文豪氣取りでお散歩
私事ですが明日、大腸の檢査が有る為、昨日より病院で出されたお粥や餡かけそぼろと云った離乳食の様な物を食べている為、非常に空腹なのであります。
嗚呼、こうして旅に出て贅澤をしていた時分が懐かしい…。
…とか思いつゝ、旅は2日目に入りました。
少々早い時間に起床致します。
朝日浴びる朝風呂はいつも欠かせません。
この宿には初日に入った内湯の他に屋上展望風呂が在るのです。
初日の夜にも何度か入って夜景を愉しんでおりましたが、これを朝の時間帯に入るとまた夜とは全く違う素晴らしい景色が待っているのです。
例によって公共の風呂場を撮影する事は最大の禁忌でありますれば、暖簾の外から失礼致します。
暖簾も「チャップリン」に「マリリンモンロー」と、これまた小洒落ております。
早朝は完全な貸切状態です。
朝日を浴びて山々は朝焼けの茜色の空に若葉生い茂る青々とした稜線を浮かび上がらせ、麓の家々も朝の目覺めを迎えつゝあるこの景色を一糸纏わぬ状態で仁王立ちで見るところ朝の風が文字通り全身を吹き抜けていく様であります。
お風呂上りに良い心地で朝食に致します。
温泉は恰も軆だけでなく心の汚れも落とす様であります。それと同じく、この和食の御膳が私の軆だけでなく心も癒すのです。
朝日浴びるラウンジでモーニング珈琲を戴きます。
ラウンジに隣接するロビーには既に旅支度を整えた他の宿泊客の姿が見えます。
にわかに賑やかになるロビーを浴衣着てゆっくりと珈琲を飲みつゝ眺めております。
皆様、今日の観光にお忙しい様です。
しかし、今回の私の旅は少々趣が異なります。
それは「観光地に出向かない」と云うところであります。
極力、宿と宿周辺だけで過ごす事に決めております。
これでも創作活動をする者の端くれ。
お部屋でゆっくりとその案を推敲し、持參せるノートパソコンでまとめていくのであります。
謂わば文豪の様な過ごし方をするのでありますが午前中はお昼頃までお風呂とお部屋は清掃が入るので、その間は「お散歩」に出掛ける事に致します。
馬鹿でかいキャリーケースを持ち運ぶ他所様を尻目に最低限の荷物を小さな革のカバンに持って草履でお出掛け……
…………の前に敷地内を散策致しますと、斯くの如く飲泉処を發見。
皆様素通りされて行ってしまいますが、折角なので一口飲んでいく事に致します。
柄杓の類が無いので手で飲みますが熱いのは我慢です。
少々塩氣のある味わいの温泉を戴きつゝ、町中をブラブラ致します。
流石は將棋の町、至る所にこうした意匠を見かけます。
折しも櫻の花がその最後の美しさを魅せていた頃合いでした。
初夏の青空と白い雲に不思議と春の名残が調和します。
ふと通りがかればその名も「温泉公園」
別にお風呂が有る訳ではないのですが…
公園内に「温泉神社」がございます。
ご神域は鳥居の外から撮るのがエチケットです。
「温泉神社」とは温泉地に行くとしばしば見かけます。
ご神軆や神様はまちまちですが當地に罷り出でる由、しっかりと神様にご挨拶致します。
丁度この頃、私の地元では實にくだらない選挙の街宣車が諸人の迷惑も顧みずに休日にも關わらず騒音を撒き散らしていた時分だったので、この信じられない位に穏やかな静けさが本當にありがたく、この旅に出られた事、そして當地にて心豊かに過ごせる事を色々なものに感謝致しております。
旅先で出會う素晴らしいものには感謝と畏敬の念が必要なのです。
更に歩いて一際大きな公園にやって參りました。
町内の案内看板にもその存在が目立つ「天童公園」であります。
この公園は見ての通りとても廣大で見所も澤山あります。
それでいて入場料等は一切無し、人もそれほど混んでいないのです。
こんな素晴らしい場所が宿から歩いて数十分の所に在るのですから、樂しまない手は無いのです。
池の周りを歩きつゝ、高台を目指します。
見上げれば何やら面白く曲がりくねった階段と足場が…。
こう云うのは趣味でやっている「RPGツクール」のダンジョン作りに參考になりそうです。
市内が一望出來ます。
先程のカモ君が泳いでいた池も小さく見えるのであります。
山の木々は様々な色を愉しませてくれるのです。
水分補給と共に暫しの小休止。そして山頂から向かった先がこの廣場。
ここは人間將棋を行う會場となる廣場です。
遥か彼方にその観覧席と王将の石碑がそびえています。
寫眞では判り難いかもしれませんが、これが巨大なのです。
村田英雄さんの曲を口ずさんでの王将からの眺めでございます。
このマスに駒に見立てた人が立つ訳なのです。
遥か彼方に見えた王将の石碑に續く階段です。
ここを上がりきると先の將棋盤が一目で見渡せます。
カラスちゃんも一緒に歩いて登ります。
石段を一つ一つジャンプしていきます。飛ばないところが律儀な奴です。
左端の人影と比べると凡その大きさが掴めるかと存じますが、ここで謂わば「世界最大のボードゲーム」を樂しむのであります。
廣場の階段を上がり切った先にはこうした花畑が拡がっております。
流石は將棋の町です。
こう云う物につい目が行ってしまうのは職業病かもしれません。
しかし、見ていると樂しいものです。
こうして廣場を後にします。
氣附けば時刻は正午に差し掛かろうとしています。
ここら辺でお昼に致しましょう。
公園のふもとにあるお蕎麦屋さんに入ります。
散策で乾いた喉を潤しましょう。
古民家の素晴らしい造作を眺めつゝ、日の高い内から失礼します。
この蕎麦はコシが強く、麺は平形であります。
大好きな酒、蕎麦、古民家…。
風味味覺は言う迄もありませんが、その空間そのものを以って全てが心地良いのです。
時間はのんびりと流れています。自由氣儘に樂しみましょう。
…と言っている間に食事も濟みまして、出發前に雪隠を拝借致します。
建物の外に在るのがまた良いところです。こう云うのは樂しまなければ損をします。
「美男」ですか…。それはそれは…………。
斯くして午前中の約2時間半の間「お散歩」を十二分に満喫して、これからゆっくりと宿に戻る事に致しましょう。
續く…
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