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『人生写真館の奇跡』の感想

レビューや作家情報が多くないけど、自分にとっての隠れた良作を見つけると嬉しくなる。私の大好きな作品『木曜日にはココア』の最後にページに、この作品の紹介があった。

表紙に惹かれてAmazonを早速チェック。でも電子書籍になってなくて、紙の本を買おうと思ったら海外発送未対応。今はまだ読む時期じゃなかったのか?仕方なく、カートの「あとで買う」に入れたまま一年が過ぎた。

今回本のまとめ買いをする時に見たら、海外発送が対応になっていた!すぐさまカートに入れて購入に至る。

== あらすじ ==

この本の帯には「過去に戻れるとしたら、あなたはいつに戻りたいですか?」と書かれている。過去に行って過去を修正したり、やり直したりする話じゃないのが新鮮だった。

この写真館は、あの世とこの世の狭間にある。死者がこの世に「お別れ」を告げる準備をする場所とも言える。写真館では自分が生きた年の数の写真を選んで、人生の「走馬燈」アルバムを作る。

写真館にやってきた人たちをもてなすのが、過去の記憶を持たない平阪という青年。大切な写真や思い出ほど色あせてしまうから、その思い出の写真を再び撮るために、死者と平阪は過去へと戻る。

92歳の老女、47歳のヤクザ、7歳の児童。彼らが写す人生最期の写真とは?そして平阪の悲しくも優しい秘密。

== ポイント ==

・ある人物がつながっている
・短編集
・章の最後に、死者が現世の人に見えるのだけど…

== 感想 ==

ウルッとした。強い印象に残るお話じゃないけど、ジワジワと心に染み込んでくる。アルバムを見て懐かしい、温かい気持ちになるような読後だった。記憶を持つ人と持たない人がいるから、思い出の美しさが引き立っている。

スマホで簡単に写真が撮れて、SNSやアルバムアプリがあって、便利で楽しい…と同時に家族や自分のためでなく、自分を良く見せるためだけに撮ることも多いと思う。写真を見返すこと、写真から思い出せる出来事や感情が少ない気もする。

92歳の老女は20代の頃に保育士として、戦後の保育に情熱を注いでいた。園が閉鎖され、彼女のお給料が滞っても、子供たちのためにより良い教育を考えて行動する。青空教室を開いたが、流行病で継続が難しくなっていく。そんな老女の若い頃の奮闘が描かれる。彼女が撮った一枚のバスの写真は、彼女の夢が叶った瞬間でもあった。老女の保育の話がそれぞれの章に繋がっていく。このお話は実際に存在する「新田保育園」の実話なんだとか。

記憶を持たない平阪は、誰かが撮った自分の写真を飾っている。彼が持っているのはこの写真だけ。でも彼にはその記憶もない。まさか、あんな風に繋がるとは!平凡に思える自分の人生でも、誰かにとっては忘れ難いものになるのかも。

私は2章目がお気に入り。ヤクザの鰐口(わにぐち)は誰かに殺されて写真館を訪れる。常に狙われる身であった彼は、平阪を攻撃したり、反抗的な態度を取ったりする。でも自分の死を受け入れたら大人しくなり、自分の思い出の写真を撮りに過去へ戻る。

「修理します」しか言えないねずみ君と、べトナム人の小学生のエピソード。死んだハムスターを”生き返らせた”ねずみ君に「命」を教えられなかった鰐口。彼は自分の死を持って、ねずみ君に「命」を教えたような気がした。最初は乱暴に思えた鰐口だけど、彼の優しさや人情にウルッとした。

最後の章は、ネタバレになるので書けない。平阪はこの章から80年後くらいに、自分の記憶の真相が分かるかもしれないな。読み終えたら、また最初の章と最後の章で確認したいことがある。

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「その瞬間」を誰とどう楽しんだのか、どんな物を自分で見聞きしたのかをもっと焼き付けてから、写真に収めたいな。自分が死ぬ時にはお金も、見栄も、持っている物も重要じゃないな。素敵な思い出と、誰かに自分の存在を覚えていてもらうことが大切な気がした。

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