人事評価の納得感を高める「キャリブレーション」ーー 3つの成功の鍵
年度末の人事査定が迫ると、多くのマネジャーがメンバーの評価に悩みます。
「あのマネジャーのもとでは、昇進が難しいらしい…」
こうした噂や心配を避けるためには、他チームのマネジャーと連携し、評価結果について共通の理解を築くことが肝要です。
協力して目線を合わせ、公平な評価を実現するために調整を行う ーー つまり、「キャリブレーション」が何よりも重要です。
人事評価における公平性追求:キャリブレーションの役割
キャリブレーション(Calibration)とは、評価者間の評価基準への認識を揃え、評価結果を補正していくプロセスを言います。要するに「評価の調整」や「評価基準の目線合わせ」のことです。
どんな評価者であっても、その評価結果に一定の認知バイアスが影響してしまうことは避けられません。たとえば、一緒にプロジェクトに取り組み貢献してくれたメンバーに対しては高い評価をつけがちであったり、オフィスで懸命に働いているメンバーを見かけて、リモート勤務のメンバーと比較して好印象を持ってしまったりするなどです。
自分のチーム内でさえ、これらのバイアスが影響するのです。他チームのメンバーと比較した評価においては、さらに認知バイアスの影響はあることでしょう。
こうした認知バイアスが取り除かれないまま評価結果をメンバーに伝えると、不公平さを感じ、モチベーションが下がるかもしれません。場合によっては、自身の能力を適切に評価してもらえる環境を求め、他の機会を模索し、最終的には退職する可能性も考えられます。
こうならないためにも「キャリブレーション」は重要なのです。では、どのように取り組めば良いのでしょうか。
人事評価に、完全なKKNは実現できない
キャリブレーションに取り組む際、まず押さえておくべきは「評価における完全なKKNは実現できない」ということです。
つまり、評価が(K)公平(判断に偏りがないこと)、かつ、(K)客観的(主観を排除すること)で、その結果に対して誰もが(N)納得(もっともだと認めること)できている状態をつくるのは不可能だということです。
ただ、完全なKKNを実現できないとしても、評価者はその評価結果に「公平性」「客観性」「納得性」を限りなく追求する姿勢を持つことは不可欠です。そして、こうしたKKNを実現する取り組みが「キャリブレーション」なのです。
では、何が肝になってくるのでしょうか? 具体的には次の3つが肝要だと考えています。
成功の鍵① 基準づくり
キャリブレーションを進める際、一番力を注ぐべきは「基準づくり」です。
「何がどこまでできていれば、どんな評価になるのか?」
こうした基準の言語化が緩く、その結果、マネジャー(評価者)間での共通認識が揃っていない場面を見かけたことはないでしょうか。こうした基準があいまいな状態では、その後の評価もうまくいきません。
さて、このとき注意したいのは、人事部門が単独で基準づくりを進めないことです。人事部門が単独で基準をつくってしまうと、現場の理解が進まなかったり、納得感が高まらずに適切に運用されなかったりしてしまいます。そのため、評価基準について現場と協力し、議論を積み重ねて明確に言語化することが重要です。
また、マネジャーはメンバーと積極的にコミュニケーションを取り、基準に対する認識を揃えることが重要です。特に、年初の目標設定のときに、基準も明確に擦り合わせておかないといけません。こうしたスタートから認識がズレてしまうと、その後も擦り合わなくなってしまいます。
成功の鍵② 目標の認識合わせ
次いで大事なのは、「目標に対する認識合わせ」です。
この認識合わせは、特にマネジャー間とマネジャーとメンバー間の両面で取り組む必要があります。
まずマネジャー間では、部門内などでマネジャーが集まり各メンバーの現状や目標を踏まえて、適切な水準に対する共通理解を築くことが大切です。たとえば、営業組織の場合、各担当者が担当する顧客や売上目標をもとに、「売上目標に対してどの程度達成すれば、どんな評価になるのか?」などを擦り合わせておくのです。
同様に、マネジャーとメンバー間でも同様に合意形成が必要です。メンバーの現状を踏まえ、「この一年で何をどこまで取り組むべきか?」「どのような状態に到達すれば、どんな評価が得られるのか?」など、評価基準に関して具体的に認識を揃えておくことが重要です。
成功の鍵③ 評価結果のズレ解消
最後に重要なのは、「評価結果のズレ解消」です。キャリブレーションの文脈では、このズレ解消がもっとも取り上げられ、慎重に進められると言っても良いでしょう。
その代表的な取り組みが「キャリブレーション会議」です。会議では、各評価者が持つ主観的な評価のズレを取り除き、特定の評価項目において評価が偏っていたり厳しかったりする傾向を調整します。そのため、複数の評価者が協力して対象者に関する意見を共有し合います。
具体的な事例として、メルカリさんの取り組みは参考になるでしょう。メルカリさんでは、マネジャーが集まり、自身のメンバーの評価について他マネジャーにプレゼンを行っています。同時に評価だけでなく、バリューの体現も見ていくことで、カルチャー醸成も行っています。出席者も、マネジャー陣だけでなく、経営や人事部門も同席しており、多面的な視点を入れることで、客観性や透明性を高めています。
「キャリブレーション会議」の頻度は会社によってさまざまで、年に一回のところもあれば、半年に1回、四半期に1回など、年に複数回行っている会社もあります。
こうした会議体以外に、マネジャーとメンバー間でのズレ解消も行うことが重要です。具体的には、定期的に行われる評価面談で、評価結果を伝え、そこにズレがあればお互いの認識を揃え、解消を目指していくのです。
公正で透明な人事評価の運用を目指して
ここまで、人事評価の納得感を高めるために必要な「キャリブレーション」について見てきました。
キャリブレーションに取り組むことで、評価基準が明確になり、評価プロセスが透明化されることで、評価結果に対する理解が深まるでしょう。また、評価者自身も自分の評価が公平であると確信できるため、評価結果の説明やフィードバックがスムーズに行うことが期待できます。
こうした取り組みに課題感をお持ちであれば、是非、キャリブレーションの導入と運用を検討してみてはいかがでしょうか。
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