サイゼリヤで開催?幻のTEDリハーサル
みなさんこんにちは。BLACKです。
ネタフルさん の サイゼリヤ研究所 、いつも興味深くチェックしています。
本家TEDカンファレンスへの出演にあたっては、本部とのメールのやり取りはもちろん、オンラインでのプレゼンテーション指導など、数々のプロセスがありました。
今回はその中の一つ、「オンラインリハーサル」についてのエピソードです。
日本人初のTEDトークに向けて
おかげさまで、今では1,000万回を越える再生数を記録している、私のTEDトーク。
現地でも、世界中から集まった有識者の方々からスタンディングオベーションを頂戴し、私の人生を変えるきっかけとなった瞬間でした。
もちろん、このトークはぶっつけ本番で行ったわけではありません。
トーク・パフォーマンスとも、数え切れないほどの練習やリハーサルを繰り返しました。
主な練習場所は、以前からヨーヨー演技の練習のために借りていた、鏡張りのダンススタジオ。
トーク中の身振り・手ぶりや、目線の動かし方、間の取り方など、可能な限り本番に近い形を意識し練習しました。
そして自主練習だけでなく、TED側がオンラインでプレゼンテーション指導をしてくれる機会がありました。
今回は、その裏話を少しだけ公開です。
舞台は深夜のサイゼリヤ
そう。
私がTEDのオンラインリハーサルの場所として選んだのは、皆さんご存知のイタリアンレストラン、サイゼリヤだったのです。
理由は、以下の流れでした。
まず、時刻について。
オンラインリハーサル=国際間でのボイスチャットを実施するにあたり、TED本部と日時の調整をする必要がありました。
TED本部があるのは、アメリカのニューヨーク。日本とは14時間の時差があります。
先方から提示された実施時刻の候補は、どれも日本時間の深夜でした。
そして、当時の私の練習環境。
「練習場所としてダンススタジオを借りていた」と述べましたが、ヨーヨーパフォーマンスを思う存分行える広さ・高さのあるスタジオを個人で借りるのは、それなりに費用が掛かります。
そこで私は、スタジオ代の安くなる深夜の時間帯、0:00-6:00という時間帯で契約し、練習を行っていました。
・先方から提示された時間帯の候補が、日本時間の深夜のみ
・自分の練習時間も深夜
ということで、オンラインリハーサル実施の時刻は、練習開始前の23:00-24:00(ニューヨークでは午前9:00-10:00)を指定したんです。
そして、次に場所について。
普通、ボイスチャットを安定的に行える環境と言えば自宅が筆頭にあがるかと思います。
しかし私の場合、練習スタジオが自宅から少々離れた場所であったため、リハーサル後にすぐに練習に向かうためには、スタジオ近辺でボイスチャットが可能な環境を探す必要がありました。
その環境として唯一の選択肢だったのが、スタジオのすぐ近くで深夜まで営業していたサイゼリヤだったんです。
普段から練習前に利用していたので、この時間帯はお客さんが少なく店内も静かであると把握しており、今回のボイスチャットにも適しているだろう、という判断でした。
本番前の腹ごしらえ
入店していきなりパソコンを広げだすわけにもいかないので、まずはお料理を注文、夜食をいただきました。
そして、ドリンクバーの2杯目を持ってきてからデザートを注文。ミルクジェラートの乗ったコーヒーゼリーが届きました。
当日の店内の様子は、いつも通りお客さんはまばら(深夜の時間帯ですからね)。
1時間程度のビデオチャットでテーブルを占拠してもさほど迷惑にはならないだろうと安堵し、パソコンを広げました。
すると珍しく、4人ほどのグループ客の方々が入店されました。どうやら二次会のようで、かなり盛り上がっています。
「今日に限って、にぎやかなお客さんだなー。ボイスチャットの雑音にならないといいなぁ」
そんな感情も抱きましたが、もちろんレストランという環境においては彼らの方が正しい利用方法であり、自分の方が例外的であることは自覚しています。
リハーサルへの不安が少し大きくなりますが、回避しようのない不安は無視するしかありません。
気を取り直してスマートフォンでのテザリング環境やヘッドセットを用意、ボイスチャットの接続テストも問題なし。
いよいよ、オンラインリハーサルの時間がやってきました。
ぬぐえない心配
リハーサル相手は、エグゼクティブプロデューサーのJune Cohen氏、コンテンツディレクターのKelly Stoetzel氏、そしてTEDと言えばこの人、キュレーターのChris Anderson氏。
TED運営のトップ3とも言えるこの3人とのボイスチャット、緊張が走ります。
また英語面でも、当時の私は日常的に英会話を行う環境には無かったため、表情や身振り手振りの通じない「ボイスチャット」というコミュニケーション方法に対しても、かなりの不安を抱いていました。
「自分の英語で、果たして通じるのだろうか。受け入れてもらえるのだろうか。」
「今思い返せば、オーディションはパフォーマンスのみだったし、その後のやり取りは全てメールだった。先方と英語で『会話』をするのは、今回が初めてだ。自分の英語力の低さが理由で、スピーカー選出取り消しとかになったらどうしよう・・・」
そんな考えさえ、頭をよぎりました。
しかし繰り返しになりますが、回避しようのない不安は無視するしかありません。
これまでの練習を信じ、勇気を振り絞って、原稿を読み始めました。
すると、話し始めてから数秒後、不思議な現象が起こったのです。
訪れた静寂
先ほどまで聞こえてきた団体客の喧騒、そして店員さんの配膳音や他のお客さんの食事の音が、スッと聞こえなくなったのです。
「え・・・?」
いままでに経験した事の無い不思議な感覚。
まるで、テレビの音量を絞って最小メモリへ近づけていくような感覚でした。
リハーサルの真っただ中、本来は原稿の読み上げに集中すべき状況でしたが、この初めて味わう感覚に戸惑いました。
「なんか、急に静かになって話しやすくなったな。これは何だろう?」
「もしかして、他のお客さんたちが聞き耳を立て始めたのかな・・・?」
パソコンを出すだけならいざ知らず、ヘッドセットを付けて英会話を始めたのは目立ちすぎたのかな?と推測。
「けれど、もう原稿を読み始めて始めてしまったし、今から止めるのは難しい。とにかく今はリハーサルに集中して、気持ちを込めた読み方や間の取り方を意識して読み続けよう。」
そう考え、なんとか雑念を振り払って、原稿を読み続けました。
自分の英語力への不安、そして注意力散漫になってしまい気持ちが込もっていないのではないかという不安。
ようやく、読み終えた時には、安堵感よりも先方からの感想への不安が勝っている心境でした。
とにかく早く感想を聞かせてほしい。
けれどなぜか、私が話し終えて数秒間、先方は黙ったままでした。
「やっぱり、不十分な点が多かったのだろうか・・・」
たった数秒の沈黙でしたが、私の不安を増幅させるには十分な時間でした。
しかし、その後にヘッドホンから聞こえてきたのは・・・
「パチパチパチパチ」
拍手の音でした。
「おめでとうございます。素晴らしいトークでした。」
「指摘すべき点は、何一つありません。全てそのまま、本番の舞台でも同じように話していただいてOKです。」
驚くべきことに、100点満点とも言えるような評価をいただいてしまいました。
「え・・・本当に?」
嬉しいというよりは、拍子抜けした感覚。
何しろ、リハーサル中は不思議な感覚に動揺し、集中力に欠けてしまったと思っていたからです。
今思い返せば、先方は完璧な話し方を求めていたわけでは無く、トーク内容の確認と、甘めの評価で自信を付けてくれていたのかな、と思います。
英語力や集中力に至らない点は多々あったかと思いますが、トーク内容に致命的と言えるほどの修正点は見当たらなかったため、良しとしていただけたのでしょう。
おかげ様で気を良くした私は、数週間後に自信を持って本番の舞台に臨むことができ、なんとスタンディングオベーションまでいただくことができました。
運営の方々がリハーサルで判断されたとおり、TEDの聴衆の方々もまた、英語力の完璧さは気にせず、等身大のトークを評価してくださったのかなと思います。
今回の国際交流
英語力が未熟であっても、相手が著名人・有識者の方であっても、気持ちを込めて話せば、思いは伝わる。
リハーサルのエピローグ
サイゼリヤでのリハーサル後、ようやく緊張が解け、先方に感謝の気持ちを伝えていると、店内の環境音が徐々に聞こえてくるようになりました。
自分の集中により周囲の音が聞こえなくなっていたのか、それとも本当に皆さんが聞き耳を立てていたのか。
今となっては分かりませんね。
安堵の気持ちでようやく手を伸ばした、リハーサル前に注文していたデザート。
融けきったミルクジェラートの乗ったコーヒーゼリーの味は、苦さよりも甘さが勝っていました。
次回予告
ヨーヨー持ち過ぎで不審者扱い?なんだこの怪しい影は!
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