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【夫婦巡礼】無職の夫婦が800km歩いてお店を出す話【旅物語】⑮

巡礼8日目

ログローニョ ~ ナヘラ

■ログローニョ~ナヘラ

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朝8時にアルベルゲを出発した。

今日の目的地はナヘラ。ログローニョからおよそ30kmほど歩くことになる。

■巡礼の道で見た空

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大きな池のある公園を抜け、坂を登る。

地元の人が朝から散歩したり、ランニングしたり。「おはよう」と声をかけてくれるのが嬉しい。

巡礼の途中出会った空は、いつだってとても広かった。リオハ州にはブドウ畑が多く、どこまでも広がるブドウ畑と空という構図が良く見られる。

僕が好きだったのは【飛行機雲】。

いくつも引かれた飛行機雲の綺麗な直線は、まるで大きなキャンパスに描かれた芸術。

描かれては消え、また生まれる幾つもの作品は芸術の国スペインらしく、いつだって僕を楽しませてくれた。

美しい空に心が動き、穏やかな気持ちになる

巡礼の道は、そんな単純な事がどれだけ幸せかを気付かせてくれる道だと思った。

■救護院と巡礼者

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ナバレテと言う街の手前に、かつての救護院跡が残されている。

救護院はその名の通り、巡礼者達の救護及び一夜を提供する宿泊所として機能していたそうだ。

現代と比較すると中世の巡礼の過酷さは計り知れない。交通手段も食料も医療技術も全てにおいて現代に劣る中で、それでも巡礼者は歩いた。きっと体を壊す者も、命が尽きる者もいたであろう時代に、この救護院がどれほど巡礼者達の心の拠り所であったかは計り知れない。そう思うと信仰の力、人の優しさに心が熱くなる。そんな時代が、きっと日本にもあったのかもしれない。

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街に入ると直ぐに大きな教会を見つけた。

豪華絢爛な装飾に彩られた祭壇とは対照的に、教会内は厳かな静けさに包まれていた。

何人かの巡礼者は、長椅子に座り熱心に祈りを捧げている。彼らは何を思い、その視線の先に何を見ているのだろう。

今まで宗教について考えたこともなく、信仰の意味を考えたことも無い僕にはきっと想像もつかない事なのだろう。

そう言えば、同じような光景を昔インドのヴァラナシでも見たことがあったな。

あの時も、同じように熱心に祈る姿を不思議そうに眺めていた。

あの頃の不理解は、年を重ねた今もなお分からないままだ。

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■ブドウ畑を抜けて

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ナヘラへ向かう途中風変わりな親子を見た。

女性巡礼者たちと写真撮影に勤しむ彼らは、昔の巡礼者の格好を模しているのだと言う。本当に、色んな巡礼の形があって面白い。

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今日はずーっとブドウ畑を見ながら歩いていた。まだ葉が繁らないブドウ畑は荒涼としていて、どこか違う星に迷いこんだように錯覚する。

この畑も、もう少しすると青く繁りブドウの実を付けるだろうか。人が収穫する様子はさぞ画になるだろうなと思うと、それが今見られない寂しさと羨ましさが増す。

残念だなぁと視線を落とすと、その先に、ふとブドウの葉が芽生えているのに気がついた。

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もう今にも芽を出す準備は出来ているから。そう言われているようだった。

ひと月かけて旅をすれば、その間に季節は確かに移ろって行く。この小さな芽が出て葉が広がるのも見られるかも知れない。そんな期待ができるのは、ゆっくりと歩く旅だからこそなのかもしれない。

■初めての寄付制アルベルゲ

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ナヘラの街へ到着したときに、まず探したのが公営アルベルゲだった。

巡礼事務所で各町のアルベルゲの一覧が書かれたものを見た時に、「ナヘラだったらここにしたいね」と妻と話していた宿だ。

このアルベルゲの特長は、寄付制だということ。つまり営利目的は無しで、単純に巡礼者のために設けられた、善意と信仰心の表れのような宿だと言うことだ。

シャワー、洗濯、自炊と全て揃っている宿で、全員同じフロアで雑魚寝と言うことを除けば誰もが満足する宿だと思う。

いくら支払えば良いのだろう…と思いながら恐る恐るお金を出したのは、巡礼の良い思い出の一つだ。

道を歩いていくと「寄付」が身近に感じる。これについては、何に基準を置くべきかという事が寄付の金額を決めるのだろうけど、それについて考え始めるのはもう少し先の事になる。

■ヨンチャンの優しさ

今日も僕たち夫婦とモモちゃん、ライアン、ヨンチャンの五人組は同じアルベルゲだった。

どうも、皆【公営アルベルゲ】に集まる節があるようだ。

日々のアルベルゲ選びは、かなりその人の志向が表れるらしい。節約とか、快適さとか、求めるものによって宿が変わり、そして最終的に似た志向同士が同じ宿に集まるのは面白い。

この日は珍しく、ヨンチャンが料理を作るから!と言い出した。

はぇー、珍しいけどどうしたの?と不思議に思っていると、ライアンがそっと教えてくれた。

「ヨンチャンは、この前ダイスケサンが作ってくれたパスタのお礼がしたいんだって」

なるほど、そう言うことだったのか。

ヨンチャンは大学生ほどの歳の子だけど、とっても面白い。言葉が堪能なわけでもないけど、伝えようとしてくれる事が嬉しい。そしてかなりパズドラが好き。

その夜、宣言通りヨンチャンはライアンに手伝って貰いながら辛チャーハンを作ってくれた。

「スパイシー、オーケー?」

心配そうに何度も何度も僕達に確認しながら作ってくれたチャーハンは、とても美味しかった。それでなくても彼が僕達のために一生懸命作ってくれたご飯が、美味しくないなんてはずがない!その心が何よりも嬉しかった。

食後は、妻が用意してくれたフルーツポンチを食べた。チャーハンの辛さからの甘いデザートは名案だった。どうやら妻はスーパーで買い出しをしたときにヨンチャンから何を作るか聞いていたらしい。さすが、抜け目がない!

この日の最後、モモちゃんが

「私も何か作りたいな」

と言ってたのが印象的だった。

人の善意や優しさが伝播するのを実感する。

そして、この日のライアンヨンチャンの優しさ、妻の機転とモモちゃんの気持ちが、少しずつ巡礼の【友達】が【家族】のような存在になっていく様に思えた。

■神との遭遇

最後に、しかしこの日の夜はすごい音だった。この日に出会った巡礼史上最大のイビキを書く旅人を、僕達は敬意を込めて【神】と呼んだ。

どのくらい凄かったか。

スビリで出会ったイビキ魔神と呼んだ彼よりも凄く、耳栓をしても骨を伝って内から語りかけてくるかのような。そのくらい響いた。

モモちゃん、妻はこのイビキで寝不足になってしまった。

しかし何度も言うが、この旅において【イビキ】は避けて通れない万人の悩み。

受け入れて、対応していくしかないのだ。

「ないのだ!」と言いつつ、この夜をあと何度過ごせるかと聞かれてしまうと、それについて笑顔で満点回答出来るほどの自信を僕は持ち合わせていなかった。

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ログローニョ ~  ナヘラ 

歩いた距離 30km

サンティアゴまで、残り約600km

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