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紅茶バスターズ   ○1杯め○ 


桜羽和泉 美夢


①   ドーン・オブ・
ブリティッシュモーニング

今朝も、
ラヴェ・ドリーマ・アミトは
この星のドルに替えて、
スイス銀行のその口座に
ケタの違う入金をした。

僕の希望は叶うだろうか?ー

黒髪のボブが風に揺れる。
朝の浅い陽を浴びた黒髪は、
ひなたの黒猫の毛色のように、
アンニュイな紫を帯びている。
めずらしい髪色だ。
陽の光に紫がかる。
影に入れば黒く見える。
暗灰色の瞳に迷いはない。

僕は僕の決めた道をゆく、だけ。


口座名義

HIDEYOSHI NAGOYA

確認して、
明細書を
トートバッグにしまい、
個人用に湾岸に設えられたヘリポートに彼は向かった。

途中、
今川焼きのスタンドの前、
足を停める。
『 おじさん、
 今の時間、
 ここ、開いてるんだね。 』

『 コロナ禍だから、
 一時期、完全に閉めててな。
 常連の小学生に
 ブーブー言われたんだわ。
 今の時間、開けてんのは
 完全に
 サービス営業。
 朝練前に、
 ここでモーニングな
 ガキンチョが居るんだよ。
 サービス
 サービスぅ♡ 』

言いながら笑う店の親父。
なんだかんだいっても、
控えめに言って、
とても嬉しそうだ。
店を開けること、
そのことが、
彼のアィディンティーティーの
下支えをしているのだろう。
しあわせな事例だ。
『へぇ。。。
 モーニング、ね。』

じゃあ、
僕も、
モーニング、と言いながら、
パクつくことにする。
ゆず抹茶、桜カスタード、
たこ焼き七味味の
今川焼きを買い求める。

お釣りをしまうと、
備え付けのアルコールスプレーのポンプで手指消毒、した。

マスクを一旦外す、
手速く、と
言い聞かせながら。。。

桜カスタードのそれ、を、
かじる。
ふんわり、広がる桜の香り。

こんな愛しい日常を、
封印しかけてしまうことさえ、
あった。

当たり前の日々を
護れるのなら。。。、

手早く食べ終え、
マスクを再びすると、
再び、ヘリポートへと向かう。

僕にも、
ちから、を。。。



“モナルダ”

“モナルダ”

“モナルダ”

バーテンに促されて、
未だ眠い、まぶたを擦る。
会計を済まし、
店の外に出れば、
空には、溶け残ったような、月。

東の空は、朝焼け、だ。
青と紫と赤のあわいが
美しく移ろう。

ー雨が降る、のか。

モナルダ、と呼ばれた男、

正しくは、
モナルダーリュ、は、
一晩羽織っぱなしだった、
スプリングコートの襟を立てて、
パン屋の通りを南へと向かった。

ナゴヤに
会わなければならない。

ついでに、
チェスの手合わせを頼もう。。。



 無理もない。
今は、まだ、午前7時前、だ。

開店までは、4時間。ー


ティーサロン、
a.c.o.w
( a cup of wonder )。


間口は狭いが、
奥行きの広い、
典型的なうなぎの寝床、だ。
この店のマスターである、
名古屋 英美
(ナゴヤ ヒデヨシ)には、
いくつもの顔、がある。

一見温厚な老紳士。
往年の二谷英明、と
いったところ、か。

実際、
ハイパーな爺様、である。
実業家の顔も持ち、
卒業した、が、
名うての弁護士であった。

彼は、この店に、
今日
何人かの客を招いていた。

モナルダもそのひとり、だ。


すこしは 休んでみるか、
と決め込んで
モナルダも
初めて来た
ゲストハウスに入る。

部屋に入り、
サーブしてあった水を飲むなり、
ひとごこち付く暇もなく、
携帯が鳴った。

ナゴヤ、から、だ。

着信にためらい、
無視をすると
留守番電話に切り替わった。


名古屋です。
本日は、
初回の顔合わせも兼ねておりますゆえ、
無精髭は剃られますよう、
お願いしますよ。

お土産は、
ラ・ファミーユの
贅沢生シュークリーム苺入り、
がいいかな。
僕ならば、2つは食べます。

では、後ほど。。。



留守電は、そこまで。


相変わらず、だな。。。、

とは思うが、

モナルダは律儀に

ラ・ファミーユの実店舗を
検索した。


ーB京市。か。



買いに行ってやるか。。。

ただし、
2時間、眠ってから。。。

目覚ましを携帯にセットして、
シーツに顔を埋めた。

酒は、
未だ身体の中に、居た。


丁寧な指運びで、
カップにティーストレーナーを
付けると、
ミユキ、
ヴァニーユ・ミユキ・ビーンズは、
朝のお茶を嗜む。
今朝は
スパイス・ミルクティーだ。

なにかを始める朝には、
ふさわしい。

ブラックティーに
バラのアイシングの付いた
キューブシュガーを
溶かしながら、
メンバー表に目を落とした。
ミルクをゆっくりと、注ぐ。

かきまぜながら、
ひとりごちる。


ミュクロージ
・リモーネン・モナルダーリュ。


彼はおそらく、
リーダーを成す筈、だ。

彼は深酒を克服し、
素面のまま、
紅茶のトリガーを
握ってくれる、だろうか??ー

ここから、始まる
厄介であろう
人間関係の鬱陶しさ、と、
真っ直ぐな意志を胸、に、
あたたかな
スパイス・ミルクティーを
ミユキは飲み干した。


窓の外をなんとはなしに、見、
ややあって、
茶葉を
イングリッシュ・モーニングに
替えると
それをマイ・ボトルに注ぎ入れ、

シャワーを浴びたら、
すこし早めに出発しよう、と

ミユキは、
着替えを選んだ。






紅茶バスターズ
○一杯め○
ドーン・オブ・
イングリッシュモーニング ①


待て、次回!!



桜羽和泉 美夢
2022年 04.27 22:44.


         


    


















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