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NPO法人「おはなしころりん」の話をみんなで真剣に考えました - 「産学官地域課題研究会」第3回レポート

地域活性化総合研究所です。今年もよろしくお願いいたします。

年明け1/6に第3回目となる産学官地域課題研究会を開催いたしました。

産学官地域課題研究会って何?っていう方は第1回と第2回のレポートを御覧ください。

第3回、第4回のテーマ提供者は、大船渡で誰もがご存知、NPO法人おはなしころりんの江刺由紀子さんです。

大船渡の地域の顔の江刺さんのお話が聞けるということで、市内外のNPOや社会貢献活動を行っている方々を中心にご参加いただきました。

アイデア出しの手法「結晶化ワールドカフェ」

前回と同じく、第3回、第4回の2部構成で行います。第3回で行うことはアイデア出しワークショップです。チームや周りの人からいかに暗黙知を引き出し、それを共有知とするか、という部分に焦点を当てます。

具体的な方法としては、今回も結晶化ワールドカフェを使います。ワールドカフェというのはよく知られたファシリテーションの方式で、そこにさらに結晶化という行程が加わったものです。

ワールドカフェは参加者の意見や知識を集めることができるワークショップです。参加者全員をいくつかの少人数グループに分けて、グループごとに自由に対話しながら模造紙に書き込んでいきます。さらに席替えを行い、同じ対話を繰り返し、最後に全員でアイデアをまとめます。

By Dgurteen, CC BY-SA 3.0

さて、ここまでは普通のワールドカフェですが、本研究会では最後のアイデアをまとめる段階で結晶化セッションという作業を行います。これは、模造紙に書き込まれたアイデアの中からいくつかのキーワード(キーセンテンス)を選び出し、さらにそれをストーリーにまとめる作業です。

これはストーリーは記憶されやすいという人間の特性を利用した方式です。抽象的な話よりも具体的なストーリーのほうが理解しやすいというのはおそらく日常的に感じられることでしょう。だからこそ今回も「大船渡で実際に起こっている生の話」を題材にしてDXを考える企画となっています。この結晶化という行程は簡単ではありませんが、自分たちの話し合った内容をストーリーとして理解しようとする、ストーリーを他人に伝えるという行程を踏むことで、それぞれの知識の集合のより深い理解を目指すものです。

おはなしころりんの課題共有

座長の阪井教授から趣旨説明を行ったあと、早速参加者に向けて江刺さんが感じている課題を共有していただきました。

おはなしころりんの歩み

江刺さんからの課題共有

おはなしころりんは2003年に読書ボランティアを行う任意団体として活動をスタートしています。2011年に東日本大震災が発生、本を通じた復興支援も併せて開始し、NPO法人化は2016年となります。

おはなしころりん公式サイトより

NPO法人化し活動の幅も広がっていく中で、江刺さんが一つのターニングポイントとして挙げられたのが、他団体との協働です。複数の企業や団体が協力することで、それぞれが単独で出せた以上の力を発揮することができ、その成果を市民に還元することができる、そういった経験が一つの転換期であったといいます。

たとえば「東南アジアの子どもたちに絵本を贈ろう」は、社会的に立場の弱いカンボジア・ミャンマーの子どもたちに翻訳された絵本を届ける事業です。
これは、大船渡の小中高のボランティアやおはなしころりんをはじめとした市内外の協力団体、伊藤忠記念財団、シャンティ国際ボランティア会など様々な団体が協力して実現した事業です。

Facebookの投稿より

また、2018年にオープンした大船渡市防災観光交流センター「おおふなぽーと」も、観光事業を行う「大船渡市観光物産協会」と交流活動・防災学習活動を行う「おはなしころりん」がタッグを組んで取り組んで管理運営を行っています。

おおふなぽーと公式サイトより

江刺さん曰くおはなしころりんは「どこにでもいる普通のおばちゃん達」で活動しているといいます。そんな「どこにでもいる普通のおばちゃん達」がこんなすごいことができるというのを見せてくれているのだと思いますし、市民が主体的にまちづくりをしているという部分がおはなしころりんに感じる信頼感や安心感の源泉なのかもしれません。

課題

このように外からおはなしころりんを見ていると、順調な事業運営を継続していて、頭を悩ませる問題とは程遠いのではないかという印象です。
実際、別のNPO団体の方から「江刺さんのところは安泰でいいね」というようなことも言われたそうですが、江刺さんは事業運営は決して「順風満帆ではない」と言います。

一例として挙げられたのが、大船渡市立図書館の指定管理者へのチャレンジです。大船渡市立図書館は令和4年4月から管理運営を民間の事業者に移行する指定管理者運営がスタートしています。前年の令和3年に公募が開始され、本を中心とした活動を続けてきたおはなしころりんも単独で公募に臨みましたが、結果は実績のある全国区の企業が採択されたという運びです。

このような様々な課題を受け、活動の価値を高めるために、江刺さんが次に目指しているのは認定NPOです。国からの認定を受けられるということは適正な運営や情報公開がなされており、広く市民からの指示を受けているかどうかの基準であるパブリック・サポート・テスト(PST)をパスしているということなので、事業の社会的評価の向上につながります。

以上のような課題意識を受け、事業の安定した運営を実現するために「どうやって活動資金を獲得するか」ということを中心のテーマにして、結晶化ワールド・カフェを開始しました。

結晶化ワールドカフェ

江刺さんからテーマを頂いたので、早速3班に分かれてディスカッションを開始しました。

交流セッション(15分)

まずは最初のテーブルで自己紹介から始め、江刺さんの発表の感想から話をどんどん広げていきます。このとき、模造紙に適宜書き込みながら話すことがポイントです。模造紙の中心に今回のテーマである「どうやって活動資金の獲得するか」を書き込みます。発表やテーマに対してそれぞれ感じたこと、意見、質問などが自由に交わされます。

各参加者もそれぞれ営利・非営利・個人など、様々な場所で活動している方々で、それぞれの経験の話も交えた話の膨らみが模造紙に反映されていきました。このセッションだけでも非常に楽しいのですが、交流セッションはおよそ15分程度で一旦区切りし、メンバーチェンジします。

「ホスト役」として1名をテーブルに残して、残りのメンバーができるだけかぶらないように他のテーブルに移動します。

他家受粉セッション(15分)

ホスト役が模造紙のメモを元に前のテーブルでどんな話をしたかを新しいメンバーに対して説明します。それに対してさらにメンバーで対話をして、模造紙に追記していきます。

「他家受粉」セッションと名付けられている通り、植物の他家受粉のように異なるアイデアが結合するセッションとなります。

他家受粉セッションも15分で区切りし、再度メンバーチェンジです。今度は最初のメンバーに戻ります。

焦点化セッション(15分)

それぞれが他家受粉で得たヒントを持ち帰って、元のメンバーで再度意見交換していきます。他のテーブルでのアイデアにも触れ、最初のテーブルでの意見をまとめていきます。

結晶化セッション(15分)

ここでアイデアの結晶化に入ります。

まずやることは、キーワード(キーセンテンス)の選定です。模造紙の中からそのグループの議論で重要だと思われる箇所を丸で囲みます。キーワードは大体3~5個です。

さらに選択したキーワードをもとに1本のストーリーを仕立てます。この工程によって、グループで話されたアイデアの数々を物語として理解することで、実際に活用できる知識とします。

広がった話を収束してまとめる作業が必要で、一番苦戦するパートでもあります。なかなかきれいにストーリーにまとめられないこともありますが、とにかく誰かに話す形でアイデアをまとめていく過程に意味があります。

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いよいよそれぞれのグループで出来上がったテーマに対するストーリーを発表します。

3グループ、それぞれが出来上がったストーリーを江刺さんを含め参加者全員が真剣に、興味深く聞いていました。

3グループで共通していたものとして発信があります。江刺さんやおはなしころりんの活動は、内容を知れば誰もが共感し応援したくなるものだという部分で一致していました。発信し、活動を知ってもらうことで、正会員獲得や企業の支援など、様々な面で活動資金の獲得につながります。Youtubeはもちろん、Voicyなどの音声メディア、さらにはライブ配信でより双方向のコミュニケーションなど、様々な意見が上がりました。

他にもケセン語の絵本、カルタ、LINEスタンプなど、支援の方法として購入可能なグッズのアイデアなども上がりました。NPO法人の活動資金獲得という課題に対し、参加者皆が真剣に考えることのできた時間となりました。

最後に、各班の発表を受けて、テーマ提供者の江刺さんからもコメントをいただきました。

「自分たちの活動について自分達が一番良くわかっているつもりだった」が、「『自分たちの活動はこうです』と伝えると、思いもよらないものが返ってくる」とうまくまとめていただきました。新しいアイデアを発見する上で、やはり「語る」ことが重要なのだと思います。

また、「良い心のところから発信されているので、一つ一つが大変励みになった、宝物になった」という温かい言葉もいただきました。大船渡温泉の回と同じく、今回も架空の事例ではなく、よく見知った同じ地域の仲間が持つリアルな悩みを考える会です。だからこそ、参加者の皆さんが本気で、真剣に、自分ごととして考えていただける場にできたのかなと思います。

第4回のご案内

今回は江刺さんのテーマをもとに、どのように活動資金を獲得するのかについて、参加者の知恵出しを行うワークショップを開催しました。今回の成果は模造紙に書かれたアイデアです。

第5回はこの模造紙を出発点として、これらの内容をドラッカーの5つの質問に基づいて再構成して考えるワークショップとなります。ドラッカーの5つの質問は事業にまつわる5つの本質的な質問から構成されます。

  • 第1の質問 われわれのミッションは何か

  • 第2の質問 われわれの顧客は誰か

  • 第3の質問 顧客にとっての価値は何か

  • 第4の質問 われわれの成果は何か

  • 第5の質問 われわれの計画は何か

事業を行っていく上で「やれることすべてに対してがむしゃらに努力する」なんてことは不可能です。時間もお金も人も限られている中で必要なのは、自分たちの活動のどこに焦点を当てるかということです。これがとりもなおさずDX=変容の本質的な部分となります。

ドラッカーの5つの質問を基礎におき、「誰にとってのどんな価値なのか」「どんなミッションにつながっていて、この活動の成果をどうみたらいいのか」という視点で模造紙のアイデアを再構成していき、最終的に「計画」そのものが絞られていくという構成になります。

このドラッカーの5つの質問ですが、元々は非営利組織のために作られたものなのです。

ドラッカーはとくに1970年以降、非営利組織や小企業のコンサルティングを積極的に引き受けた。その多くは無償で引き受けていたという。当時、アメリカでは9000万人のボランティアが、それぞれのコミュニティにおいて責任ある市民性を体現していた。「非営利組織こそがアメリカ社会の中核ではないか」、ドラッカーはそのように直観した。
(中略)
ドラッカーは1969年刊行の『断絶の時代』で、多元化の時代の到来を説いた。社会全体が多元化していくならば、その中心を占める組織もマネジメントも多元化していくと考えるのが自然である。
そして、非営利組織向けに「最も重要な5つの質問」なる手法を開発した。その対象は非営利組織であったが、営利組織には当てはまらない手法かというと、そんなことはない。非営利組織も営利組織も、成果をあげるとともに個人に市民性を与えるべく期待される組織である。

成果をあげるための経営ツール - Drucker Studies

ドラッカーが社会の中核として非営利組織をとらえ、非営利組織のために開発した経営ツールの使い方を、ドラッカーの専門家を迎えて実際に体験できるワークショップとなる予定です。

第3回に参加していない方でも、第4回から参加できるので、ぜひご参加ください!

令和4年度 産学官地域課題研究会 第4回
日付: 2022年2月2日(木)
時間: 13:00-15:00
場所: 大船渡商工会議所
参加費: 無料
主催: 地域活性化総合研究所
後援:大船渡市

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