見出し画像

「廃棄」されていた製品や原材料を新たな「資源」として活用させるサーキュラー・エコノミーとブロックチェーン


前回は物流という観点で、記事を書かせて頂きました。この記事では、既存の物流をテーマとしましたが、今回は、未来の環境やスマートシティにひもづく、「モノの流れ」をテーマにしたいと思います。

スマートシティとブロックチェーン

ここ数年で、スマートシティという言葉を聞く機会が増えてきました。世界でも多くのプロジェクトが進められているようです。現在73億人の世界人口が2050年に95億人に達するという見通しで、エネルギー消費が爆発的に増えることの懸念から、IoTやAI、ブロックチェーンなどの先端技術を用いて、人々の生活の質を高めていくことが求められています。

トヨタはなぜNTTとタッグを組むのか? 見えてきたトヨタのスマートシティ構想
https://jafmate.jp/blog/next-mobility/20200407-60.html

スマートシティという観点でのアプローチにもいくつかの手段があります。大きく分けて6つのカテゴリがあります。

・Smart Living(スマートリビング・生活)
・Smart Energy(スマートエネルギー・環境)
・Smart Economy(スマートエコノミー・経済活動)
・Smart Learning(スマートラーニング・教育)
・Smart Mobility(スマートモビリティ・交通)
・Smart Governance(スマートガバナンス・行政)


エストニアの最先端のデジタルデータ基盤


ブロックチェーンに関わっている方が、最初に思いつくのは、スマートガバナンスの先駆けとも言える、エストニアのe-ResidencyX-Roadなどの話題ではないでしょうか。
X-Roadはエストニア国内で使われているデジタルデータ連携基盤のことで(X-Roadは厳密にはブロックチェーン技術とは異なりますが)、この基盤のおかげで、国民は、電子IDを活用することで住民情報・医療記録の管理や閲覧・納税・投票など、多くのサービスをオンラインで利用することができます。

電子国家のエストニアを支える技術「X-Road」とは何か--現地の日本人が詳しく解説
https://japan.cnet.com/article/35153337/


数年前、エストニアの住民票を取ることが少しブームになったことがありましたが、海外からでもWebサイトからアクセスするとエストニアの住民になることができます。

噂の「電子国民」になってみた 飲み会程度の費用で得た「心の余裕」https://withnews.jp/article/f0180609000qq000000000000000W01l10701qq000017385A

日本のマイナンバー自体もこれらエストニアの事例を参考に作られたそうです。日本では、まだ公共料金の支払いなどはできない為、マイナンバーも、もっと色々なものと紐付けて便利なものになると良いと思います。
とはいえ行政の仕組みを作るのは少しハードルが高い。もう少し、ボトムアップでできることはないかな?と考える人もいるかもしれません。そんな方にみていただきたいのは、アムステルダムが促進しているサーキュラーエコノミーの事例です。

アムステルダム発のサーキュラーエコノミー

ブロックチェーンが語られるテーマの一つとして、サーキュラーエコノミーというものがあります。サーキュラー・エコノミー(Circular Economy:CE)とは、再生し続ける経済環境を指す概念で、製品・部品・資源を最大限に活用し、それらの価値を永続的に再生・再利用し続けることを目的としています。世の中には、たくさんの無駄が存在しています。たとえば、資源の無駄であるとか、捨てられる素材、まだ使えるのに捨ててしまう製品などのことです。企業はサーキュラー・エコノミーを導入することで、そうした無駄を活用し、利益を生み出すことが可能になります。

事例をいくつかピックアップしてみます。

1.規格外などの食品や廃棄レストランへの流用モデル
「Imperfect Produce(インパーフェクト・プロデュース)」規格外野菜を農家から買い取り、スーパーで販売されている定価の30~50%引きした価格で販売するなど低価格での再販サービスや有機野菜の通販「オイシックス」は、味も栄養価も変わらないのに廃棄される規格外野菜に着目し、規格外の商品を低価格で販売などをおこなっている。同様にして、廃棄食材は通常より安価で調達ができるため、一流シェフの料理もリーズナブルな価格で食べることができる「Instock」などのようなサービス展開が可能 
(参考)INSTOCK Turns Rescued Food into Delicious Meals 一流シェフが腕をふるう「廃棄食品レストラン」(AMSTERDAM)
https://www.earthackers.com/instockrestaurantamsterdam/

2.家畜の餌、飼料などへの流用モデル
エコフィードへの応用。食品事業者からは「これまではお金を払って処分していた廃棄物」がタダで処分できたり、逆に多少の収入を伴って処分することができ、さらに、畜産業者にとっては、事業費の3~6割を占めている飼料代が節約できれば大きなメリットとなる。配送コストを差し引いても、家畜などへの流用モデルは有用で、安定的な食品ロスの供給ができれば、これらのモデル事業は有効となる。

3.アパレルや雑貨、家具など食品以外の市場への流用モデル
Ottan Studioなど、廃棄された食糧をアップサイクルし、家具や照明、装飾品や建築部材などの製造、販売を行なっている企業があるが同様にアパレルや、雑貨などへの流用を目的とする。これらの取り組みは焼却も輸送もせず、その場で新しい資源に変換することから、循環経済(サーキュラーエコノミー)と呼ばれており、アムステルダムなど世界各地で取り組みが盛んに進められている。

スクリーンショット 2020-10-16 16.58.09

https://www.instagram.com/p/BlV_lRNDU-W/?utm_source=ig_embed

ここにご紹介したのはほんの一部ですが、これまで廃棄されていたものが新しい経済を作り出すという構図が垣間見えるのではないでしょうか。サーキュラーエコノミーによる経済効果は数百億円とも言われており、これまではただ闇雲に生み出す都市型の経済であったのが、リサイクルをもとにする地方型の経済に変わりつつあるということができます。


サーキュラーエコノミーとトレーサビリティ

サーキュラー・エコノミートレーサビリティの観点で、ブロックチェーンと非常に相性が良いと言えます。リサイクルをしようとした際に、そのプロダクトは、どのような素材で構成されているか?原料はどのような産地で作られたものか?それらのデータを全て追跡でき、さらには、欲しい人に対して平等にそれらの情報を配布することが可能です、私も使ったことがないのですが、同じようなコンセプトで、Reduce GoTABETEと言われる食品ロスを改善するためのアプリが日本でも提供されています。

他にも様々な事例があります。日本における都市鉱山の話をご存知でしょうか?日本は携帯電話や、ゲーム機などに含まれるレアメタルやレアアースなど、世界有数の資源国に匹敵する規模になっていることが知られていますが、これらを追跡することで、これまで廃棄されていたものをもっと、活かすことに繋がります。建設分野では、AMS Instituteが、市内の建造物にどのような金属が利用されているかを可視化するプロジェクトを実施しました。スマートフォンの壊れた部品のみを交換して永遠に使い続けることをテーマとした、Fairphoneなどはとても未来的です。

環境に配慮したミッドレンジAndroid端末「Fairphone 3」450ユーロで発売
https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1908/28/news064.html

私が愛用しているフライターグというメーカーのバッグは、その高いデザイン性もさることながら、素材として、古いトラックの幌や、シートベルトを再利用して作られており、壊れても、店舗で修理してもらうことができます。(原宿など日本にも複数店舗があります。)

スクリーンショット 2020-06-16 10.41.46

       愛用しているフライターグとレンタルしたBIRD。


トレーサビリティという観点

循環経済を作る要素として、この持続型の経済において新たな「富」を生み出すと期待されるのは、いわゆる廃棄物、ゴミだけではありません。自動車、日用品、部屋、会議室など、現状、使われていない資産なども含まれます。Airbnbであるとか、DeNA SOMPO Mobility が実施しているAnyca(エニカ)の事例があります。この記事の表紙にある画像は、SXSWに参加した時に、オースティンでみた、電動キックボードのシェアサービス「bird」です。街のいたるところに設置されていて、ユーザーはアプリに登録すると自由に乗ることができます。(乗った距離に応じて従量課金制になっています)朝になると、充電された電動キックボードがいたるところに補充されていて不思議に思っていたのですが、たまたま運営者が大きなトラックで回収しているところを目撃し、写真におさめました。この写真のように運営者が集める場合もあれば、第三者が持ち帰り、自宅で充電をして元の場所に戻すことで、報酬を得ることも可能で、シェアエコノミーが成立しています。

1. サーキュラー型のサプライチェーン(再生可能な原料の利用)
2. 回収とリサイクル
3. 製品寿命の延長(修理、再販売)
4. シェアリングプラットフォーム
5. サービスとしての製品(顧客は所有せずに、利用に応じて支払う)

最近は、フリマアプリを通じて、これまで廃棄していたものでもアプリを通じて、流通させることができます。これでも十分な進歩と言えますが、もっと多くのデータを紐付けると可能性は広がります。例えば、ベビーカーや、洋服、子供用の椅子など、ある程度サイクルが早く、不要になってしまうタイミングがわかるものであれば、購入するタイミングから推測して、次に欲しくなる人にスムーズに流通させることなどもできるかもしれません。例えば、これらを都市単位で行うことで、新しい都市開発に活かせるのではないでしょうか。

トークンエコノミーという観点

ブロックチェーンを使う利点として、トレーサビリティの他に、トークンエコノミーという側面から語ることもできます。トークンエコノミーは様々な価値交換をトークンを通じて行うことができる概念です。

2019年のSXSWに参加させていただいたときに、面白いセッションに出会いました。その中の一つがこのプラスチックバンクと言われる海洋ゴミをトークンに変える仕組みです。詳細は動画などを参考にしていただきたいのですが、ブロックチェーンでこれらを実現することによって、価値の交換を可能にしているところが興味深いと思います。

Plastic Bank: Empowering the World to Stop Ocean Plastic
海や、街にある、廃棄プラスチックを集めて、収集センターに持っていくと仮想通貨に交換してくれるサービス。廃棄プラスチックの収集は誰でもでき、手に入れたトークンを用いて、店で食料・水・日用品などを購入することが可能。https://plasticbank.com/

誰かが不要なものでも、誰かが必要であれば、そこに価値がつき、交換をすることが可能です。これは海洋ゴミでもそうですし、フリマアプリでも同じです。あらゆる分野でこのような取り組みを行うことが可能となります。

Conclution

日常の生活では、コストの観点から、修理をしようと思っても購入した方が安いことが多々あります。これにはいくつかの原因があります。例えば、メーカーが閉じられたネットワークの中で設計した製品仕様はパーツや素材の相互互換ができなくなるため、部品を提供することが難しくなることがあります。業界ごとに標準規格のようなものを定め、Fairphoneのように部品を流通させることで解消できないでしょうか。その仕様の公開や、経路には複数の企業がアクセスできるpublicなブロックチェーンを用いることで実現できます。
もう一つの原因として、作られた製品がマーケットに流れた時に、そのデータが生産し、流通し、消費者の手に届いた時点で、止まってしまうことも原因です。再利用や二次流通の可能性を考えた時、現在、所有しているものがどういう状況であるのか追跡し続けることが重要だと思います。(この議論をする上でKYCなどの情報管理については異なる側面で語る必要はあります。)
これらも、マーケットを超えるブロックチェーン基盤に情報を集め続けることで、その情報を誰もが使うことができます。
生産から、トレーサビリティを担保することで、ブランド品などの真贋情報などを担保することにも繋がり、さらには市場価値、需要などを測ることに使われるなど有益なことに繋がる可能性を秘めています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?