積み木

6時間目の終了を告げる鐘が鳴ると、学校の中が一段と騒がしくなってきた。
本来なら授業で使うような教室は、部活での利用さえなければ静かになりそうなものだが、この理科準備室だけは違う。
ガラガラ、と引き戸を開け顔を覗かせるはいつもの学生。
「ああ、大桃さん。お久しぶりですね。」
「寂しかったですか?」
「いえ、特に。」
樽井はシレッとそう言った。
「つまらないなあ……」
不服そうな顔をするほのか。
「まあまあそう言わず。どうぞ、座ってください。」
樽井は椅子を指してそういった。
「失礼しますー。」
心無しか少し頬を膨らませながら椅子に座るほのか。
「今日はどうされたんですか?」
「遊びに来ました。」
さも当然と言った表情で答えるほのか。
「なるほど。まあそうですよね。いや、最近あんまりいらっしゃってなかったんで、何かあったのかと思いまして。」
「やっぱり、心配してたんですね?」
急に嬉しそうな表情をうかべるほのか。
「心配というか……」
なんとも言えない樽井。しかしそんな樽井を睨むほのかを見て、心配させてもらいましたよ、とすぐに答えた。
「よろしい。」
「よろしいって……」
「そんなことより、私の話を聞いてくださいよ。」
 もうすっかり元気そうなほのか。
「もちろん、聞かせてください。」
「私、少し年の離れた、もう結婚してる従姉妹がいるんですね。」
「そうなんですね。」
「で、その従姉妹のお姉ちゃんのところにこの前赤ちゃんが生まれたんですよ。」
「おお、それはおめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
 ほのかは幸せそうな笑顔を浮かべた。
「それで何かお祝いをあげようってことになって、家族みんなで色々探したんですよ。」
 樽井はうんうん、と頷いた。
「で、調べてみて思ったのが、何にしようかなかなか難しいんですよね。」
「ああ、なるほど。確かに、例えば結婚式とかだったらいくら包むとか相場ありますけど、出産祝いとかはね。調べれば定番とかもあるんでしょうけど、意外と難しいですね。」
「そうなんですよ。それに変な話、そっちの親御さんの好みもあるじゃないですか。」
「確かに。キャラ物はちょっととか、服の好みとかも入り路ありますもんね。」
「それで色々調べて、もちろん従姉妹のお姉ちゃんにも連絡して確認して、やっとのことで何をあげるか決めたんですよ。」
「おお。今後の参考にもしたいので、是非教えてください。」
「仕方ないですねえ。」
 不敵な笑みを浮かべるほのか。
「お願いします。」
「先生は、お米でできた積み木って知ってますか。」
「お米でできた積み木、ですか。」
「はい。お米でできてるから口に入れても安全なんですよ。」
「なるほど、確かに赤ちゃんってなんでも口に入れちゃうからそういうのいいかもしれないですね。」
「積み木って知育玩具ともいいますし、そういう点から見てもいいかなって。」
「うん、いいチョイスだと思います。」
「先生も参考にしてくださいね。」
「いや本当に、周りで結婚する友人も多いので、参考にさせていただきます。」
「先生はいつ……あ、すいません。」
「大桃さん?」
 笑うほのかを見て少し強い口調になる樽井。
「じゃあ、今日は帰りますね。」
 一連の流れに満足したのか、ほのかは嬉しそうな顔をして席を立った。
「はい。またいつでもどうぞ。」

 ほのかが帰り、樽井は一人になった理科準備室で、少しばかり自分の将来を考え、何とも言えぬ感情になるのだった。

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