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人的資本開示必須の3指標、どれ?

2023年3月期決算より、上場企業に対して義務化された人的資本の情報開示。

その開示の在り方は各社に委ねられていますが、政府からは特定の3つの指標の開示が強く要求されていることをご存じでしょうか?

2023年10月の調査によると、これらの指標の開示率は91%*1でした。では、具体的にどのような指標が求められているのでしょうか?




女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女間賃金差異の3指標は開示すべし


人的資本の情報開示を求められているのは、次の3指標です。

①女性管理職比率

企業における女性管理職の割合のことを指します。この比率は、企業のダイバーシティを示す指標として活用されています。

様々なダイバーシティの指標がある中で、なぜ「性別」に関わる指標を義務化するのか、他にもあるのではないか、という議論もたしかに存在します。しかし、そうした議論がある中でこの指標が選ばれているのは、日本の女性管理職比率の低さが背景にあります。

2021年の調査によると、各国の女性管理職比率は、欧米諸国ではスウェーデン(43.0%)、アメリカ(41.4%)、オーストラリア(40.0%)、アジア諸国はフィリピン(53.0%)、シンガポール(38.1%)など、その多くが3~4割近い割合を維持しています。一方で、日本は13.2%と相対的に低く、ここが問題視されているのです*2。


②男性育児休業取得率

配偶者の出産・育児のタイミングで、男性が子育てのために取得する休業の割合を示します。男性が育児に参加する文化を推進し、ワークライフバランスを実現するための指標として活用されています。

意外かもしれませんが、日本の男性育児休業制度は世界でもトップクラスとの評価を受けています。例えば、経済協力開発機構(OECD)と欧州連合(EU)に加盟している41カ国を対象にした調査では、1位の評価を得ているほどです*3。

一方で、制度自体は高く評価されているものの、実際の取得率は決して高くありません。ある調査によると、2023年の育休取得率は24.4%であり、制度に対する評価と比較して、あまり利用されていないことが明らかになっています*4。

政府の狙いは、おそらく男性の育休取得率を高めることで、男性も育児に参加することにより男女平等を推進しようとすることです。また、この変化を契機にダイバーシティの推進やワークライフバランスの実現を加速させたいという狙いもあるでしょう。


③男女賃金差異

最後に「男女賃金差異」です。男女間の賃金格差を示す指標で、公平な労働環境を提供するためにこの差異を縮小させることが目指されています。

2023年7月、大手銀行5行の男女賃金格差が50%前後という報道があり、多くの方が驚いたことでしょう*5。全国的に見るとこれほどではありませんが、それでも男女間の賃金格差は存在します。具体的には、男性一般労働者の給与水準を100としたとき、女性一般労働者の給与水準は75.2となっており*5、同じ仕事をしていても女性の賃金は男性の約75%であることが示されています。

この格差は、他の国々と比べても大きいと言われています。2022年のデータによると、日本に男女賃金格差はOECD平均(11.9%)の約2倍あります。また、米国17%、英国14.7%などと比べても、日本は男女の賃金格差が大きい国であることが分かるでしょう。

もちろん、この格差の背景を理解することも大切です。働き方やキャリアパスの違い、育児や介護などの家庭内役割など、さまざまな要因が影響しています。こうした背景も理解しながら、それでも格差が存在すること自体が、労働市場における公平性の観点から問題であると考えられているのです。


これまで人的資本に関する3つの指標を見てきました。人事としては、これらの指標を理解するだけでなく、それらがなぜ義務化されたのか、その背景も押さえておくことが重要です。

指標の存在理由や背景を理解することで、企業の人的資本経営に関する課題や取り組むべき方向性をより深く理解し、適切な人事戦略を策定することができます。


(参考情報)
*1 PwC「人的資本に関する開示状況の分析(2023年3月期有価証券報告書)」https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/sustainability/human-capital-analysis02.html(2024年2月20日アクセス)*2 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2023」*3 文春オンライン「育休制度は世界1位なのに 日本のパパが5%しか育休を取らない理由」https://bunshun.jp/articles/-/13318(2024年2月20日アクセス)*4 HRpro「【男性育休白書2023】男性の育休取得率は5年間で約2.5倍、取得日数は約10倍に。マネジメント層や一般社員の意識変化は?」https://www.hrpro.co.jp/trend_news.php?news_no=2256(2024年2月20日アクセス)*5 ニッキン「大手行5行、男女間賃金差は50% 女性幹部登用に課題」https://www.nikkinonline.com/article/113723(2024年2月20日アクセス)*6 男女共同参画局「男女間賃金格差(我が国の現状)」https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/07.html(2024年2月20日アクセス)
*7 日本経済新聞「男女の賃金格差とは 日本はOECD平均の2倍の水準に」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD2419F0U3A121C2000000/(2023年2月20日アクセス)

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