【書籍・資料・文献】『ニッポンの海外旅行』(ちくま新書)山口誠

カルチャーショックこそが、海外旅行の醍醐味

 エクアドルガラパゴス諸島に行ったのは、2014年のことだった。首都のキトの2泊、ガラパゴスで5泊、さらに往復の飛行機の移動時間や乗り継ぎの待ち合わせなどを含めると、おおよそ2週間の長旅だった。

 長旅と書いたが、ガラパゴス諸島で出会った旅行者たちは私よりも長い旅程を組んでいた。ガラパゴス諸島は島域の97パーセントが自然保護区に指定されており、そこには国家資格を保有するガイドが同行しないと立ち入ることはできない。

 そのガイドから「地球の裏側から来たのに、たった2週間で帰るのか? 一体、ガラパゴスに何しに来たんだ?」と訝られた。日本出発時、仕事調整で方々に「2週間ほど、ガラパゴスに行ってきます」と伝えていた。その際に先方の反応は「2週間も休んで、ガラパゴスまで何しに行くんだ?」というものだった。

 日本では「2週間も」と言われ、エクアドルでは「たった2週間」と言われる。反応がまったく正反対だったのは印象的だった。その後も、海外に行く際には、できるだけ長旅・長期間滞在をするよう心掛けてきた。できるだけ長く。

 そのためには、宿泊費や交通費を安くするしか術はない。旅行代理店で旅程を相談したことも何回かある。そのたびに「そんな長いパッケージツアーは扱っていません」と言われるのがオチだった。最近では、相談することを諦め、最初から自分で旅程を組むようにしている。

 海外と日本における考え方の違いにカルチャーショックを受けることは多々ある。ほかにも、エクアドルでは入国管理官との英語でのコミュニケーションがスムーズにいかず、最終的には管理官がお手上げを示すジェスチャーをしながら「ユーアーウエルカム」とだけ言い、匙を投げた。

 日本は英語教育に熱心で、英語をマスターすれば世界でもとりあえず通用すると思いがちだ。その思い込みはエクアドルの初っ端で打ち砕かれ、観光地・ガラパゴスでも痛感させられた。キトのホテルでは英語がそれなりに通じたが、街のカフェや土産物店では通じない。

 外国人が闊歩するガラパゴス諸島では英語が当たり前のように通じると言われたが、実際に足を踏み入れると英語が通じる人の方が少ない。通じたのは空港職員とツアーガイドとバカンスを兼ねて海外から働きに来ていたホテルの外国人スタッフ、それとレストランの一部のスタッフだけだった。土産物店では簡単な英語も通じず、車の運転手もクルーズスタッフも英語はカタコト以上にカタコトだった。

 英語は世界共通語ではないーーこれまでの価値観を覆され、英語以外の外国語も少しは勉強しよう。そんな思いから、NHKのラジオでスペイン語を独学で始めた。また、同時に大学時代に第2外国語として履修していた中国語講座も聴くようにした。

 いつまで経っても中国語の発音は全然だったが、スペイン語は日本語と近い発音であることや読みがほぼローマ字そのままであること、単語が英語と似ているといった点から、わりと苦労しなかった。腕試しを兼ねた2017年のスペイン旅行では、現地人とそつなく会話するまでには無理があったものの、ホテルやレストランスタッフなどと軽い話を交わせるまでは習得できた。

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