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ジャンボ・ジャンボ・ジャンボ

ジャンボな船(=ジャンボフェリー)に乗ると、僕のテンションもジャンボになって、船をくまなく歩き回って探検したくなる。足を踏み入れた途端にガラス張りの壁にお出迎えされ、バブル時代のキャバレーみたいな(もちろん、バブルの時代に僕は生まれていなかったので、バブルの時代がどんなものだったのかは記憶でなく記録でしか知る由はないけれど)、大阪のライブハウス”味園ユニバース”みたいな、きらびやかな装飾が施された船室に入れば、探検したくなるに決まっている。座敷席に荷物をひとしきり置くなり、4階くらいまであるフェリーを歩き回り、食堂、お土産売り場、浴室・サウナ、アイスの自動販売機、ゲームコーナー、デッキと順々に見て周り、ジャンボフェリーのエンターテイメントの充実に驚く。

バブルの時代のキャバレのような

最上階のデッキで徐々に遠ざかる神戸の夜景に一旦別れを告げ、翌日からのハードな瀬戸内国際芸術 祭のスケジュールをこなすために体力を温存するべく眠りに就く。が、眠れぬ。人を乗せ、車・ トラックを乗せ、あまたのコンテナを乗せたジャンボフェリーを動かすにはジャンボなエネルギーが必要であり、それを生み出すエンジンの音と振動もまたジャンボなのだ。1時間ほど微睡んで、やはり眠れぬと諦めたぼくはデッキに出る。左には、兵庫の工業地帯らしき光の集積が見え、右には所々小さな光が見える。そんな光も気がつけば小さくなってゆき、次第にはなくなってしまう。上を見上げると星が見え、フェリーのデッキの光を手のひらで遮断して上を見上げれば、それまでは見えなかった星たちも見え、まるで天然のプラネタリウムのように綺麗だ。あるいは、大量のホクロの ようにも見えてきて、なんだか気味が悪いような気もしてくる。美しさと気味の悪さというのは表裏一体であるらしい。

光の横を通り過ぎる



翌日......といっても時刻は夜中の3時であるので、今日といえば今日なのだけれど、そんな今日は どうやって直島の美術館を回れば効率が良いのかという計画を練り、冷たくて心地が良いのと同時に、ベタついて気味が悪くも感じる海風を浴び、頃合いのいいころに室内に入る。といっても、 こんな時間から大した睡眠が取れるわけでもなく、目は冴え渡っているので、特にどうするということもなくゲームコーナーのスロットマシンに100円玉を入れる。ボタンとレバーを操作すれば、ルーレットは回りだし、絵柄は揃うようでなかなか揃わない。僕は「ニュー・スーパー・マリオブラザーズ」のルーレットアイテムボックスですら欲しいものを得られないほどルーレットが苦手なので、チャンスタイムでも絵柄は揃うことなく、程なくしてスロットは動かなくなり、特にすることもないので再び微睡に入る。

時刻は4:30。東側のデッキに出ると、空が明るくなっている。旅仲間を起こし、デッキで徐々に赤く染められていく雲と、青みを増してゆく空をまじまじと見つめ、僕は煙草に火を点け、カシオペアの「朝焼け」を聴きながらたまに角瓶のウイスキーを口に含んでは空を見つめている。横を通り過ぎていった小さいようで近くで見るとジャンボな瀬戸内の島々は、朝焼けの前景になっては小さくなって消えてゆく。フェリーも、海も、空も、島も、みんなジャンボだ。ジャンボ・ジャンボ・ ジャンボなのだ。

朝焼け



そんなことを言っている間に、ジャンボフェリーは高松へ到着する。ジャンボだった僕のテンションはすっかりと眠気にやられて萎えてしまっているけれど、朝の5時からやっているといううどん屋を見つけたので、そこで朝食でも取ろうかと話していると少しだけ元気がでた。

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