人事評価はもういらない? ーー 「ノーレーティング」の3つの誤解
皆さんの会社では、どんな評価制度が採用されていますか?
たとえば、よく見られる評価制度として、年度ごとに各個人が目標を設定し、四半期ごとに進捗を評価し、同じランクの社員と比較して、年間の成果に対する最終評価を行う、といったものではないでしょうか。
こうした評価制度は長らく多くの企業で採用されてきましたが、2010年代以降、多くの企業がそのあり方に課題を感じ始めました。
こうした背景の中で、新たなアプローチとして注目されるようになったのが「ノーレーティング」です。
ノーレーティングとは「ランク付けしない」評価制度
「ノーレーティング」とは、従業員を評価する際にランク付けを行わず、即時に評価の認識を擦り合わせる人事評価の手法を指します。この新しい評価制度が採用され始めた理由は、従来の評価制度が様々な問題を抱えていたからです。
たとえば、年単位での評価では今のビジネス環境の変化に適応しきれないことや、画一的な評価基準では多様な人材を適切に評価することが難しいこと、そして、これまでのランク付け評価は従業員同士の競争を促進するどころか、むしろモチベーションを低下させることがあるなどが挙げられます。
ただし、ノーレーティングが日本で紹介された際、「人事評価はもういらない」といったキャッチコピーで紹介されたこともあり、時折、誤解が生じています。それら誤解のうち、代表的なものを見ながら、「ノーレーティング」への理解を深めていきましょう。
誤解① ノーレイティングは、評価をしない
ノーレーティングに関するよくある誤解の一つは、「従業員を評価しない」というものです。
「人事評価を廃止」という表現が使われたことがこうした誤解を生んだのでしょうが、評価自体が無くなったわけではありません。ポイントは、従業員の現状を明らかにして課題を明確にする「評価」は行うものの、ある基準によって点数づけや格づけする「査定」を廃止したということです。
人が成長するには他者からの評価を通じたフィードバックが必要です。そのため、ノーレーティングでは四半期や年に一度などの従来型の定期的な評価ではなく、タイムリーでスポットなフィードバックを行うことで、より効果を最大化しようとしています。むしろ、評価自体は従来以上に重視されていると言ってもいいでしょう。
誤解② ノーレーティングは、いつでも目標を変えられる
次いでよくある誤解としてあるのが、ノーレーティングは「いつでも目標を変えられる」という考え方です。
この誤解の背後にはおそらく、「ノーレーティングは、環境変化に応じて即座に目標を変更できる」という特徴が拡大解釈されたのでしょう。しかし、ノーレーティングはいつでも目標を変更できるわけではありません。もしこれを許してしまうと、「目標達成が難しいので、目標を変えてほしい」という要望が相次ぎ、結果として企業の目標達成が難しくなる恐れがあります。
ノーレーティングは環境変化に柔軟に対応できる仕組みですが、そのために重視しているのは、環境変化に適応するための行動を機敏に修正できるという点です。具体的には、ノーレーティングも従来通りに目標設定を行いますが、その目標は通常よりも高く設定した上で、その高い目標に向けた行動に注力できる仕掛けをを行います。たとえば、誤解①で触れたタイムリーでスポットなフィードバックがまさにそのための取り組みなのです。
誤解③ 上司は、評価の仕事から解放される
最後に挙げられるのが、ノーレーティングでは、評価者である上司が「評価の仕事から解放される」という誤解です。
先述の通り、たしかにノーレーティングでは点数づけや格づけのような「査定」が廃止されることで、それらに関連する仕事から解放されています。たとえば、「〇〇さんの今期の成績はBです」など、定期的な面談で上司から部下に相対評価を伝えるなどの仕事は不要になります。
しかし代わりに、タイムリーでスポットなフィードバックが求められるため、部下へのフィードバックの頻度は増えるでしょう。つまり、評価の仕事から完全に解放されるわけではないのです。
また、「査定」がなくなっても、誰かが賞与や昇給を決めなければなりません。従来は人事部門がそれらを担っていましたが、ノーレーティングを導入した企業のなかには、上司の判断に委ねているところもあります。ノーレーティングでは、上司はこうした給与決定に関する仕事も新たに担わないといけないのです。
こうして見ると、ノーレーティングは評価制度を廃止したわけではなく、むしろ、上司から部下へのフィードバックの機会を増やし、頻繁に評価を行っているとも言えるでしょう。そして、そうした取り組みの目的は、従来と同様、従業員のパフォーマンスを高めることにあります。
ノーレーティングは当然ながら万能ではなく、あくまで手段のひとつに過ぎません。改めて大事なのは、その組織の目的や戦略、人事制度や文化、従業員のニーズや期待などを踏まえて、パフォーマンスを高めるためにはどういった評価の仕組みが良いかを見定めることだと思います。
(参考文献)
平康 慶浩(2020)「HRガイド:ノーレイティングの導入 ~うまくいく制度設計と組織運用のコツ~」月刊人事マネジメント
★関連投稿はこちら★
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?