カズオ・イシグロさんの本が好きです
最近「日の名残り」を読み終わった。
カズオ・イシグロさんは自身がその時代を生きているかのように描けるのがすごい。この本は1920〜30年代の回想と1956年の「現在」を執事のスティーブンスが語っていくストーリーだが、それを1954年生まれのカズオ・イシグロさんが、まるでその時代を生きていたかのようにリアリティたっぷりに描いている。いや、その時代を生きていたとしても、ここまでの詳細な時代の情景を描くことは難しいだろう。それどころかカズオ・イシグロさんが執事のスティーブンスとして語っていることに違和感が1ミリも違和感がなく、そのまま物語にどっぷりと入り込むことができる。
他の小説だったら、作者はこういう意図だったのかな、こういうストーリー展開にしたかったのかなと感じることもある(作者の意図が伝わる面白さもあるのだが)。ところがカズオ・イシグロさんの小説は気付けばその世界に入り込んでいて、作者の意図を全く感じさせないまま、気付けば読み終わってしまっている。それほどに引き込まれるのだ。
「わたしを離さないで」のときもそれは同じで、これはフィクションなのに、まるでその世界が本当に存在するかのように、現実と接点をもって描かれていた。現実世界とつながっているリアリティがあった。フィクションであるのに、これはどうにもならない現代の世界のことを言っているのか、と妙に納得した。それは「日の名残り」も同じで、こちらはどうにもならない人生の虚しさを感じた。ただ、主人公のスティーブンスがチャーミングなので、虚しさをだけでなく、希望も一緒に感じることができた。
両作品とも、カズオ・イシグロさんの小説を読んだときにしか感じたことのない、余韻たっぷりの読後感だった。
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