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私たちは、身近な食べ物に翻弄される。『世界史を大きく動かした植物』レビュー

kindle Unlimitedで『世界史を大きく動かした植物』を読んだ。とてもおもしろかったのでオススメしたい。

読後の感想は、人間が植物を自在に操っているかのように見えるが、実は植物が人間を翻弄しているのかもしれない。人間は狡猾で、植物は賢いんだな。

この本は、植物の観点から歴史を見ていく。身近な食べ物の雑学がいっぱいでおもしろい。知らないことだらけで、つい誰かに話したくなる。

  • じゃがいもはなぜ「じゃがいも」と呼ばれるのか?

  • マリー・アントワネットが愛した花は、私たちが当たり前に食べているアレ

  • トウモロコシよりあとに生まれたのが人間、という伝説

  • 英語でダイズはソイビーンというが、「ソイ」は実は日本の〇〇県の言葉

  • カレーが最初に作られたのはイギリス

歴史の流れも分かりやすかった。コショウを巡って争いが起き、チャからアヘン戦争が勃発し、綿花とサトウキビ栽培のために黒人奴隷が始まった。暗黒の歴史の裏には必ず、植物と人が密接に関係している。

歴史を知らなくても、植物の雑学は楽しめると思う。

これを読んでから、自分の身近にあるピーマン、コメ、砂糖、じゃがいも、コショウ、お茶をもっと丁寧に味わおうと思った。スーパーに行って、これらの食材を見ると、昔はみんなが簡単に食べられなかったんだなと妙に感慨深くなる。

食べ物がたくさんあるのは当たり前じゃない。

今またパンデミックが来たら、戦争が起きたら、人は真っ先に食べ物で殺し合いを始めるはず。私も誰かから食料を奪い、奪われ、そのためなら人を蹴落とすのかと思うとゾッとする。

この本を読んでいて、過去の自分を今まで以上に恥ずかしく思った。トウガラシ、トウモロコシやチャは中国から来ている。私たち日本人が好んで飲んでいる抹茶も、実は中国から来たもの。

チャについて、唐代の中国にはこんな詩があるそうだ。

「一杯目は喉と口を潤し、二杯目は寂しさを和らげ、三杯目は詩情がよみがえる。四杯、五杯と飲むと日頃の不平不満がすべて流され、体が清められる。六杯目を飲むと神仙の御霊に通じた。」

本文より引用

アヘン戦争前までの中国は、世界の中で最先端の国だった。みんなが崇拝していたんじゃないかと、個人的に思う。トウガラシやトウモロコシやからあげの漢字には「唐」がつく。これは中国が、唐だった時代に日本に入ってきた植物だから。日本はそれらを独自のものに作り替えてきた。

何も知らずに、中国人が嫌いと言った過去の自分を殴りたくなる。もう少し勉強しろ、とも言ってやりたい。中国をバカにしながら、中国から来たものを「美味しい」と食べていたのは滑稽だ。ルーツを知って、自分が体験したことから、何かを嫌うのは理解できる。でも「みんなが言ってる」からという理由で、国や人を嫌いになるのは学びが足りなかった。

植物と歴史の中で目立って来るのは、イギリスだ。自国の利益のためなら何でもする。チャを輸入して、貴族たちの優雅なティータイムが始まる。そこに砂糖が入ってきて、甘いお菓子が生まれる。その裏では940万人の奴隷が、サトウキビ栽培のためにアメリカ大陸に連れて行かれた。彼らは過酷な重労働を強いられ、死んでいった。

そして、インドは東西からの貿易の中間地点になったため、いろんな国の板挟みになって被害を受ける。それにも負けず、独自で経済を立て直したのもすごい!

植物たちは、本当に世界史を大きく動かしたと思う。あまり読まないジャンルだけど、興味を持って読んで良かった。百聞は一見にしかず。興味がある人はぜひ、読んでみてほしい。


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