を務めていた時に財団に就職。パフォーミング・アーツ・プログラムの運営を担当する。

まとめ
 資本主義は財源となる収益を生み出す一方で、社会に格差をもたらすという指摘がある。十分な答えになるかはわからないが、我々は長い時間をかけて知恵を絞り、より公平になる様に軌道修正してきた。お金の流れにもっと責任を持つという道徳的な義務を果たすことで、それに応えてきた。資金調達の方法に正解はなく、幅広い視点が必要だと思う。
 助成金の効果を測るのは難しいし、どのような形で資金提供を行うのが良いかもわからない。この財団では、作品制作に対する資金を減らし、プロセスを重視し、アイデアや実験する時間を与えられるような形で助成している。
 歴史的に個人の寄付は、市民としてのプライドと切り離せない。支援者はコミュニティの一員であること、コミュニティの幸福に寄与する事から、個人として大きな社会的誇りを得ている。


第4章「再分配(リ・グラント)」による支援の最大化/効率化─「中間支援組織(インターメディアリー)」が果たす役割

〈総論〉 アーティストの存在そのものを尊重する支援─アーティスト・リリーフ、ベーシックインカムの背景

 芸術団体と支援団体には共有できる大きなヴィジョンはあるものの、具体的なアプローチにおいて思惑が一致するとは限らない。そうした不一致を架橋する存在が中間支援組織である。中間支援組織の多くは基金を持たず自ら資金調達を行い、それを再分配する事で芸術支援を行う。大型の支援財団では難しい、きめ細やかな支援を柔軟に行っている。その組織の在り方は、現場のニーズからのボトムアップを促進し、大きな組織にも影響を与えている。現在のアメリカの状況を形づくってきたのは芸術側の努力であるが、その信頼性の橋渡しとして、中間支援組織は重要な役割を果たしており、結果として、芸術の多様さ、実験性を保証している。

【インタビュー】

クリエイティブ・キャピタル(CC)

1999に設立された中間支援組織。いわゆる「文化戦争」の結果として、全米芸術基金(NEA)がアーティスト個人への助成の大半を打ち切ったことを受け、当時アンディ・ウォーホル美術財団の理事長であったアーチボルド・L・ギリーズにより設立された(この出来事については小崎哲哉氏〈論考4〉を参照)。全米規模の公募制を通じて、ビジュアルアートや舞台芸術、テクノロジー、映画/映像、文学、ソーシャルエンゲージメント、複合領域で活動する個人アーティストに特化した多様な支援を行っている。

P.257

代表取締役社長 クリスティアン・クアン氏
 美術史と詩を学んだあと、ニューヨークで20年以上、芸術関係の商業団体や非営利団体で働く。出版やテクノロジー、教育の分野でもキャリアを積み、2021年3月にCCに着任。

まとめ
 CCのミッションは、新しい作品制作のための資金提供である。開業資金に近い意味合いで助成金を提供し、外部の様々な専門家による支援(※9)も提供する。成功を収めたアーティストにはCCに寄付してもらい他のアーティスト育成につなげている。またアーティストが理事会や公募の外部審査員などと接点を持てるような機会を設けている。結果として、支援し合う強力なコミュニティを育んできた。ただし、CCには基金がないため、毎年資金調達しており、その90%は財団系からとなっている。
 米国の税制が、米国の文化的生活の活気に繋がっている。しかし、政府に頼らざるを得ない場合もある。芸術というものは私たちの生活の質を高めるために不可欠であり、私たちが一丸となって、そのことを一般の人々に伝える方法を探し出すことがとても大切だと思う。

※9 様々な専門家による支援
弁護士、会計士、映画プロデューサーなどによる、法律、財務、戦略的計画等に関する指導。


マップ・ファンド(MAP)

『1988年にロックフェラー財団により設立(当初はMulti-Arts Production Fund)。革新的なパフォーマンス作品のための民間資金源として、最も長い歴史を持つ。2016年に独立組織へと移行。人種的不平等、性的不平等、経済的不平等をめぐる社会正義の問題に高い関心を持ち、助成プログラムの内容だけでなく、審査・選好プロセスにおいてそうした格差が反映された美学的変更を排除するシステムづくりにも積極的に取り組んでいる。』

P.271

助成・リサーチ部門ディレクター ローレン・スローン
 幼少期よりダンスを学び、パフォーミング・アーツ専門の高校に進学、しかし3年生の時に怪我をし、断念する。その後、宗教学と哲学を修了し、非営利の学校で子供にバレエを教え、最終的にその学校の芸術監督に就任。知識に限界を感じダンスパフォーマンスと振り付けの修士課程に進学し、大学院に所属しつつアンドリュー・W・メロン財団の事務局フェローに招聘される。卒業後はMAPのプログラム・アソシエイトのポジションに就任する。

まとめ
 MAPは文化戦争への応答として設立された。助成プログラムは基本的に創設時から変わらず、芸術制作の慣例に挑戦しようとするパフォーミング・アーティストの活動や生活を支援するものである。申請と審査のプロセスも、発表会場や制作場所の監督が決めるという従来の方式に挑戦しており、アーティストや芸術関係者のピアレビュー形式としている。助成がアイデア探求の原動力になる事を意図しており、使途も限りなく自由(※10)に設定されている。アーティストにも何も作らない夢想の時間があり、その時間のために資金を提供したいと考えている。また資金自体も、間に入る組織ではなくアーティストに直接届くようにしアーティストの裁量を高めている。
 アーティストの夢見ている事を、アーティストそして一般の人がアクセスできるようにしたいと考えている。

※10 限りなく自由
家族の世話のための補助、作品制作のレジデンスのための旅費や住居代など様々


ナショナル・パフォーマンス・ネットワーク(NPN)

『1985年に、当時ニューヨークのダンス・シアター・ワークショップ(DTW)のエグゼクティブ・ディレクターだったデビッド・R・ホワイトが中心となって設立。優れたアーティストが全米規模で講演機会を得ることを可能にするために、さまざまな地域の14のプレゼンターがネットワークを組織したことが始まりで、その後、98年にはDTWから独立した組織となった。人種的・文化的正義と平等の問題は、団体のミッションの中心的価値観のひとつ。』

P.287

代表取締役社長 ケイトリン・ストロコッシュ
 アライアンス・オブ・アーティスト・コミュニティという中間支援組織を運営、NPNの仲間として様々な仕事をこなす。その後2006年ごろNPNに所属

まとめ
 NPNでは人種的・文化的正義の推進と、アーティストのパワー構築の2つの柱に掲げている。人種的・文化的正義の点では、芸術分野以外の助成組織や社会正義運動との連携についても考慮している。
個人からの寄付は、白人富裕層に権力を握られる可能性を懸念しており、また組織のキャパシティ的にも受け入れていない。そのため理事にも寄付はお願いせず、裕福でない人でも理事になれようにし、長期的に効率的で効果的な財団を目指している。
 助成する時は、必ず他の団体の助成ももらうように依頼している。NPNは3年以上の資金提供を約束することで、他の資金源を探す余裕を作る形にしている。制作や発表だけでなく、その間に必要となる個人的な時間も援助したいと考えている。中間支援組織とは、資金提供者とアーティストの両者の言語がわかる橋渡し役である。


【論考④】小崎哲哉「「文化戦争」とは何か─表現の自由をめぐって」

 「文化戦争」は「culture war(s)」の訳語である。米国の社会学者ジェームズ・ハンターが91年に刊行した『Culture Wars: The Struggle to Define America』により周知された。当時NEAの助成を受けた芸術家らの作品が、宗教右派の反感を買い、政府を巻き込んだ論争となった。結果、助成に関する法案には修正され、件のアーティストらへの助成交付は拒否されるに至った。98年には連邦最高裁判所で「不交付は憲法違反ではない」と認定され、以降NEAは個々の芸術家への助成を取りやめるに至った。
 文化戦争には、負の側面も多くあるが、表現の自由についての議論を促す正の側面がある。いたずらに戦争を恐れず、芸術や文化の本質について考え、他者に共有していくことが重要だろう。


第5章 アメリカの「生態系」から日本を顧みる

〈総論〉 提言・これからの日本の文化政策を構想するために

 文化政策の主体が民間財団や個人となる米国、そして国や自治体となる欧州、それぞれに長短が存在している。日本の文化政策においては、欧州的な「デザインされた政策」と、米国的な「草の根的な一定の自立性」が同時に必要であり、そのバランスを、議論を通じて社会的なコンセンサスとして形成すべきだと考えている。そして、議論を牽引する存在として、分厚い「中間支援組織」の層を形成すべきであろう。「中間支援組織」は、支援の評価、調査、政策の提言、社会的合意の形成など、アーティストや支援者だけでは難しい職務を担うものである。芸術家、支援者、そして中間支援組織は、同じ生態系の中に生きる、お互い欠くべからざる存在である。

〈感想・批判〉

 まず本書は、そのほとんどがインタビューという形式でまとめられているため、その内容は人ごとに異なっており、多岐に渡っている。当然のことながら、少ない文字数でまとめることは不可能である。ゼミの形式上まとめてはいるが、割愛した部分も多い(パンデミックへの対応や、社会正義に関する詳細等)。こういったインタビュー記事は、枝葉とも思える細かい部分にこそ、有意義な情報があるもので、少しでも興味を持たれたのであれば、是非とも原文を読んで欲しいと思っている。インタビュー形式の部分は、比較的読みやすいと思う。

 本書のまずもって優れた点は、一般的な日本人ならば、普段触れられないような米国の実態を知ることが出来る点である。寄付や財団など、余り触れる機会のないものである。寄付文化は余り日本人には馴染みがないが、芸術に限って言えば「推し活」が最も感覚に近いかもしれない。勿論、本書では芸術が公的セクターに属しているものとして取り扱われているので、不適切なたとえではあるが。想像しにくい人は「推し活」に社会的意義や公益がくっついてくると思っておけば良いかもしれない。

 本書で取り上げられた寄付文化の担い手は「アーティスト」「財団」「中間支援組織」の3つであったが、本書の記載の通り、寄付の大半は個人によるものであった。つまり本書は寄付の主要な担い手である「個人の寄付者」を取り扱っていない事になる。勿論、沢山いるであろう個人の一人を取り上げてインタビューしたところで、意味があるのかと言われると微妙なのだが……。ただ芸術の場合、寄付額の多くが富裕層の寄付者(恐らく団体の理事もやっている人)によるもののはずなので、その人たちが何を考えているかなどは知りたい所であった。

 本書の内容は、芸術が行政府から支援されるべきということが前提で、行政の制度をどのように作っていくかというような論調で全体的に話が進んでいるように感じた。そもそも、ここは議論が分かれるところであろう。小さな政府の思考から言えば、行政府による支援の枠組み自体が否定されるべきものであり、寄付文化はまさにその表れである。まずもって行政府に任せるのか、それとも、自分たち民間の手で担っていくのかという所から議論が始まらねばならないように思う。だからこそこの議論は政治的マターとして度々立ち現れてきているわけである。
 芸術が行政府によって支援されるべきものか否かは、大ざっぱにどちらとも言い切ることは出来ないと僕は思っている。ケースバイケースだと思う。芸術も産業であり、国家の戦略いかんで、公的に支援されたりされなかったりするのが実状のように思っている。この辺りは、他の様々な知識が必要なので現時点での深入りは止めておこうと思う。

 以下は地方創生にひきつけての話を書きたいと思う。
 まず地方創生においても中間支援組織のような組織は重要だと考えている。特に僕が重要と考えるのは、①個から団体へのボトムアップのかたちで影響を与えられる点、②行政のレイヤーとは別のレイヤーで団体に影響を与えられる点、③中間支援組織が個の意見形成を促す点の3点である。
 まず1点目であるが、得てして個の意見というものは無視されやすいもので、ある程度数量がまとまらないと聞き入れられないものである。中間組織は個をまとめて大きな数にしてくれることで、団体に対して一定の発言力を持つことが出来る。
 そこで効いてくるのが2点目である。行政からの聞き取りやアンケートにより意見が集約されるという事はよくある。一方、行政に依存していない民間ベースで意見を集約してくれる組織があると、その二つが対比される事で、それぞれの情報の信頼性が確認できるようになるのである。行政であろうと民間であろうと、自分の組織に都合の悪い事はあまり公にしたくないものだが、行政と民間がそれぞれに異なる立場から意見を集約することで、双方のデータを比較できるようになり、情報の信頼性を読者が判断できるようになるのである。
 3点目は、中間支援組織が社会に発信していくことで、賛同者を増やし、世論を形成しうる点である。中間支援団体は上位の団体だけでなく、個の単位にも影響を与えうる。そうすることで、中間支援団体の発する意見は、より強力なものとなりうるのである。
 このような点から、民間をベースとした中間的な組織は非常に重要であると考えている。中間“支援”組織とまでは行かなくても、似たような意見を持った人が集まるだけでも意味があると思っている。

 次に重要だと思ったのが、それぞれの担い手、特に芸術団体が、明確な目標を持ったうえで、実証的かつ戦略的であろうとしている点である。目標を掲げ、そこに共感する人たちにアプローチし、支援を引き出して活動を続けていく。明確な目標、実証的、戦略的、この三つは肝に銘じておきたいところである。

 以上が、大体の感想である。日本において同様の枠組みが出来るのは、制度的な面でもメンタリティの面でもちょっと想像しがたいが、民間が寄付を通じて社会制度を構築していくというビジョン自体は、非常に魅力的なものであると思う。ただ、広く日本の歴史を見てみれば、公的な事業を必ず行政府が行っていたかと言うと、そういう訳でも無いようで、起業家の寄付で橋が作られたりもしているし、現代においてもクラウドファンディングが一定の市民権を持っていたりもするので、文化的に不可能という訳でも無いように思う。政治・行政とは別に、個人が寄付を通じてアクションしていく仕組みが出来上がると、地方の有り様はもう少し面白くなるのではないかと思っている。

〈以上要約〉


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