宇宙SF:宇宙の錯覚


#宇宙SF


「なあ、知ってるかい? 心 イコール 宇宙 なんだぜ」
唐突に言うもんだから俺は言い返した。
「それ、錯覚じゃね?」
「ああ、宇宙の錯覚さ」
「ふぅん」
それきり、悪友との会話は途切れてしまった。


また別の日、悪友は言う。
「人間はヒモだな」
「俺はヒモじゃねーよっ!」
ははっと笑って悪友は続ける。
「生まれて生きて、ここまで一筋のヒモ。そう考えるのさ」
「ふぅん」
会話はそこでまた途切れてしまった。



ある日、道を歩いてると。ぼんやりしすぎてたのか、電柱にぶつかってしまった。そして、白昼夢のようなものを見た。


それは、宇宙が心になっていた。
神? いや、神になったわけではない気がする。神様か何者かに何かを見せられているような感覚なのではあるのだが。

そして、人間はヒモになっていた。
ヒモ? いや、そのヒモじゃなくて。時空にうねる奇跡というのかな。


"俺"という人間は、時空にうねる奇跡としてあり。
"宇宙"という世界は、奇跡にうねる時空としてあった。

"俺"という心は、宇宙の一部でありながら、宇宙の全部を含んでいて。
"宇宙"という世界は、俺の全部を含みながら、俺の一部であった。


『わかるかい?』
悪友の声がどこからともなく聞こえた。

『心 イコール 宇宙。それはそれは美しく魅惑的でありました。色に例えるなら、玉虫色か虹色か。形に例えるなら、すべての形を内包しつつ揺らめく世界。感情に例えるなら、哀しく切なく喜びも怒りさえ嬉しいようななんともいえない感覚。音に例えるなら、世界の囁きから美しいハーモニーと虫や鳥の鳴き声や海の音も宇宙の静けさまでも調和している音楽。それは、初恋のようであり親しみのようであり別れのようであり長年連れ添った仲のようでもありました。』


悪友よ。本当に……。
心 イコール 宇宙 なのか。
人間はヒモなのか。

『ははっ』
悪友はいたずらに笑って誤魔化すだけだった。



……気がつくと、世界には青空と白い雲、緑の草と黄色い花が風にそよいでいた。
まるでなんにも気付いていないかのように。


「……なんだ、宇宙の錯覚か」














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