笠井ゆかり(ライター)
自走式学習で人生を楽しむ力を育む!渡邉 靖子さんの悔いのない生き方とは?
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自走式学習で人生を楽しむ力を育む!渡邉 靖子さんの悔いのない生き方とは?

笠井ゆかり(ライター)

「生徒には勉強を通して、人生を切り拓く力を身につけてほしいんです。これは、偏差値が上がるよりも価値のあることです」

そう話すのは、「テラコヤイッキュー」(千葉県船橋市)という塾の代表、渡邉 靖子さんだ。テラコヤイッキューは、授業や宿題をこなすだけの「普通の塾」とは異なる。「自発的に勉強する習慣」を身につけるための塾だ。

生徒のなかには、自ら机に向かったことがなかったのに、テラコヤイッキューのトライアル期間を経て、毎日1時間すすんで勉強するようになった子もいる。トライアル期間は、たったの2週間だ。

テラコヤイッキューは、どのようにして生徒たちに勉強習慣や、人生を切り拓く力を身につけさせるのだろうか。

学習記録の振り返りで自分の成長を知る「自走式学習」

テラコヤイッキューでは、まず生徒と一緒に志望校やテストの目標を設定し、学習計画を立てる。生徒は計画にそって自宅学習を行い、学習内容はICTツールに記録することになっている。

基本的に授業はなく、渡邉さんは学習記録への毎日のフィードバックと、週一回のオンライン面談を行う。この一連の流れを、テラコヤイッキューでは「自走式学習」と呼んでいる。

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面談の様子。遠方の生徒にはオンライン面談を行う。生徒のなかにはアメリカやトルコ在住の生徒も(写真提供:渡邉 靖子さん)

「自走式学習は、生徒にPDCAサイクルを実践してほしくて編み出しました。学習内容だけでなく、『やる気が起きない』ということまで原因や対策を分析し、記録してもらいます。あとで記録を見返すと、どんな時に弱い自分が出るのか、どうしたらやる気が出るのかがわかり、自己コントロール能力も身につきます」

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小学校6年生のそろばんの学習記録(写真提供:渡邉 靖子さん)

できなかったことや感情の記録は、些細な成長も教えてくれるという。

「入塾当初、『泣きながら嫌々15分勉強した』と書いていた子が、数ヶ月後には『気付いたら4時間も勉強していました!』と変化することもあって。感情の記録は、内面の成長を気付かせてくれます」

フィードバックでは、必ず生徒の成長した点を見つけて伝えている。人は、自分自身の成長に気付きにくいからだ。

「例えば、10分しか勉強できなかった子が1時間勉強できるようになっても、毎日少しずつ成長しているから、本人は成長に気付けないんです。その成長した部分を伝えるのが、私の役目だと思っています」

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ゲームが大好きな小学6年生の学習記録(写真提供:渡邉 靖子さん)

渡邉さんのフィードバックで成長に気付けた生徒は、「もっと成長したい!」と自ら机に向かうようになるのだという。

大病を乗り越え、悔いなく生きるため塾業界の変革に挑戦

渡邉さんが「自走式学習」を作り上げた根底には、塾業界への疑問がある。

渡邉さんは大学を中退後、地元・倉敷で家業の手伝いをしていた。大学を辞めたのは、生活のすべてを捧げて打ち込んでいた部活を引退したとき、「大学に居場所がなくなった」と感じたからだ。

でも、勉強が好きな渡邉さんにとって、新たな学びのない生活は、まさに苦痛の日々だったという。そんな毎日を変えるために始めたのが、塾講師のアルバイトだった。

「生徒が『わかった!』と喜んでくれるのが嬉しくて。まさに天職に巡り会えたと思いました」

その後結婚し、千葉に引っ越してからも塾講師のアルバイトを始めた。充実した毎日を送っていたが、体調不良で向かった病院で、大病を患っていることが判明する。

「『がんかもしれないから、検査します』と言われて。検査の結果が出るまでは、『治らなかったらどうしよう』とか、『お葬式は地元でできるかな』とか、最悪の事態が頭をよぎっていました。消えてしまいたいと思うほど、追い詰められましたね」

そして2週間後、告知の日を迎えた。検査の結果、ステージⅠのがんだと判明した。

「余命宣告されると思っていたので、『ステージⅠなら、まだ生きられる!』と前向きに受け止められました。がんになって、『明日死んでもいいように、悔いなく生きよう』と強く思うようになりましたね」

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抗がん剤治療中の渡邉さん。正岡子規の横顔と似ていることに気付きFacebookに投稿(写真提供:渡邉 靖子さん)

そして、抗がん剤治療をしながら復職。体力的に辛かったが、生徒と接すると自然と笑顔になれた。一方その頃から、塾業界への疑問を抱いていた。

「塾講師は、土日はもちろん深夜まで働くことも多く、結婚や出産をした女性が家庭と両立しながら働くのは難しいんです。優秀な女性講師も多いので、この環境を変えられないかなと思っていました」

また、塾のビジネスモデルにも疑問を感じていたという。

「私が働いていた塾は、月々の授業料収入だけでは赤字になる仕組みだったんです。黒字化するには、長期休みの講習をたくさん取ってもらわなければなりません。必要以上の講習を生徒に勧めて、売らなければならないなんておかしいと感じていました」

自分の時間割りも把握できないほど、多くの講習を取らされた生徒たち。もちろん講習に対する目的意識も薄い。講師側も、授業をただ消化していくだけの人が多かった。

「ただ、これは塾だけが悪いんじゃないんです。勉強の目的を考えさせない講師や親も、目的意識の低い生徒も悪い。せっかく助かった命で、業界を変えてやると思いました」

そして渡邉さんは、2019年に「自走式学習」という新しい形の塾を開業した。

マズローの欲求5段階説にみる自走式学習

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マズローの欲求5段階説のピラミッド(画像提供:渡邉 靖子さん)

最近、渡邉さんは「マズローの欲求5段階説」を学び、自走式学習は正しかったのだと確信したという。

欲求5段階説では、人間には生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5階層の欲求があり、それぞれの欲求は下層の欲求が満たされてはじめて現れるとされる。ということは、自己実現欲求(自分しかできないことを成し遂げて、自分らしく生きたいと願う欲求)は、承認欲求が満たされなければ現れない。

承認欲求は、さらに「他者承認欲求」と「自己承認欲求」の2つに分かれる。例えば、自宅学習していて『頑張ってるね』と親や先生に認めてもらうのが他者承認で、『毎日勉強できるようになった!』と自らの成長を認めるのが自己承認だ。

「人は、2つの承認欲求が満たされてようやく、『なりたい自分になるために、もっと頑張ろう』という自己実現欲求が芽生えます。自己実現欲求が芽生えないかぎり、自ら勉強したり、自分を改善し続けることはできません。

つまり、親や先生が『勉強しなさい』と命令しても無駄だということ。他者にできるのは、あくまで他者承認を満たしてあげるところまでです」

「頑張ってるね」「成長してるよ」と伝えることで、生徒は自分を認めることができる。テラコヤイッキューの生徒たちは、2つの承認欲求が満たされることで、自発的な学習習慣が身についていくのだ。

転んでも、楽しいことが待っていると子どもに伝えてほしい

渡邉さんに、子育て中の人へのアドバイスを尋ねてみた。

「伝えたいのは、『子どもの人生のハンドルを、親は握れない』ということです」

保護者のなかには、子どもが持ち帰ったテストをチェックし、間違えた理由やどうしたら点数が上がるのかを助言する親もいる。子を想っての行動だろうが、「原因や改善方法を先回りして教えると、子どもが自ら試行錯誤して成長する機会を奪いかねない」と渡邉さんは話す。

「自転車の練習と同じで、子どもたちにはたくさん転ばせてほしいです。

親は、子どもが転ばないように障害物を除けたり、代わりにハンドルを握ったりするのではなく、転んだときの起き上がり方を教えてあげてください。あと、転んでも楽しいよって伝えてあげてほしいです」

大学を中退して辛い日々も経験したが、その経験がなければ今の仕事には出会えなかったと振り返る。

「失敗しても、予想外の楽しみを見つけることがあります。大人がそれを教えれば、子どもたちも失敗を恐れず、「もっと遠くまで走ってみよう!」と思えるんじゃないかな」

自走式学習と、病気や子育て中の人も働ける環境を塾業界のスタンダードに

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現在は半年に一度の検診を受けながら、テラコヤイッキューの運営だけでなく、オンライン自習室の管理人や、親向けの学びの場の講師を務める(写真提供:渡邉 靖子さん)

これからは、一方的に勉強を教えるのではなく、子どもたちが自ら目的を持って勉強する「自走式学習」を、塾業界のスタンダードにしたいと話す。

さらに、今年度からはアシスタントとして、主婦の方に手伝ってもらっているそうだ。

「病気療養中や子育て中の人も在宅で携われる塾を作る、という夢が実現しつつあります。家事も育児も仕事も、何ひとつ諦める必要のない労働環境の塾を広めていきたいです」

自分で考えて行動する力を身につける「自走式学習」、そして病気療養中や子育て中の人でも挑戦できる労働環境。この2つを塾業界のスタンダードにするべく、渡邉さんはがん克服後の人生を、精一杯生きている。

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笠井ゆかり(ライター)
大学卒業後、NHK報道記者→生命保険会社に勤務。結婚を機にWEB関連会社のライターに。出産を経て、2020年7月からフリーライターとして活動しています。4歳の女の子のママです。インタビュー記事や企業の公式コラム執筆、SNSマーケティングなど行っています。