マガジンのカバー画像

臀物語

181
タイトルをしりとりで繋げる物語、です。 「しりものがたり」と読みます。 第1,第3,第5日曜日に更新予定です。 詳しくはプロフィールに固定してある「臀ペディア」をお読みください。
運営しているクリエイター

2022年8月の記事一覧

ギプス

午前中の授業もあと一つに残した休み時間、陽介と英一はいつものように勇樹の席まで足を運んでいた。
「あと少しでお昼だね。」
「そうだな。」
「教室で食べるよね?」
「ああ、今日は普通に弁当だからな。」
「つくもっちは?」
「僕も教室で食べるよ。」
「じゃあ後でここに集合だね。」
「オッケー。」
「はいよ。」
ここまでよく繰り返される定型句のような会話である。
「そういえば、隣のクラスの岩永くんって分

もっとみる

積み木

6時間目の終了を告げる鐘が鳴ると、学校の中が一段と騒がしくなってきた。
本来なら授業で使うような教室は、部活での利用さえなければ静かになりそうなものだが、この理科準備室だけは違う。
ガラガラ、と引き戸を開け顔を覗かせるはいつもの学生。
「ああ、大桃さん。お久しぶりですね。」
「寂しかったですか?」
「いえ、特に。」
樽井はシレッとそう言った。
「つまらないなあ……」
不服そうな顔をするほのか。

もっとみる

金欠

いくら厚着をしていようとも、凍てつくような寒さが体を刺した。冷たい風が吹く度に体がブルっと震えるのを感じた。
そういえば今朝のニュースで、季節外れの寒さに気をつけて、と言っていたことを思い出したが、時すでに遅し。
家を出た時はまだそれほどでもなかったし、何より気づかないフリもしていたのだが、さすがに外にいれば嫌でも気づくものだ。
この極寒の中、公園で人を待つというのはなかなかに辛いものだ。もう少し

もっとみる

すき焼き

 並々入っていたビールを、ごくごくと喉を鳴らしながら一気に飲み干す蕪木の様子を、天野はただただ見ていた。
「はあ、美味しい!やっぱり仕事終わりのビールは格別ね。」
 ジョッキを机にこつんと置くと、蕪木は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「そうですね。」
「あれ天野先生あんまり飲んでないけど……ごめんなさい、もしかしてお酒苦手だった?」
「あいえ、そうじゃないです。いただきます。」
 そう言ってジョ

もっとみる