海の向こうに暮らす、わたしのもう一つの家族の話。
北半球にある日本から、南半球にある国で暮らすもう一つの家族を想う。
日本とあの国とは、季節が正反対。
こちらはもうすぐ冬を迎えようとしているけれど、あちらはあと少しで夏を迎える。
———わたしがあなたたちと暮らしたあの時から、早9年。
今も元気に、暮らしていますか?
***
わたしが通っていた高校には複数のコースがあり、わたしのコースはオーストラリアに2ヶ月留学するカリキュラムになっていた。
それまでに身につけた知識とほんの少しの勇気を持って、初めて親元を離れて日本語の通じない国で生活する。
携帯電話を持って行くことは許されず、日本にいる大切な人たちと連絡を取る方法は手紙だけ。
寂しくても、辛くても、簡単に泣きついたりはできない。
そんな中始まった、ドキドキの異国での生活。
わたしを受け入れてくれたのは、ホストファザーとホストマザーに、ホストシスターが1人と、犬と猫が2匹ずつ暮らす家族だった。
***
現地で生活する上で主に留学生の面倒を見てくれるのは、ホストマザーが多いのではないかと思う(マザーに当たる人物がいる家庭は、だけど)。
わたしのホストマザーは、家事よりは仕事が好きだけど、日々の食事は愛情を込めて用意してくれる、朗らかで温かい人だった。
ステイ初日は、料理はあまり得意ではないと言いながらも、わたしが来るからとたくさんご馳走を用意してくれていたし、ホストシスターが好き嫌いの多い子だったからか、「あなたは何でも美味しいって食べてくれるわね」と嬉しそうに話してくれていた。
滞在が始まってから数日後、夕食にマッシュポテトが出た時。
とても美味しくて、気持ちが顔に出ていたのか、それ以来、「あなた、これ好きでしょう?」と繰り返し作ってくれたりもした。
一家を支える大黒柱のホストファザーは、スキンヘッドに逞しい体型で、背中と両腕には派手なタトゥー。
見た目はいかつくて怖そうだし、口数も多い方ではないけど、話すとユーモアたっぷりでジョークも言うし、たまに夕食に作ってくれるボロネーゼはとても美味しかった。
当時14歳のホストシスターは、わたしとは正反対な、キビキビハキハキした性格の女の子。
ダンスを習っていて、機嫌が良い時はくるっとターンをして見せてくれたりもした。
多感な時期で、日本だと中学生。わたしとの接し方に戸惑ったりしたこともあったのかな、と思う。
———そして、異国の地で暮らしていたわたしにとって絶大な癒しになっていたわんこ&にゃんこ、それぞれ2匹。
大きな体格の2匹の犬たちはとっても人懐っこくて、初めてホストファミリーのお家に足を踏み入れた時も揃って勢いよく飛びかかってきたし、ソファでくつろいでいると、2匹でわたしの両サイドにお尻を押し付けるような状態でくっついてきたりもした。
……泣いている時は、心配してそばにいてくれたりもしたな。
対して、猫たちは2匹ともクールで、ザ・猫って感じ。
でも、仲良くなったら膝の上に乗ってくれたりもしたし、そろそろ学校に行くから、と降ろすとちょっと恨めしそうに見てくれたりもした。
猫ちゃんのうち1匹は、帰国する前日の夜に準備をしていたら、ふらっとベッドの下に潜り込んで来て、ホストファザーが追い出しにかかるまで動かなかったこともあった。
わたしの部屋にペットたちが入るのは禁止だから、いつもはホストシスターが追い出せば出て行ったし、夜に来ることはなかったのに。
………次の日にはいなくなるんだよってしんみりした様子が伝わったのかなって、今でも思い出したりする。
***
たかが2ヶ月、されど2ヶ月。
最初はホームシックになって落ち込んだりもしたけど、帰る頃には逆ホームシックになっちゃうくらい、優しさと温かさに溢れた人たちだった。
———いつか、これまでの暮らしが戻ってきて、海外にも気兼ねなく行けるようになったら。
真っ先にもう一つの家族に会いに行きたいと思う。
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