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《Step6》はじめての山小屋〜金峰山

 お店の皆と行く山の企画。今月は山梨県と長野県の境にある日本百名山、金峰山だ。

 金峰山は奥秩父の父と呼ばれた登山家、山岳研究者の木暮理太郎(1873-1944)に「百貫の貫禄を具へた山」と評された美しい山である。僕個人としてここへ来るのは積雪期に2回と、夏の奥秩父主脈全山縦走の際に訪れた1回を含めて4回目の登山になる。何度でも来たくなる山。今回は金峰山小屋に泊まり山頂から日の入り、日の出を堪能するコースを歩いた。


金峰山について

山頂の五丈岩

「甲州御岳山」と呼ばれる信仰の山

 標高2,599mの金峰山は「きんぷさん」「きんぽうさん」と呼び方は様々であるが、古くから「甲州御岳山」とも呼ばれている。あまりに金峰山がしっくり来すぎて甲州御岳山という言葉が入ってこないが、実は金峰山は日本三大御嶽の一つである。

 金峰山は“甲州御岳山”、東京都の御岳山は“武蔵御岳山”、そして“木曽御嶽山”。この三山が日本三大御嶽と呼ばれる。これらは全て蔵王権現を祀る山である。【御岳】と言う名称にも理由があって、語源を辿れば飛鳥時代まで遡ることになる。まずは蔵王権現が何なのか?と言うことから紐解いて行く必要がある。

 
 日本の至る所で目にする【蔵王】【蔵王権現】とは正式には金剛蔵王権現、もしくは金剛蔵王菩薩と呼ばれる日本独自の山岳仏教である修験道の本尊のことを言う。蔵王権現の本尊は奈良県吉野町にある金峯山寺本堂(蔵王堂)に安置されている。
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※名称の説明としては、
“金剛蔵王”とは
「究極不滅の真理を体現し、汎ゆるものを司る王」
“権現”とは
「権(かり)の姿で現れた神仏」であり、仏、菩薩、諸尊、諸天善神、天地地祇全てを包括する。
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 蔵王権現は飛鳥時代に役小角が吉野の金峯山での修行中に感得されたのが起こりであると言うから、甲州御岳山(金峰山)、武蔵御岳山(御岳山)、木曽御嶽山のいづれも源流は吉野の金峯山にある。御岳というのは、吉野の吉野山から山上ヶ岳にかけての一体が古来より金峯山、金の御岳と呼ばれ聖域化されていたことが由来なのだそうだ。冒頭に触れた山名の呼び方も、吉野の金峯山に倣うのであれば「きんぷせん/きんぷさん」の方がしっくり来る気がする。

縁起/御祭神

 金峰山の山頂にある五丈岩は、里宮の金櫻神社の本宮にあたり、御祭神は少彦名命(スクナヒコナノミコト)、大己貴命(オオナムチノミコト)、須佐之男ノ命(スサノオノミコト)、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)、櫛名田比売命(クシナダヒメノミコト)が祀られる。

 日本武尊が東征の際に訪れた際に、山頂の巨岩を見てこの山が霊山だと感じ、巨岩の下に社殿を建て、そこに大己貴命と少彦名命を祀ったとされるのが起こりとされる。二柱が鎮座する御像岩が転じて五丈岩になったという説がある。金峰山のシンボル的な存在の五丈岩は、昔から神様が宿ると信じられてきた御神体だ。山体は黒雲母花崗。
 かつては五丈岩を登る登山者も多くいたようだが、現在は里宮の金櫻神社が五丈岩への登頂を固く禁じている。御神体なのだから、当然といえば当然である。僕が前に来た時には、鳥居の向こうに登頂を禁止する旨の立て看板などなかった。無作法者の行いで御神体とされる聖域に看板を立てなければならなくなったことが悲しい。

山行記録

コースタイム

廻目平から林道歩き

【1日目】
金峰山荘(11:40)→金峰山小屋(15:20)→金峰山山頂/五丈岩(16:00)→金峰山小屋(16:30) 宿泊
【2日目】
4:00起床。山頂にて御来光。
金峰山小屋(6:30)→砂払ノ頭(7:23-7:50)→大日岩(8:40-8:53)→大日小屋/テント場(9:35)→鷹見岩(9:55-10:08)→富士見平小屋(10:33-11:15)→瑞牆山荘前(11:50)下山
※()内左が到着時間、右が出発時間。

【1日目】廻目平〜金峰山小屋

 今回の山行の目的は「富士山に向けて標高の高い山へ登る」ことと、「山小屋の宿泊に慣れる」ことだった。1日1,000mの登りをしっかりとこなし、余裕を持って小屋で過ごす。2日目は同等の下りを、これもまた余裕を持ってこなすことが目標だ。山行の参加者は全員で9名。そのうち山小屋泊が初めて、もしくは2回目という方は3名だった。
 小淵沢駅から小海線に乗り換えて信濃川上駅へ行き、そこからジャンボタクシーを使って廻目平キャンプ場へ向かう。当日は他にツアー会社の団体も登山されるようで、思いのほか賑やかなスタートになった。

水音が爽やかで気持ちが良い。

 廻目平から金峰山登山口までは左手に沢を見ながら緩やかな林道を歩く。天気も良く、青々と茂った木々を見ながら歩くのは気持ちがいい。沢にかけられた橋を渡ると登山口で、ここから登山本番となる。

休憩のときは沢の水で体を冷やして。
時々見かける看板に励まされる。

 高橋ガイドの軽快なトークと絶妙なタイムマネジメントで全員が無理なく登っていく。時々混ぜてくる「今標高何メートルでしょう?」クイズも、以前よりも皆の反応が良くなった。それぞれに地図を見て予習したり、歩きながら意識しているのが見て取れる辺り、チームとして成長しているのを感じる。
 僕はと言うと、それを後ろから見つつ写真撮影に取り組んだ。しんがりの難しいところは皆の表情を取りづらいところだが、せめて風景や植物の写真から撮れるようにしていこう。

バイカオウレン
キバナコマノツメ

 15時過ぎには金峰山小屋に到着した。チェックインを済ませた後は、荷物をデポして山頂へ向かう。山頂直下の山小屋はアプローチしやすくて助かる。

金峰山山頂〜金峰山小屋(夕食、日没)

小屋前から。早く着いたら一杯やって寛ぐというのも良い。

 小屋から山頂までは歩いて20分ほど。快晴の中、瑞牆山や八ヶ岳を後ろに登る。

ちょいちょいカメラを意識してくれる(笑)

 全員無事に登頂した後、360度の絶景を楽しんだ。八ヶ岳、南アルプス、木曽御嶽山、浅間山の方面もよく見える。もちろん富士山もだ。7月には今年も富士山に挑戦するわけだから、今のうちに神様にもお願いしておかねば。

遠くに富士をのぞむ

 絶景を堪能したあとは小屋へ戻って17:30に夕食をとる。金峰山小屋は夕食も美味しいと評判。今晩はなんとチキンソテーだ。スイカまで付いている。それに、お代わりするとカレーが貰える。すごい!

大きなチキンにサラダとスイカが付く。
おかわりのカレー。嬉しすぎる。

 お腹いっぱいになったところで、そろそろ日没時間が迫ってきた。ずいぶん日が長くなったもので、今日の日没時刻は18:57だそうだ。皆で小屋の外で夕日を眺める。一人また一人と、撮影した写真のSNSに投稿すると高橋ガイドが目ざとく確認しては報告してくるのがおじさん可愛い。夕陽の沈み際、八ヶ岳が真っ赤に燃える。今回も良い夕陽が見られて良かった。山行のハイライトの一つとなった。

八ヶ岳と日暮れ

 日没後はお待ちかねの酒盛りの時間だ。今回も各々お酒を持ち寄って酒を酌み交わした。消灯時間は20:30とのことで、他ツアー客は早々に引き上げ、客間には僕たちだけとなったが、さすがに皆飲みのレベルが高い。消灯15分前には切り上げ、片付けまで完璧にして就寝した。なかには外に出て星空を眺めに行った人もいて、快適な山小屋での夜を過ごした。

【2日目】金峰山山頂(日の出)〜朝食

幻想的な朝の富士山

 翌朝は4:00起床。日の出は4:27とのことだから、山頂に行っても充分間に合うだろう。昨夜は一度も起きることなくよく寢られた反面、布団から出るのが億劫になりながら渋々這い出て山頂へ向かう。

 周囲は薄くガスが掛かっていたものの、山頂からの朝の景色は概ね良好だった。山頂から大弛峠方面へ向かう岩場に登って朝焼けの富士を見る。後から登ってきた高橋ガイドの方を見ると、常連さんたちと山座同定をしていた。山座同定アプリを使えば即解決する話だが、やはりどの山がなにかすぐわかるのはガイドとしての経験と知識が成せる業だと感心してしまった。聞けば大概のことは答えてくれるんだもの。

格好つけて山座同定をする高橋ガイド

 皆が朝食を取りに下山するのを横目に、もう一度五丈岩の側まで歩いた。表と裏のお社に手を合わせて、今回の山旅への感謝を申し上げるとともに再来月の富士山行の成功を祈念した。
 そういえば、五丈岩の頂には“甲斐派美”と呼ばれる池があると昔は信じられていた。その池が甲斐、武蔵、信濃の諸河川水源として鎮座したということから、金峰山は耕作守護神としても信仰を集めたそうだ。今でも金峰山、瑞牆山源流は平成の名水百選に選ばれるほど良質の水の産地であるが、これは古来より不変だったようだ。

 朝食にはおかゆを出して頂いた。山小屋でおかゆを食べたのは初めてだったが、これが良かった。朝一番で食欲のない人でも食べやすく、塩気が効いていて体に沁みる。山で不足しがちな塩分を補給できたようで嬉しく、朝食も思わずおかわりをしてしまった。おかゆ、いいなぁ。

小屋内観
寝室スペース

 金峰山小屋はどこかノスタルジックな昔ながらの雰囲気で、時間が許す限りのんびりと過ごしたくなる宿だった。小上がりに用意されたコタツに入りながら山話で盛り上がり、また次の山の目標が決まっていく。季節を変えて、また来たくなる。

下山〜富士見平小屋

気持ちの良い稜線歩き

 6:30に金峰山小屋を後にして下山を始める。事情により山行メンバーからは1人が別行動となり、8人での下山となる。今日は天気も下り坂の予報なので、雨が降る前にさっさと下山してしまおう。

 ゴツゴツとした稜線を歩きながら絶景を堪能する。吹く風が少し冷たいが、風対策の良い練習でもある。こまめに脱ぎ着出来るよう休憩を挟む。

 休憩の度に思うのだが、カメラを向けたくなるようなシャッターチャンスを作ってくれる人と言うのがどのタイミングでも現れる。そういう人は一度だけ、と言うより何度もそういうタイミングを作ってくれる。カメラ初心者としては大変有難くシャッターを切らせて頂いた。

 稜線上には千代の吹上と言う断崖絶壁がある。ここにも実は由来となる伝承があった。かつて女人禁制だった頃に金峰山に登った夫婦がいて、その妻がこの断崖絶壁から落ちたという。悲しみに暮れた夫が山頂の社で七日間妻の赦免を祈願したところ、吹き上げられた風と共に傷一つない妻が戻ってきた。と言う伝承のようだ。崖から下を覗くと風が下から吹き上げてくる。強風の日は注意が必要かもしれない。

 その後は大日岩を経て大日小屋、富士見平小屋と順調に下る。下山路にはシャクナゲも咲き始めていた。この時期だと聞いていたが、廻目平側にはまだ咲いておらず半ば諦めていたので嬉しい。

シャクナゲ
イワカガミ
タチツボスミレ

 途中別働隊として鷹見岩に立ち寄った。登山路は倒木が多く身を屈めて潜り抜ける箇所がいくつかあったが、辿り着いた鷹見岩からの見晴らしは最高だった。隠れスポットとでも言うべきか。ちょこっと脇道にそれて、コーヒーブレイクなんていうのも良いかもしれないと思った。

富士見平小屋〜下山、打上げ

 10:30頃には富士見平小屋に到着した。テント場には沢山のテントが張られていた。ここでテントを張って、瑞牆山と金峰山を巡るというのも定番のコースだ。個人的には富士見平小屋でコーヒーを飲む。と言うのが今日の一番の目的だったので、早速小屋に入れて頂き注文する。

コーヒーとケーキ

 森の中の小屋でコーヒーとケーキなんてなんて素敵なんだと思う。山を始めたての頃とは、こういう所の趣向が変わったと自分で思う。始めたての頃は、小屋なんて見向きもしなかった。ただ山頂と登山口を往復し、それにかかったタイムしか気にしなかった頃。それが悪いとも思わないが、足を止めて過ごす余裕のある山歩きも良い。「雰囲気が良いですね。」とお喋りをしながら、少しの間疲れを忘れる。そういう山がすっかり好きになってしまったようだ。“山小屋巡り”、“山の歴史”が、近年の個人的な楽しいテーマになっている。

あたたかな灯り
山小屋とは思えない素敵な空間
めったにお目にかかれない登山用具たち

 休憩の後、ゴールの瑞牆山荘までの下りを歩く。特に危険箇所はなく、足元にだけ注意する。休憩を多めに取っているからか、皆の足取りも軽い。笑顔で怪我なく全員が12時前に下山した。
 韮崎へ帰り、打上げ組は甲府へ移動。時間帯的に営業している店も限られて、結局奥藤本店、小作と甲府の名店をはしごした。鳥モツ煮、馬刺し、馬のモツ煮など、郷土料理に山梨の地酒で今回も良い締めくくりになった。

小屋泊の課題

 今回も全体を通して良い山行だった。突き詰めていけば、下山後に初めての小屋泊だった参加者の皆さんにヒアリングしたところ、いくつか課題も見つかった。初めての小屋泊でちょっと困ったという点は、いびき対策、荷物整理、食糧計画。この辺りのようだった。

①いびき対策
 
これはいつどんな場合も、宿泊すればついて回る課題である。多数の登山者が過ごす空間なので、全くの無音で夜を過ごすことはまずありえない。その前提の上で対策があるとすれば、耳栓やイヤホンを使った防音対策、早めに入眠出来る対策ツール(アイマスク、場合によっては睡眠導入剤?)、それと、周りの人よりも早く寝てしまうという心がけ。これだけでもずいぶん違うように思う。1日歩いた後だから体も疲れているし、比較的入眠しやすい状態ではあると思うから、山小屋での過ごし方をもう一度整理し直してみても良い。ちなみに僕は仕事柄前日にほとんど睡眠が取れないので、小屋で1日を終えたら3分あれば爆睡できる。いびきをかいていたらすみません。

②荷物整理のタイミング
 これは言われてなるほどと思った。「夜寝る前に荷物を取り出すと、音が出て周りに気を遣うからやり辛い。」「結局必要な準備を出来ないまま入眠に入るので、足りなかった準備が不安で寝付けない。」と、こう言うことらしい。
 個人的には、宿に着いたらまずやるのが荷物整理だと思っている。布団の準備、明日の準備、寝る準備。これらを終えて、あとは夕食を食べて、寝るだけという状態にしておくのが一番楽だ。何せ夜の小屋は電気が無ければ薄暗く、ヘッドライトがあっても準備に手間取る。明るいうちに全てを終わらせておこうと言うアナウンスはこちらで強めに言っても良かったなと反省した。

③食糧計画
 これは山小屋で、と言うよりは2日間通しての課題かもしれない。何をどのくらい食べるかは各々違うが、基本的には初日の昼飯、翌日の昼飯は想定する。ただし、2日目(もしくは2日目以降)の昼飯は、行動計画による。
 今回の場合は正午には下山できること、その前に富士見平小屋で軽食が取れることが計画としてあったから、結果的に昼飯はあまり必要ではなかった。昼飯と言うよりは、「行動食をしっかり用意しておいて。」と言ったほうが良かったかもしれない。この辺りは個人差あるので難しいが、事前の行動計画を周知徹底と「〇〇だからこのくらい用意して」と言う根拠はあっても良かったかもしれない。

今回の三点はそのまま富士山でも活きてくるので、きちんと不安解消して本番に望みたいと思う。そうすれば、きっと楽しい山行になるはずだ。


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