第70話 血
「似嵐ウツロ、復活――!」
毒虫の戦士はこのように、高らかに復活を宣言した。
そして名乗った、「似嵐」の名を。
自分でもどうして、そう言い放ったのかはわからない。
ただ、伯母である星川皐月の度重なる暴虐、そしてなにより、父・似嵐鏡月と兄・アクタへの侮辱。
それらがあいまって、彼の心に火をつけたのか。
あるいはそれは、内に眠っている本能、「血」によるものなのか。
「てめえ、ウツロ、いまなんつった? 似嵐だと? 頭大丈夫かよ? てめえごときが軽々しく、似嵐の家名をかたってんじゃねえぜ? 毒虫野郎の分際でよ?」
星川皐月は髪の毛を振り乱し、爛々と目を光らせている。
「あら、そうかしら?」
奥のほうから、甍田美吉良が語りかけた。
「そこにいるウツロくん、あなたなんかよりは、皐月、よほど似嵐の器にふさわしいと思うけど? 少なくともこれまでに得られた情報と、いま実際の彼を見ればね?」
沸騰していた女医が、今度は腹をかかえて笑い出す、
「ははっ、美吉良! あんた正気!? 自分が何を言ってるか、わかってるの? こんなやつに? この間までめそめそ泣いてた、鏡月のガキなんかに? ははっ! これは傑作だわ!」
ニヤリ。
甍田美吉良はほほえんだ。
「ふっ、すぐにでもわかるわよ。ほらほら、ボーっとしてると……」
「ああっ?」
星川皐月が首を上げると、
「がぎゃ……」
黒刀の中心が、頭頂部をしたたかに打った。
「ぐっ、がっ……」
百戦錬磨の怪物とて、急所までは鍛えることはできない。
激痛あまって意識が飛びそうになる。
「ぐ、ウツロおおおおおっ……!」
星川皐月は両面宿儺でふんばり、なんとか倒れることだけはまぬがれた。
スッと、ウツロは着地する。
「伯母さん、このウツロ、改めて似嵐の名を名乗らせていただきます。そして、父・鏡月および兄・アクタの名にかけ、二人を侮辱せしめたとが、晴らさせていただく……!」
改めて構えを取るその態度は凛としていて、表情は険しいながらも視線はまっすぐだった。
甍田美吉良は遠目に、そのまさざしに快晴の空を想起した。
そして若かりし頃の悪友の父である魔人・似嵐暗月の姿をも。
「なっ、なっ、なっ、生意気なあああああっ……!」
女医のほうも大刀を構え直した。
ウツロの口もとが浮く。
「推して参ります、伯母さま――!」
「この毒虫がっ、かかってこいやあああああっ!」
かくして、甥と伯母の対決は開始されたのである。
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