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あなたのお茶碗みせてください

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宇宙を手にする

宇宙を手にする

 岡山に行くと聞いた。名古屋を離れたら彼はきっと変わる!今の彼に聞いておかなければ!と慌てたわたしが「場所はどこにしようか?」と聞くと「どこへでも持っていきますよ」と大海原くらいに寛容な言葉が返ってきた。
ゆらゆらと戯れることのできるたっぷりの余白と、すとんと真ん中に据えた芯。ふたつを同時に持つ彼は「僕、何者でもないですけど」と言った。
本人が「何者でもない」と思っている今のタイミングにお茶碗を見

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「岡崎行きたいです!」

「岡崎行きたいです!」

 名古屋駅から名鉄線でおよそ30分、東岡崎の駅に到着すると家康姿の松潤パネルが出迎えてくれた。“岡ビル百貨店”というレトロな文字の看板に背を向けて、乙川と呼ばれる大きな川を目指す。
ランニングをする人
仕事の休憩にお弁当を食べる人
ベンチに寝転ぶ人
犬の散歩の途中におしゃべりをする人たち
この街での暮らしがあつまる河川敷に腰をかけたら時間の流れがずいぶんとゆったりになった。
優しい水色の空にレース

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一人暮らしあるある

一人暮らしあるある

「我が家で夕飯を食べるとか?」
彼女はあまりにすんなりと私を自宅に招待してくれた。
「一人で暮らす家過ぎて、誘っておいて自分で怯えているのですが是非。ごはんをつくっておきます!」という連絡に、「私は昨夜、レンジで3分解凍したうどんに納豆と冷凍刻みオクラとめんつゆをぶっかけて食べました!」と一人暮らしの極みレシピを返信したら文字の向こうで彼女が賛同するように笑っていた。
お互い一人暮らしで年齢も近い

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お茶碗の大冒険

お茶碗の大冒険

 もう友達ができるなんて瞬間はずいぶんと遠い昔の記憶でしかないと思っていた私が彼女と出会ったのは、昨年、長袖のシャツをさらりと着た夜のことだった。とある商店街の中にある沖縄料理店の店先に、知っている顔が見えたから、吸い込まれるようにして丸椅子に座った。その隣の角でソーメンタシヤーを待っているのが彼女だった。
話していたら同い年だとわかって、それだけでついつい古くからの友人な気がして
SNSのやりと

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ここにお茶碗を持ってきますね?

ここにお茶碗を持ってきますね?

 渡部さんとのお茶碗トーク(vol.1)を終えてテラス席から店内に入ると、ひとりの常連くんと目があった。
「にこにこしてどうしたんすか」と声をかけられてはじめて、お茶碗トークを終えてほくほくしていた自分に気がつく。
「ねぇ、どんなお茶碗を使っている?」唐突に聞いてみると「お、お茶碗ですか?」とひっくり返った声で意味がわからないという顔をした彼、あおいくんが次の主人公だ。

vol.2 あおいくん

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じゃあ明後日に、ROWSCOFFEEで。

じゃあ明後日に、ROWSCOFFEEで。

「やりたいこと、なにかないの」
「いろんな人のmy茶碗を見せてもらいたいと思っていて…」
「なにそれ!どういうこと?」
まだ暑さが残る9月、前職を辞めてとあるコーヒー屋でお世話になることになった私は、そのコーヒー屋のオーナーである渡部さんとお店の近くの立ち飲み屋にいた。お酒をのみながらふと聞かれた問いに「お茶碗」というワードがすっと出てきたのは、オーナーのお茶碗を聞いてみたいと心の片隅にいつも思っ

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