035 連載小説01 災害ボランティア⑥ テント村で眠りにつく
030 連載小説01 災害ボランティア① 序|ohshio_t (note.com)
031 連載小説01 災害ボランティア② 災難の伏線、出発の遅れ|ohshio_t (note.com)
032 連載小説01 災害ボランティア③ 勘違い、前泊も七尾市文化ホールではなかった|ohshio_t (note.com)
033 連載小説01 災害ボランティア④ 隘路に踏み込む|ohshio_t (note.com)
034 連載小説01 災害ボランティア⑤ テント村、七尾城山野球場に到着|ohshio_t (note.com)
Tの指定されたテント番号は41番。その場所に行くためにTは係員と一緒に事務所から雨が降りしきるグラウンドに出る。雨音はするが地面の状態が目で見て分かるわけではない。踏みしめる足の感触、そして夜の飛行場の誘導路のような明りの並び。Tは実際に例えで思いついた明りの列を見たことはないが、そういうものがあることは『エリア88』などで知っていた。
Tの41番のテントは通った道の右脇の一つ。誘導路に入ってから、さらに右や左に折れることはなかった。テントの布は二重になっていて、係員に外側と内側のジッパーを開けてもらい、Tはようやくテントに入ることが出来た。
テントの床はシートが敷いてあるだけ。しかしともかくTはザックを肩から降ろしてヤマノススメのバッグを右手から離し、身体の負荷をなくすことが出来た。そしてまずランタンの明かりを照らす。確かにランタン自体は明るいが照らしてくれる範囲は意外に狭く、広くないテントでもその中が見渡せるわけではなかった。
それでも姿形くらいは分かり、Tはヤマノススメのバッグから金沢で買った寝袋を取り出した。能登町ボランティアの計画を立てた時はエムザ店の好日山荘で買おうとTは思っていたのだが、金沢駅東口からホテルに行く道すがら、煌々と照らされた一階の店舗、登山道具が確認できるビルを見つけた。それがモンベル金沢店で、多少は値が張ったが適用温度を参考にその場でTは購入したのである。
結局買った翌日、三月十五日は災害ボランティアで使用せずに持ち帰ることになり、買った二週間後の三月二十九日にTは寝袋を使い降ろすことになったのである。暗い中だが拡げるだけなのでTは造作なく寝床を作ることが出来た。
そして潜り込んだのだがジャンパーを脱いだだけでは少し熱い。もちろん靴は脱いでいたのだが、Tは綿のシャツとコーデュロイ、そして靴下を脱いで改めて休日に父が家でよくしていたように、下着姿で垂直の筒に潜り込んだのである。
しかし危惧した通り、今度は寒くて眠れない。眠ると体温が下がるので寒い時期は保温する必要があり、家ではTは掛布団の種類で調整していた。布団の用意などしていないTはどうしたものかと思ったが、作業用にと持ってきたヤマノススメTシャツがあったのを思い出した。半袖だがランニングシャツよりは厚手であり、それに保温用に靴下を改めて履く。もちろんぬかるみで汚れたものでなく、持ってきた着替え用を。
ヤマノススメのTシャツにトランクス、靴下で改めて芋虫になると、適度に熱がこもって眠れる見通しがついた。しかしそれだけでは直に地面の感触が分かり、『ヤマノススメ』の山ガールは雲取山などでどうしていたのか、Tは疑問を持った。
そう思って周囲を改めて見回すと、Tはテントに入った時は全く気づかなかったマットレスがあることに気づく。そしてTはマットレスを敷いて寝袋を乗せ、もう一度潜り込んでその中で熱をこもらせるために身体を丸める。寝袋の布をかき集めて枕にし、漸くTは眠りにつくことが出来た。
果たしてこの日の疲れが取れて明日快適に起きられるのか、また野球場から文化ホールに行かなければならないが、その道を大過なく歩くことが出来るのか、そして無事に二回目の能登/七尾の災害ボランティアを終えることが出来るのか、Tは考えだしたら切りがない不安はあったが、全ては翌朝の体調と割り切ることにした。(大塩高志)
036 連載小説01 災害ボランティア⑦ テントから撤収|ohshio_t (note.com)
038 連載小説01 災害ボランティア⑧ 七尾市文化ホールに到着|ohshio_t (note.com)
039 連載小説01 災害ボランティア⑨ 七尾市文化ホールでのオリエンテーション、そして仮仮置き場
040 連載小説01 災害ボランティア⑩ 仮仮置き場へ
042 連載小説01 災害ボランティア⑪(終) 思い出を砕く
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