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「今そこにある事例」で「ドラッカー5つの質問」を学ぶ「産学官地域課題研究会」第2回 振り返り

地域活性化総合研究所の種延です。

2022年12月5日に開催した、産学官地域課題研究会第2回が終了しました。このイベントは大船渡市の後援で、大船渡の企業が実際に抱えている悩みを題材にして、DXを考えるワークショップとして開催しました。

R4の産学官地域課題研究会のねらいなどの詳細は第1回のレポートを御覧ください。

今回は第1回の結晶化ワールドカフェで出たアイデアをもとに、ドラッカーの5つの質問を使ってそれぞれの質問にどう答えていくか、それをもとに事業をどう考えていくかの方法を各参加者が学べる回となりました。2回の開催をもって大船渡温泉のケーススタディを無事一通り終えることができたので、今回はその振り返りをレポートしたいと思います。

知の縁側」で大船渡温泉の志田豊繁社長に事業の悩みを共有していただいたことがきっかけで、DXとドラッカーの5つの質問を学ぶ産学官地域課題研究会の企画につながりました。

正直なところ、DXを考える題材として自分の事業の悩みを提出していただくというのは、ストレスになる面もあったのではないかと思います。ですが、誰もが知る大船渡の事業だからこその、デジタル環境のリアリティを感じてもらうことができ、参加者の皆様も得るものが大きかったと思います。改めて、志田社長のご理解とご協力に感謝申し上げます。

第2回で実施したドラッカーの5つの質問

ZOOMで参加している座長の阪井教授のインストラクションのもと、作業を進めていきます。

ワールドカフェの模造紙からアイデアを抽出

まず第1回のワールドカフェで出たアイデアを抽出します。4班の模造紙に付箋を貼っていきます。

模造紙には様々な情報が含まれているので伏せさせていただいています。

リピーターに着目するもの、漁師である社長に着目するもの、宿泊だけでなく体験型のコンテンツに着目するものなど様々なアイデアにあふれています。

それぞれのアイデアを5つの質問に当てはめる

これらのアイデアをドラッカーの5つの質問に当てはめます。「顧客」側の柱と「われわれ」側の柱で「ミッション」を支える阪井教授のモデルの図に付箋を貼っていきます。

第5の質問に集中

ご覧の通り、第5の質問「計画」に相当するものが多いことがわかります。今回はアイデア出しのWSを行ったので具体的な「計画」が出やすいのは当然なのですが、それは結びつきの強い参加者で構成される社内の会議等においても同様でしょう。

顧客側の柱を考える(第3、第2の質問)

この段階では計画が多すぎてすべてを実行できないという問題があります。したがって、計画を絞るために精査していく必要があるわけです。計画の見定めをするための鍵は第3の「顧客の価値」を考えることにあります。

第3の質問を考えるうえで、当然第2の質問「顧客」を考えることにもなりますが、ここでは第3の質問にフォーカスする必要があります。阪井教授曰く、第2の質問には「顧客の分類学をしてしまいがち」になるというワナがあるそうです。これはプロのコンサルタントが担当するような作業で、ここにハマると多大な労力を浪費してしまうことになります。あくまでも本質である顧客の価値を考えながら顧客を考えることが求められます。

実際、現場でも「そもそも顧客がわからなければ顧客の価値が見えてこないのではないか」と言って顧客を考えるシーンがありました。左下にいくつか展開しているのがわかると思います。出てきた顧客像というのは、動機(お得に泊まりたい)であったり属性(女性、年齢)であったり、旅行形態(一人旅、家族連れ、修学旅行)であったりと様々です。

本来ならばブレインストーミング的に出てきたこれらのものを、ある切り口でまとめることになるでしょう(分類学)。というのも通常の5つの質問フローでは次に控える第3「顧客の価値」を絞るための段階であるからです。

今回はまず「計画」がまず出て、そこから逆算する形で取り組むので、計画に含まれる「顧客の価値」に最初から重点を置いて、顧客側の柱を考えるというわけです。参加者達もさまざまな顧客像を生み出しながら、最終的に「感動」や「思い出」といった感性的な価値が顧客の価値ではないかという仮説にたどり着きました。

顧客の価値につながるミッションを考える(第1の質問)

顧客側の柱がある程度定まってきたら、顧客の価値につながる「ミッション」は何か、という問いに移ります。第1の質問ですね。

ミッションを考える段階で、顧客や顧客価値についてももっと考えていきます。今回は参加者で「大船渡の感動を共有できる空間を提供する」というのをミッションに掲げてみました。大船渡温泉といえば絶景日本一の温泉宿です。そして今のお客さんは一人で感動するだけではなく、その感動を誰かと共有したいという気持ちのほうが強いのではないか。これは一緒に泊まりに来る宿泊者同士の関係もそうですし、SNS上で感動をシェアすることにも通じています。顧客の価値につながるミッションのように思いました。

(注意) あくまでも「もし自分たちが大船渡温泉の経営者だったら」というifのストーリーでワークショップを進めています。ここで策定されたものは大船渡温泉様とは関係ありません!念の為。

ミッションはどのように成果として現れてくるか?(第4の質問)

ミッションが定まってきたので、そのミッションはどのように「成果」として現れてくるのかを考えます。第4の質問です。この成果は定量的に評価できるものが望ましいものです。

これらはまず宿泊者のレビューであったり、SNSのシェア数やいいね数などにわかりやすく現れてくるものでしょう。他にも他のホテル業界の話で「笑顔」であったり、「感動」「ありがとう」などの数を評価するというのもありました。対象を観察してある行動の生起回数を評価するのは心理学でもよく行われている手法であり、うまく計測できると面白い指標になりそうです。

ここで、有名ホテルが従業員同士で感謝のカードを贈り合うということを実践しているということを踏まえて、「感動の共有」には従業員も含まれるのではないかという議論に展開していきました。宿泊者の感動を生み出すのは景色や料理などはもちろんのこと、従業員のサービス・おもてなしです。

感動を生み出すサービスを提供する従業員はどのような人物か。仕事だからと割り切ってイヤなことをやるというような仕事観ではなく、自分の仕事にプライドを持ち、仕事をしていて充実感や幸福感を感じるような人物ではないでしょうか。そのような見せかけではなく本物のホスピタリティを持つことが「感動」を作り出す重要な要素であるとしたら、間接的な成果としてこれらの指標を測定するのは有効なように思います。

成果に基づいて実行する計画を絞る(第5の質問)

さて測るべき成果が定まったら最初の計画の中から成果に関係ないものを外していきます。

最初の計画だらけの状態から数枚に減らすことができました。実際にはこの段階で新たな計画などを付け足したり変更したりする作業があるのだと思います。

一連の作業によって、顧客の価値に基づき、測定可能な成果として現れる、ミッションを実現する具体的な計画だけを絞ることができました。換言すると、ミッションから計画までがつながった問いへの答え方を参加者の方々が体験することができました。

今回実践した5つの質問のアプローチ

ドラッカー5つの質問はミッション→顧客→顧客の価値→成果→計画という、抽象度の高い普遍的な原則を定めてから個別具体的な計画を作り出していく演繹的なアプローチです。順番に問いを考えていれば、次の問いへの解がより妥当なものに絞られていくはずです。しかし、実際に取り組むと難しく、うまくいかないケースが多いというのが阪井教授のお話でした。

そこで今回は、計画を出発点にしました。人がアイデアを出すのが得意であるのなら、まずはアイデアをすべて吐き出させる。その具体的なアイデアからミッションを探り出す、という帰納的なアプローチです。ここで一般化に使われるのが「顧客」側の柱、つまり第2と第3の質問です。ミッションと顧客が定まれば、そこから成果を導き出します。これは本来の演繹的な方向です。そして4つの問いが定まったところで、最初に出した計画が必然的に絞られるということです。

個人的な感想ですが、「5つの質問に解答する」というシンプルでスマートな印象が、5つの質問をより難しくしている部分もあるのではないかと思いました。
5つの質問の解を考えるのは本来「泥臭い」ものであると思います。ところが、慣れていない人はスマートに解を得ようとして泥道に入らず、最短を走ろうとしてうまくいかない。
その意味で、今回は計画の吐き出しから始まり、帰納と演繹をいったりきたり、と本来求められる泥臭さを発揮できる手法ではないかと思うのです。

デザイナーの佐藤可士和さんがTV番組『カンブリア宮殿』で語ったところによると、1つのデザインを創り出すのに400~500のデザイン案を作成したそうです。また、SF作家の星新一も創作の泥臭さについて次のように記述しています。

「無から有をうみだすインスピレーションなど、
そうつごうよく簡単にわいてくるわけがない。
メモの山をひっかきまわし、腕組みして歩きまわり、溜息をつき、
無為に過ぎてゆく時間を気にし、焼き直しの誘惑と戦い、
思いつきをいくつかメモし、そのいずれにも不満を感じ、
コーヒーを飲み、自己の才能がつきたらしいと絶望し、
目薬をさし、石けんで手を洗い、またメモを読みかえす。
けっして気力をゆるめてはならない」

星新一『きまぐれ星のメモ』

思考の発散・収束、カードの空間配置によってアイデアを精査していく方法は川喜田二郎のW型問題解決モデルやKJ法などを思い浮かべます。これらもまた「泥臭く」本質に迫る発想・問題解決法です。

ドラッカーの5つの質問も一度答えて終わりではなく、その問いを考え続けることが求められています。阪井教授が考案された今回のアプローチは、考える基礎を実践的に身につけることができるものだったと感じています。

参加者の声と主催側から見た手応え

参加者の中で何人かから「自分の事業のことは考えても何も出てこないが、自分の業界と関係ない事例だとアイデアがどんどん出てくる」というような声が出ていました。

今回、「ドラッカーの5つの質問」のワークショップを考えたときに「一人ひとり個別にやっていくのはやめよう」という方向になりました。その理由がまさにこの声で、自分自身のことは案外見えづらく、参加者全員を個別にレクチャーしていくのは無理だろうというものです。

加えて言うと、ケーススタディであるならば、全く関係ない大企業の事例でも、あるいは全くの創作でもよかったわけです。しかし今回は大船渡の事例にこだわったのは、自分の近くにいる見知った人が今まさに直面している課題というリアリティへのこだわりです。だからこそ参加者の方々が「自分ごと」として本気で考えることができたのだと思います。

また、「今回体験したドラッカーの5つの質問を、自分の事業で試してみたいと思う」という声もいただきました。参加者の方がドラッカーの考え方を持ち帰って自分の事業に活かしていただくことが本研究会の目的なので、何人かからそのような声をいただけたことは幸いです。

次回以降のご案内

次回はNPO法人「おはなしころりん」さんにテーマ提供していただきます

次回のテーマ提供はNPO法人おはなしころりん江刺由紀子理事長にお越しいただく予定です。

おはなしころりん理事長の江刺由紀子さん

江刺さんとおはなしころりんは、2003年から生きる力を育む読書の普及活動を続けられ、2011年の震災を機に本を通じた復興支援、2016年にはNPO法人化して、「読みつなぎ」の活動を継続しています。震災復興のフェーズが移行し、解散する法人も増えてきている中で、おおふなぽーと2Fの管理・運営にも取り組み、活動の幅を広げてきています。

きっかけは志田社長と同じく、知の縁側でNPO事業の悩みを共有していただいたことでした。

ドラッカーの5つの質問は、もともと非営利組織に向けて作られた

ドラッカーの5つの質問は元々非営利組織のために作られた経営ツールでもあります。ドラッカーは営利的組織だけでなく、行政や非営利組織など、様々なプレイヤーが社会を構成するようになる、還元すれば社会が多元化していくことを予測していました。(1969年『断絶の時代』) 

この研究会も「産学官」という取り組みですし、今日の社会を見渡すとドラッカーの予測は恐ろしいほど正確なことがわかります。そして営利・非営利どちらの組織にとっても5つの質問は本質を問うているということにもなるでしょう。

おはなしころりんさんのケーススタディは、営利組織とはまた別の角度から5つの質問を考えるよい機会になると思います。初めての方も、第1回、第2回の参加者の方も、ぜひご参加いただければと思います。

令和4年度産学官地域課題研究会
日付: 2023年1月6日(金), 2022年2月2日(木), 2022年3月16日(木)
時間: 13:00-15:00
場所: 大船渡商工会議所
参加費: 無料
主催: 地域活性化総合研究所
後援:大船渡市

お申し込みはこちらから

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