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【小説】空を切り裂いた (飴村 行)

徴兵されながらも戦争を生き抜き、戦後、文壇の寵児としてもてはやされた孤高の作家・堀永彩雲。
しかしその後の半生は、絶望と狂気に彩られていた。昭和四九年に享年五〇で自害した作家の作品は、世間からは忘れ去られたが、一部で狂乱の読者を生み育んだ。
彩雲の小説に魅せられた読者たちの顛末いかに...
というお話。

天啓、もとい狂気に取り憑かれた作家堀永彩雲が書き下ろした小説でもあり、自叙伝でもあり、予言書でもある遺作『蘇る光』に魅せられた人々の5つの物語。

令和のドグラマグラという見出しを目にして手に取った。
漫画で言ったら「多重人格探偵サイコ」、ホラー映画で言ったら「リング」と言った所か?
伝染する狂気という性質は正に呪いのビデオなんではなかろうか。
彩雲の意思が適合者となった登場人物に落とし込まれていく表現はルーシー・モノストーンの設定に近いものに感じた。

彩雲の作品に込められた名状し難いなにかが分かりそうで分からない得体の知れない感覚が面白い。

個人的に薬物を用いるシーンはちょっとファンタジー的な感覚というか、お茶を濁した様な感じで気になったかな。

著者の粘膜シリーズほど、暴力に対する直接的な表現は少ないが、行間や台詞はおぞましい場面を思い起こさせる表現は令和の奇書として上げられるのも納得。
舞台が1999年の世紀末という時代性もミソなんだろうな。

目を引いたキャラは津野田。
性格が詐欺師的で気が狂ってるってマジで救いようないし危険過ぎるんだよな。
ミルに語った狂気的かつ侮辱的な事の顛末を、なんら大した事のない世間話の様に語るシーンは中々に引き込まれた。
実に危うい。

果たして物語世界では「恐怖の大王」 が空を切り裂いて降臨したのだろうか?
ハレルヤ!

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