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恋愛小説、書けません。

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note創作大賞2024/恋愛小説部門/恋愛小説、書けません。置き場
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恋愛小説、書けません。/Lesson1:「恋愛って何だ!?」

恋愛小説、書けません。/Lesson1:「恋愛って何だ!?」

「絢乃ー!!」
 男は実家、ではなく隣の『篠塚』と表札が掲げられている家に駆け込むなり、女性の名を叫ぶ。
「な、何!? 耀介!?」
 絢乃、と呼ばれた女性が、半ば怒りながら玄関先の男――耀介に近付く。相当走ったのだろうか、耀介のセットされていたであろう髪の毛は見るも無惨な乱れぶりだった。
「悪い、日曜日しかお前を捕まえられないと思って慌てて……」
 耀介が玄関先で言うか言わないかを迷い、キッと絢乃

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恋愛小説、書けません。/Lesson2:「レセプション後の酔いは突如醒める」

恋愛小説、書けません。/Lesson2:「レセプション後の酔いは突如醒める」

 時は数時間前に遡る。 
 都内でも高級と謳われるホテルの最上階のスイートルームで耀介は一人眠っていた。外から射し込む光に照らされて、ようやく彼は目を覚ます。

「水、飲みてえ……」

 独り言を呟くと耀介は気だるそうに起き上がり、はだけたガウンを整えて冷蔵庫を開ける。ミネラルウォーターを取り出して、キャップは――ああ、そうだ最近このボトルキャップのプラスチックはワクチン寄付になるんだっけとキャッ

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恋愛小説、書けません。/Lesson3:「文学青年の過去」

恋愛小説、書けません。/Lesson3:「文学青年の過去」

 耀介たちの母親は耀介が生まれた直後に他界している。
 そんな菅原家兄弟の世話をしてくれたのは、菅原家の隣に住む絢乃の母親、茅乃だ。男手一つで育てた父親も尊敬しているが、茅乃にも尊敬の念を抱いている。しかし本当の母親ではない。父親がどういう風に母と愛し合っていたのか、耀介は全く知らない。そのせいか余計に「男女の関係」には人一倍疎い部分もある。
 耀介には兄が一人いる。この兄は耀介とは違い「研究者」

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恋愛小説、書けません。/Lesson4:「恋愛のノウハウは女性誌にある?」

恋愛小説、書けません。/Lesson4:「恋愛のノウハウは女性誌にある?」

 耀介が目覚めた時、枕元にあったスマートフォンには「AM7:00」の表示。見渡せば、そこは篠塚家の和室だった。耀介は慌てて飛び起きる。寝癖も気にせず襖を開けて、リビングへ走る。

「おばさん、すみません! 俺っ……」
「あら、よーすけちゃんおはよう」
「おはよう、酒に弱い男!」
 既に朝食の支度を済ませている茅乃と、出勤前の「いかにもOLです」と言ったオフホワイトのニットにグレーの膝丈プリーツスカ

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恋愛小説、書けません。/Lesson5:「初恋、まだです」

恋愛小説、書けません。/Lesson5:「初恋、まだです」

 気が付けば、和室には西日が射し込んでいた。もうそんな時間なのか、と耀介は手早く座卓の上に広げていた「作業道具一式」、絢乃からの「ファイル」をきちんと鞄に仕舞う。そして茅乃が洗濯しアイロンもかけてくれていたワイシャツに袖を通す。

「おばさん、俺そろそろ帰ります。長居してすみませんでした」
「いいのよ。またいつでもいらっしゃい」
 丁寧に茅乃にお礼を述べて、耀介はそのまま隣にある実家へ足を運ぶ。

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恋愛小説、書けません。/Lesson6:「悩める男の夜」

恋愛小説、書けません。/Lesson6:「悩める男の夜」

 やってしまった、と肩を落としながら耀介は文華社を出た。自ら恋愛未経験をカミングアウトしてしまったことに対しての恥ずかしさも然ることながら、その後の木下の爆笑ぶりにもだ。

「初恋、まだ……って?」
 妙な空気が流れた後、木下がうわ言のように呟く。そしてその後に
「冗談きついよ、菅原くん!!」と腹を抱えて笑い出したのだ。木下の声は良く通る為、女性社員が「編集長?」と応接室にまで現れる事態となってし

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恋愛小説、書けません。/Lesson7:「恋愛小説を読んでみた」

恋愛小説、書けません。/Lesson7:「恋愛小説を読んでみた」

 図書館は好きだ。沢山の本に囲まれている静かな空間。耀介の29年の人生の中でも1、2を争うぐらい好きな場所だ。
 本屋も好きだ。大型書店も好きだが、小学生の頃から通い詰めた古本屋には実家に帰る機会があれば顔を出す。まさに文学少年の王道を歩いて来たと言っても過言ではない。

 しかし、今日ほど本屋に行く事が憂鬱になったことはあるだろうか? いや、ない。
 この書店には各出版社の営業が出入りしている。

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恋愛小説、書けません。/Lesson8:「出会い系サイトってどんなものだ?」

恋愛小説、書けません。/Lesson8:「出会い系サイトってどんなものだ?」

 ゆうべはぐっすり眠ってしまったが、起きてから全て読み終えた。あの放り投げた本以外は。高校生の恋愛は何処かくすぐったく、主人公の不器用さは耀介と通ずるものがあり、作品の世界に入るのには抵抗がなかった。しかし、まだ掴めない。人を好きになる気持ちを。

 俺はいつか、誰かを好きになれるのだろうか?
 人を好きになると、楽しいものなのだろうか? 苦しいものなのだろうか?
 次回作のプロットよりも、いつし

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恋愛小説、書けません。/Lesson9:「真実の愛への招待状」

恋愛小説、書けません。/Lesson9:「真実の愛への招待状」

 今日のスケジュールは全て消化した。耀介が自宅マンションのエントランスでロック解除しマンションに入ると郵便受けに向かった。出版社からの冊子等は全て宅配便で送られて来るので、この郵便受けに届く郵便物は「完全プライベート」の物だ。
 ダイレクトメール、デリバリーの広告、要る物要らない物をそこで確認し、郵便受けのそばにあるゴミ箱に不必要な広告類は全て破棄する。
「あれ……これは」
 淡いブルーの封筒には

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恋愛小説、書けません。/Lesson10:「花嫁は美しく」

恋愛小説、書けません。/Lesson10:「花嫁は美しく」

 ただただ、美しかった。
 池本の彼女、否、妻になる人は本当に美しかった。
 幼い頃は親戚の結婚式にも出席した記憶もあるのだが、単身で招いて貰うのは耀介自身初めてだった。
 そこに待っていた真白き花嫁。耀介よりも少し身長が高い池本に、モデルの様なスラリとした長身の美人。何でも自分でウェディングドレスを縫ったらしい。シルクサテンのトレーンが優美に流れる。この日の為だけに毎晩遅くまで心を込めて作られた

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恋愛小説、書けません。/Lesson11:「女性心理が分からない二次会」

恋愛小説、書けません。/Lesson11:「女性心理が分からない二次会」

「結婚式の二次会」という世界は耀介の理解の範疇を超えていた。
 池本側の独身男性が数人、香澄側の独身女性が数人、そこに池本夫妻が加わって10人弱。最近流行しているらしい『創作居酒屋』が会場だった。掘りごたつ式のテーブルに窮屈そうに座る参加者。

 二次会の幹事は池本の会社の同僚。
「改めて、池本くんと香澄さんの結婚に、乾杯!」
「かんぱーい!」
 それぞれがグラスを高々と上げ、近場の人間とグラスを

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恋愛小説、書けません。/Lesson12:「高見さんの結婚願望」

恋愛小説、書けません。/Lesson12:「高見さんの結婚願望」

「それではこちらお預かりしますね」
「宜しくお願いします。ご足労をお掛け致しました」
「いえいえ、とんでもございません」

 耀介の自宅、編集者との打ち合わせ用の部屋で隔週連載の原稿を高見に預ける。どうしても仕上げなければならない優先原稿が他社であった為、高見が耀介の自宅に取りに来てくれた。

「あの、高見さん」
「何でしょうか?」
 絢乃とは違ったタイプの可愛らしさの笑顔で、高見が耀介に微笑む。

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恋愛小説、書けません。/Lesson13:「絢乃の恋愛経験」

恋愛小説、書けません。/Lesson13:「絢乃の恋愛経験」

 高見の「原稿訪問」から数日経った。
 しかし、耀介のパソコンのメモ帳には、まだ何も打ち込まれていなかった。
 何か手応えを感じたはずなのに、と耀介は溜息を吐く。しかし以前と違うことは、取材用メモに少しずつだがプロットの参考になりそうなネタが幾つか書かれていることと、もう2冊女性作家の恋愛小説を読んだことだ。勿論書店で悪戦苦闘したが、今回は1時間短縮して購入した。
 木下とのアポまで残り数日。どう

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恋愛小説、書けません。/Lesson14:「同窓会」

恋愛小説、書けません。/Lesson14:「同窓会」

 耀介は実家方面に向かう電車を待っていた。小学校の同窓会となると、卒業以来逢っていない人間はほぼ全員になる。クラスで唯一私立受験をしたので、時々中学の帰り道に元クラスメイトと遭遇して一言二言交わすぐらいの、些細な交流しかしていなかった。
「17年前か。早いものだな」
 耀介の独り言が白い息と共に空へ上ってゆく。今日はかなりの冷え込みになったので、耀介にしては珍しくダウンジャケットを羽織っていた。外

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