サマソニで日本酒を売った話
「サマソニがタダで観られるボランティアやらへんか?」というお誘いを受けて助っ人してきた思い出話。炎天下で凄い過酷だったんだけど、それ言い出したらフェスに行くこと自体が過酷なものだし、惹かれるところがあって結果的には2018年、2019年の2年連続でやった。
転職して以来、仕事のような仕事じゃないようなことで暗躍していて「あいつ何やってんの?」と心配されたりもするけれど、その中でもピカイチの暗躍ぶりだったと思う。外部とも内部とも言えないけど応援している立場で、埋もれさせるのは勿体ない気持ちから書き残す。
-2℃で飲む日本酒
Makuakeのクラウドファウンディングで1,869万円を調達した日本酒がある。2017年時点で日本酒ジャンル史上最高記録を叩き出したり、「Makuake Award 2017 BRONZE賞」「2017年度 グッドデザイン賞」を獲っていたりして、その界隈では知る人を知る(もちろん知らない人は知らない)プロジェクトである。
日本酒の四合瓶に特殊な保冷剤を纏うことで-2℃にキープするプロダクトである。この特殊な保冷剤に、液晶ディスプレイで培った家電メーカーの技術が活用されている。寒い地域で液晶が凍ると困るので、ちょうど良い温度に融点が設定できる技術を活かしている。社内ベンチャーで日本酒に具現化してしまう目の付け所が鋭い。
誰かが思いつきそうなアイデアだとしても、その温度で魅力を出すようなお酒造りや、保冷剤で巻いてもラベルがはがれない瓶や、冬を纏うコンセプトやパッケージデザインなど、実現するには様々な人をWin-Winで巻き込まねば実現できない。
大企業が後ろ盾になる面もある一方で、大企業だからフットワークが悪くなる面もある。けっこう針に糸を通すような難しい事で、実際に苦労していることをお近付きになって初めて知った。
まず私自身がファンになった
プロジェクトの意義も去ることながら、「まぁ飲んでみなはれ」「確かに百聞は一見に如かずだけど...今酒飲んでいいんすか?」から始まり、最初の驚きから口の中で温度が戻りつつ花開く感じが凄く新鮮だった。
氷点下の日本酒なんて邪道だとしても、「-2℃」はインパクトがある魅せ方の一つであって、例えば杜氏さんが13℃で飲んでほしい意図で造った酒をちゃんと13℃で飲むことは理想だと思う。新規事業としてもプロダクトとしてもいちファンになった。
0→1も大変だけど1→10も大変
世の中に無かったプロダクトを生み出してクラファンやってた0→1の頃は、私も転職前だったので関われなかった。折角なので何か関わりたいなと社外イベントに登壇されていた創設者に名刺交換(同じ会社なのに)を申し込んで、それ以来は仕事をしたり仕事じゃないことをしたり飲みに行ったりのお付き合いで今に至る。この記事のサマソニに出した取り組みは、1→10にあたると捉えている。
クラファンで成功したと言っても、一部の感度が高い人が食いついただけで、そのまま世の中に広まってゆく訳ではない。なぜなら、新しいものに飛びついたり新規事業に自己投影したりする人はごく一部であり、残り大半の人は安定を求めて失敗の無い買い物がしたいから。深い溝ことキャズムがある。
新しい価値(ちょうど良い温度を保つ)に対して、わざわざお金を払うような強いニーズを浮き彫りにする意味で、クソ暑い夏フェスに冷たさを保つサービスを展開した。「フェスと言えば氷点下の日本酒」という価値観を根付かせたい狙いと、飲み物の温度を一日中保つ蓄冷材サブスクの実証実験となっている。
創作が自走するファンベース
大企業の社内ベンチャーとは言え、使える予算は少ない。サマソニに出すには出展費やら人件費やらかかる。私も「サマソニが観られるなら」に惹かれたクチだけど、この人件費の部分がファンによるボランティアで成り立っているのがアツい。
他の会社の新規事業やってる人だったり、最初のクラファン関係者や支援者だったりする。ファンが次のファンに呼びかける構造になっている。そもそもお酒を売ること自体がハードル高いところを、ドリンク販売やっている方が応援して下さり、軒先を貸してくださって実現している。
集まってくる人それぞれが得意技を活かして、自発的にいろいろ仕掛けていたのも凄く刺激的だった。ブランディング、ロゴデザイン、イベント企画などいろんな活躍があった。絵師としても頭角を現したMegumiお姉さんの原点が、ヒエヒエサブスクの説明イラストだったのも感慨深い。
私も必要に駆られてパッケージやらPOPやら動画やらいろいろ作った。6~7割のクオリティでどんどん作るようなことを本業でやったら怒られる。社内ベンチャーのおかげで実践する場を得て、出来る仕事の幅が広がったと思う。
Tシャツ作ったり、ファンイベント(飲み会?)やったり、創作物天下武道会に出たり、LINEスタンプ作ったり、ド真ん中の人でないからこそ好き勝手にいろいろ仕掛けた。
地道な手売りが好き
サマソニに話を戻して。見たいライブも堪能しつつ、合間はひたすら売り子さんをやっていた。歩いてステージに向かう人を立ち止まらせる呼び込みってコピーライティングだと思う。「一日中ぬるくなりません!」と断言すると、気になって「本当に?」と聞いてくれる人がいる。カラクリは保冷剤を交換するので当然なんだけど、フックのかかる伝え方を編みだすのは大事。
机上でアイデア出ししても「サブスクやればいいじゃん」というアイデアは出る。それでも、実際にやってみて分かる難しさや、それを乗り越えるアイデア、ニーズへの確信は財産だと思う。新しいビジネスを創る上で、実際にぶつけて得る現場感は大事にしたい。
角さんが言う「レモネードを売ろう」の愚直な実践になっている。偶然にも飲み物だし。新規事業ネタを発想しようと机上検討するだけじゃなく、場に飛び込んでみなはれという教えである。
自分は接客なんて向いて無さそうなんだけど、意外と手売りするの好きだなぁと気付いた。日銭を稼ぐためと言うよりかは、新しい価値観を地道なやり方で世に広げること、愛着を起点にジワジワ広げていくようなことがやりたい。行動するうちに自分がやりたい事が見つかった気がする。
実証実験として見るか収益で見るか
3日間あるサマソニ2019のうち、1,2日目は目標未達だったものの、ジワジワと売り上げて3日目は目標達成している。最終日に売り上げ達成したのは、公式twitterの発信力のおかげだった。企業の強みって素材技術とかじゃなく人だと思った。事業を起こす人とか、twitterの中の人とか。折角この会社に来たのだから、そういう人と働きたい。
サマソニは成功だったか?という観点では、実証実験として見ると小さくても強いニーズが在る事が確認できて、多くの教訓や手ごたえが掴めた。一方で、収支だけで評価されると残念ながら成功という評価は得られない。会社は厳しい。
それからの私達
ベンチャー企業が大企業に買われてExitするように、ちょうど良い温度を保つ素材ビジネスも本体に吸収されて大きく展開されている。個人的には1→10の段階で丁寧を育てて価値を尖らせても良かったと思う。一方で、事業として早く100の規模で展開しなければならない事情もある。今現在もスポーツ関連でクラファンしていて、応援している。
自分の理想と会社が求めていることのギャップみたいなものはある。「家電メーカーがわざわざ酒なんて売るんだ?」「そんな小さいビジネスをやって意味があるのか?」という批判に、私自身も相手の土俵に立って納得させるような力を持っていなかった。
でも、「日本酒好きな人に悪い人いない」という実感からも、ファンベースやるなら日本酒は土俵としてピッタリだとは思っている。twitterの中の人はファンベースの信念を持って、80万フォローを集める実績を持って周囲を納得させている。かくありたい。
このプロジェクトを通して出会った人間関係は財産だし、あの日のために産まれたMegumiさんのイラストが、QUMZINEパーカーになってBASE Qとコラボされていて著名人に愛されていたり、すごく活躍している。
離れていてもパーカーで繋がりつつ、また会えるようになった日には日本酒で乾杯したい。少しでも話せるネタになるように、サマソニを通して見つけた「やりたいこと」を実行に移して備えたい。
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