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ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメント、どう違う?

業績向上と相関関係がある「エンゲージメント」は、今や経営指標のスタンダードになりつつあります。

しかし、このエンゲージメントには「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」があり、しばしば混同されることがあります。

何がどう違うのでしょうか?



ワークエンゲージメントは「仕事」、従業員エンゲージメントは「組織」と結びつく


約束や契約の意味を持つ「エンゲージメント」は、その本来の意味から転じて、結びつきの強さを表す用語として広がりました。最近では、さらに「やりがい」や「愛社精神」などのニュアンスで使われることも増えています。

さて、こうした「エンゲージメント」は、どの対象と結びつくかによって内容が異なってきます。具体的には、「仕事」と結びつく場合、それをワークエンゲージメントと呼びます。一方、「組織」との結びつきに焦点を当てる場合、それを従業員エンゲージメントと呼びます。

なぜ、こうした違いが生まれるのでしょうか? 違いを明らかにするためにに、それぞれの概念のはじまりを知ることが大切です。見てみましょう。


ワークエンゲージメントは学術の世界から生まれた概念


ワークエンゲージメントの考え方は、2002年にオランダの組織心理学者、ウィルマー・B・シャウフェリ氏によって提唱されました。シャウフェリ氏は、仕事に対して肯定的な態度や認知が高く、かつ活動水準も高い状態にあることをワークエンゲージメントが高い状態としています。

Schaufeli, W., Salanova, M., Gonzalez-Roma, V. and Bakker, A. (2002) The Measurement of Engagement and Burnout: A Two Sample Confirmatory Factor Analytic Approach. Journal of Happiness Stadies, 3, 71-92.

Schaufeli, W. B., & Bakker, A. B. (2004). Job demands, job resources, and their relationship with burnout and engagement: A multi-sample study. Journal of Organizational Behavior, 25(3), 293–315.

ワークエンゲージメントに関する議論は、現在、バーンアウトとは対概念として位置づけられたり、対概念ではなく独立した概念ではないかとの議論が展開されたりしています。こうした概念の整理は決着がついていないものの、学術的なアプローチで明らかになったものゆえに、科学的かつ客観的に状態を理解しやすいという点が特徴でしょう。

また、こうした議論はまだ残るものの、ワークエンゲージメントには活力、熱意、没頭の3つの要素が含まれているとの認識は共通のものとなっています。厚生労働省も、ワークエンゲージメントが高い状態であると考えているのは、これらの3つの要素が揃った状態としています。

  • 活力:仕事にから活力を得て生き生きと働いている

  • 熱意:仕事に誇りとやりがいを感じている

  • 没頭:仕事に熱心に取り組んでいる

参考:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」

つまり、ワークエンゲージメントが高い状態とは、仕事から活力を得て、仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組んでいる状態にあると言えるでしょう。


従業員エンゲージメントはビジネス界から生まれた概念


ワークエンゲージメントと異なり、従業員エンゲージメントの定義は定まっていませんが、概ね「従業員の会社への貢献度や理解度」を示す概念を指すことが多いと言えます。

この概念のはじまりは不明で、あくまで推測に過ぎませんが、1990年代に米国のコンサルティング業界で「エンゲージメント」という言葉が使われ始め、その後「ワークエンゲージメント」という概念との区別を明確にするために「従業員エンゲージメント」という用語が広まった可能性が高いと思われます。

また、こうした中でも参考になるのは、米ギャラップ社の定義と研究成果です。エンゲージメントに関する文脈で、ギャラップ社は欠かせない存在ですが、同社は人材のパフォーマンスに関する研究を80年以上にわたり積み重ねてきており、従業員エンゲージメントも「仕事や職場への関与と熱意」と定義しています。

参考:What Is Employee Engagement and How Do You Improve It?

加えて、ギャラップ社は、全世界で1300万人以上のビジネスパーソンを調査し、エンゲージメントを測定するのに役立つ12の質問セットである「Q12(キュー・トゥエルブ)」を開発しています。この質問セットは非常に有用であり、自社のエンゲージメントの評価に大いに参考になるでしょう。

Q01. 私は仕事の上で、自分が何を期待されているかがわかっている。
Q02. 私は自分がきちんと仕事をするために必要なリソースや設備を持っている。
Q03. 私は仕事をする上で、自分の最も得意なことをする機会が毎日ある。
Q04. この1週間で、良い仕事をしていることを褒められたり、認められたりした。
Q05. 上司あるいは職場の誰かが、自分を一人の人間として気遣ってくれていると感じる。
Q06. 仕事上で、自分の成長を後押ししてくれる人がいる。
Q07. 仕事上で、自分の意見が取り入れられているように思われる。
Q08. 会社が掲げているミッションや目的は、自分の仕事が重要なものであると感じさせてくれる。
Q09. 私の同僚は、質の高い仕事をするよう真剣に取り組んでいる。
Q10. 仕事上で最高の友人と呼べる人がいる。
Q11. この半年の間に、職場の誰かが私の仕事の成長度合について話してくれたことがある。
Q12. 私はこの1年の間に、仕事上で学び、成長する機会を持った。

ギャラップ社公式Web


エンゲージメントの向上を目指すなら、「エンゲージメントとは何か?」の問い直しから始めよう


エンゲージメント向上に取り組む際、留意すべき重要な点は、エンゲージメントが本来とは異なる意味で使われている場合です。「エンゲージメント」という言葉が使われながらも、その中身はモチベーションや職務満足感などの従来の概念をそのまま置き換えていることがしばしば見受けられます。

現在、多くの企業がエンゲージメント向上に注力しており、これに伴い、さまざまなコンサルティング会社などが関連サービスを提供しています。しかし残念なことに、これらサービスのなかには古いワインを新しいボトルに詰め込んで売り出しているだけのものも散見されます。エンゲージメントの概念を誤解したまま取り組むと、場合によっては実践において阻害要因になりえる可能性もあります。そのため、エンゲージメントに対する正確な定義や認識を確認することは非常に重要で、まずそもそも「エンゲージメントとは何か?」の問い直しから始めた方が良いでしょう。

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