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032 連載小説01 災害ボランティア③ 勘違い、前泊も七尾市文化ホールではなかった

030 連載小説01 災害ボランティア① 序|ohshio_t (note.com)
031 連載小説01 災害ボランティア② 災難の伏線、出発の遅れ|ohshio_t (note.com)

 Tが今回の災害ボランティアの集合場所で前泊できると思い込んだ七尾市文化ホール、Tはもちろん事前にGoogle Mapsで確認していた。そして地図上ではちょっとした距離と思い込みそうなところを、七尾駅から能登食祭市場の距離から、歩いていけない距離ではないと察せることはできていた。
 しかしTにとって七尾駅の内陸側は歩いたことがなく、まして夜も深くなった時分である。Tにとって場所が分からなく明日のボランティアがおじゃんになることだけは、前回の能登町ボランティアに続いての失敗になるため笑い話にもならないため、多少値は張ってもタクシーを利用しようと思ったのである。
 もちろん能登に金を落とせるという意味もTは自覚してた。
 そして乗車して運転手に行先を告げたのだが、運転手は被災者ですかとTに聞いてきた。ボランティアに来たと答えたTだったが、後から考えればこの時気づくべきだった。Tも不審がったのだが、被災者と一緒に寝泊まりするのかなと思いつくだけだった。
 Tが七尾市文化ホールと告げてタクシーが連れてきた場所はロータリーは暗闇。それでもTはロビーが照らされた建物を確認した。タクシーのメーター料金はちょうど千円。冷たい小雨が降っていたが、ここで一夜を明かせるとTは思い、安堵の気持ちで車を降りた。そしてTは明かりの点いているロビーに入り、周りを見回し、合点がいった。被災者とうかがえる人たちが数は少ないが椅子に座り、配給物資の情報が書かれた張り紙をTは認めた。ここで間違いないと理解したTは、受付でボランティアとして来たと告げたのである。
 しかしこの建物は文化ホールではないと、七尾市文化ホールは隣の建物という答えが返ってきた。それでTはようやく自分の間違いに気づきだした。そして自分の悪い癖、早とちりを今回もしてしまったと思ったのである。
 Tが自分の氏名を名乗って事情を説明したところ、受付の人が、まだ残っている文化ホールの人に話を付けてくれ、ここの建物に来てくれるよう手配してくれた。Tはもちろん感謝を言葉と態度で表した。そして正直に事情を説明すれば人を動かせると思ったのである。
 直に来てくれた七尾市文化ホールの人によると、やはりボランティア要員が泊まるのは野球場、七尾城山野球場とのことだった。Tが入った建物に来るまでTが登録した情報を照会したらしく、Tは文化ホールの職員の情報を当てにすることが出来た。それによると文化ホールはボランティア要員の集会所/オリエンテーリングする場所とのことだった。
 だからTはこの夜分に、七尾市文化ホールから七尾城山野球場に行かなければならなくなった。ここでTは駅から文化ホールまでタクシーを頼ったように、七尾市文化ホールの職員に案内してもらう手もあった。しかし同じ手は使いたくないとTは思った。それに夜と言っても日付が変わるまでには十分時間がある。そして翌朝の七尾市文化ホールの集合時間は午前九時。Tは勝算があると踏んで、文化ホールの職員が登録してくれた道順を頼りに、小雨が降りしきる中、中学卒業以来縁のなかった野球の施設へ歩き出したのである。(大塩高志)

033 連載小説01 災害ボランティア④ 隘路に踏み込む|ohshio_t (note.com)
034 連載小説01 災害ボランティア⑤ テント村、七尾城山野球場に到着|ohshio_t (note.com)
035 連載小説01 災害ボランティア⑥ テント村で眠りにつく|ohshio_t (note.com)
036 連載小説01 災害ボランティア⑦ テントから撤収|ohshio_t (note.com)
038 連載小説01 災害ボランティア⑧ 七尾市文化ホールに到着|ohshio_t (note.com)
039 連載小説01 災害ボランティア⑨ 七尾市文化ホールでのオリエンテーション、そして仮仮置き場
040 連載小説01 災害ボランティア⑩ 仮仮置き場へ
042 連載小説01 災害ボランティア⑪(終) 思い出を砕く

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