ウナギ

「クリス、おはよう。」
「ああ、スー。おはよう。」
 クリスは声をかけてくれたのがスーだとわかり、手を振りながら笑顔で答えた。
「この連休はどこか行った?」
「ええ、ホストファミリーのほのかと、買い物に行ってきたわ。」
「あら、もしかしてそのバッグ……」
 スーザンはクリスが見かけないバッグを持っていることに気付きそう言った。
「うん、そう。このバッグを買ったんだ。」
「うわあ、可愛い。」
「へへ、ありがとう。」
 クリスは照れ臭そうにそういった。
「スーは、どこか行ったりしたの?」
「そうなの、聞いて聞いて。」
「うん、聞くから。落ち着いて。」
 熱気あふれるスーを、クリスは笑いながら制した。
「実は、茉美が先週誕生日で。」
「茉美って確か、スーを受け入れてくれてるところの子よね。」
「そう、大学はここじゃないけど、同い年なの。」
「そうなのね。おめでとう。」
「あら、ありがとう。茉美もきっと喜ぶわ。」
「それで、どこかに行ったの?」
「茉美ね、ウナギが好きなの。」
「ウナギって、あのにょろにょろした?」
 クリスは少し肩をすくめながら尋ねた。
「そうよ。で、せっかくのお誕生日だから、みんなで美味しいウナギを食べに行ったの!」
「どう、だった?」
 クリスは怪訝そうにそう聞いた。
「とーっても美味しかったわ。こんなに美味しいものあるんだ、って言うくらい。」
「へえ……それはよかったわね。」
 スーはそこまで話し終えてから、クリスがあまり元気のなさそうな顔をしているのに気が付いた。
「どうしたの、クリス。」
「ううん、なんでもないわ。」
「なんでもないって。さっきより顔色悪いわよ?」
「いや、その……」
「何でも話してちょうだい。」
「じゃあ、うん……スーの気分を害しちゃったらごめんなさい。」
「大丈夫だから。」
「実は……私、ウナギが苦手なの。」
 一瞬沈黙の時間が流れ、するとスーは突然笑い出した。
「なんだ、そんなことね。そんなの気にすることないわよ。」
「でも……」
「私は確かに美味しいと思ったけど、苦手な人だってそりゃいるわよ。」
「ありがとう。」
「クリスは気にし過ぎなのよ。やっぱし味が苦手だったの?」
「味はううん、むしろ美味しかったわ。でもどうしても食べてるとあのにょろにょろの姿が思い浮かんじゃって。」
「なるほどねー。まあ私も、ウナギを触ってごらんって言われたら、さすがに嫌ね。」
 スーはそう言って笑った。
「でも味は好きなの。本当よ。だってあのタレのかかったご飯、甘くてすごい美味しいじゃない?」
「分かる、すごい分かるわ。」
「やっぱり日本の料理って美味しいわよね。」
「そうね、それはすごい感じる。」
「でも……やっぱり納豆だけは苦手。」
「それは、一番わかる。」

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