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障がい者や高齢者、ママを積極起用。社会の効率主義に抗う松本梓さんの挑戦

薬草がたっぷり入った巾着をお風呂に浮かべると、冷え性のわたしでも、数分で足先まで温まった。翌日、マッサージでも良くならなかった肩の痛みが和らいで、驚いた。

jiwajiwaというブランドの「お風呂のハーブ」というこの巾着。商品開発したのは、チアフル株式会社(奈良県奈良市)の代表、松本梓さんだ。奈良で生まれ育った松本さんは、大学卒業後、大手住宅メーカーに入社。大企業の効率主義に疑問を感じ、30歳で起業した。

巾着を美しくジャバラ折りにしているのは、福祉施設の障がい者や高齢者の方だそう。さらに、経理や商品の受発注は、子育て中のママにフルリモートで依頼している。

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「お風呂のハーブ」と薬草(写真提供:松本梓さん)

起業の理由や現在の取り組み、そして障がい者や高齢者、ママなどを積極的に起用している理由について、松本さんにお話を伺った。

大企業で感じた疑問

大手住宅メーカーでは、まず営業部に配属された。売上目標に追われ、建物を作っては売りさばく日々。企業が利益をあげるには「効率よく作って売ること」が大切だと学んだ。

しかしある日、団地建設のために森を切り倒す現場を視察し、大企業の効率主義に疑問を抱きはじめる。

「限りある森を切り倒すのを見て、開拓するところがなくなったら、どこで利益をあげるんだろうと思って。効率よく作って売る仕組みは、数世代先に限界がくると感じたんです」

その後、宣伝部に異動。グループ会社が運営するリゾートホテルの視察のため、全国各地を飛び回った。鳥取や沖縄など、いろいろな地方を訪れるなかで、あることに気がついたという。

「どの地方も、大通りは大手コンビニやスーパー、飲食チェーン店の看板だらけで、景観が変わらないんです。少し車を走らせると、景色を彩る草花が違い、それぞれ魅力があるのに」

また、同じ頃、育休明けの女性社員が時短勤務になり、責任の軽い仕事しか与えられなくなったのを目の当たりにした。また、役職定年を迎えた男性社員も、定年翌日から時短社員と同じ扱いになったという。

「とても優秀な二人なのに、ライフスタイルや年齢が変わっただけで活躍の場を奪われるなんて、おかしいと思いました」

効率主義を、地方や個人に無理矢理当てはめるのはおかしい

大企業は、「大人数で効率よく働き、少ない労力で利益を上げる仕組み」ができている。企業が倒産しないかぎり、社員は収入を確保できるし、国も税金や年金の徴収先を確保できる。「効率よく利益を上げる仕組み」は、社会の根幹を担っているのだ。

しかし、そんな効率主義に、松本さんは異論を唱える。

「例えば、森を切り倒して効率よく作った団地は、企業に利益をもたらします。でも、開発を続ければいつか森がなくなり、きっと数世代先の人が困ることになるでしょう。

また、企業認知度を上げるには、看板を目立つ場所に掲げるのが効率的です。でも、大企業の看板が町を埋め尽くして、どこも似た景観になっているのは問題だと思います。本来は、地方ごとに活かすべき魅力があるのに・・・」

ママ社員や定年社員の扱いも、企業の効率主義の結果だと考える。会社が決めた標準的なフルタイム社員の型に当てはまるなら重要な仕事を、そうでないなら軽い仕事を、といったように。

「企業は、標準的な社員かどうかではなく、個人の特性に合わせて仕事を割り振るべきですよね。そして、個人の特性は、ライフスタイルの変化や年齢で、大きく損なわれるものではないと思います。

大企業の効率主義は、たくさんの人に利益や便利さをもたらしていますが、地方や個人に無理矢理当てはめるのは、おかしいと思ったんです」 

テレビ番組で出会った企業から資本金を得て、ついに起業

大企業の効率主義に疑問を抱きながら、気付けば30歳目前に。友人の結婚・出産ラッシュを迎えるなか、松本さんは転職を考えたという。

「わたし自身、将来出産して年齢を重ねても、第一線で働きたいと思って。だから、社員の事情をくんで、強みを活かせない会社には、長く勤められないと考えたんです」

しかし、転職サイトではピンとくる会社が見つからなかった。そんなとき、テレビ番組で、「エイトワン」(愛媛県松山市)という会社の取り組みと出会う。

「『愛媛県の魅力や課題に目を向けて、地方から日本をよくしたい』という考えに、心打たれました。そして、エイトワンの社員起業家プロジェクトに応募したところ、1,000万円もの資本金を得られたんです。せっかく掴んだチャンスを逃すまいと、思い切って退職しました」

そうして2016年、チアフル株式会社を起業し、jiwajiwaブランドを立ち上げた。

チアフルを象徴する「お風呂のハーブ」の誕生

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jiwajiwa「お風呂のハーブ」(写真提供:松本梓さん)

起業当初はノウハウも技術もなく、「チアフルを象徴する商品を作って、売ることならできるかも・・・」と始めた事業だった。

チアフルを象徴する商品として考えていたのは、「お風呂のハーブ」だ。起業前、ひどい冷え性で悩んでいた松本さんは、改善のため100種類以上もの入浴剤を試していたという。そのとき出会ったのが、地元・奈良の「大和当帰」という薬草だった。「婦人病の聖薬」とも呼ばれる大和当帰は、滋養強壮や婦人病の漢方薬に入っており、冷え性にも効果がある。

「乾燥させた大和当帰の茎を使った入浴剤は、今まで試したどの入浴剤よりも温まりました。自然の力のすごさを、たくさんの人に広めたいと思ったんです」

そうして作った「お風呂のハーブ」は、地元・奈良の魅力を活かしながら、使う人の体にもよい。自信を持って勧められる、チアフルの象徴的な商品になった。

現在は、無添加石鹸やアロマスプレーなども取り扱っている。安価な海外産の登場で行き場を失っていた奈良の農林産品に、新たな販路を作り出し、地域活性化を図る。

標準の型にはまらない、就職先が限られる人にも活躍の場を

チアフルや、jiwajiwaに関わる人は、幅広い。地元の農林業者はもちろん、福祉施設の高齢者や障がい者、在宅ワークのママたちも戦力となっている。

「起業したときに、地域の人はもちろん、障がいを持っていて就職先が限られている人たちと一緒に商品を作りたいと考えていました」

地域活性化のために、地域の農林業者を巻き込むのは分かる。しかし、なぜあえて就職先が限られる人たちまで巻き込もうと思ったのだろうか。

「幼稚園の頃から、母と障がい者施設に併設されている図書館に行っていて、障がい者の方は身近な存在でした。なのに、小学校、中学校と進学すると、だんだん障がい者の方を見かけなくなって。

社会人になってようやく、法定雇用率に合わせて雇われた障がい者の方を見かけるようになり、時短ママや定年社員と同じように『標準の型に当てはまらない人は除けられる社会なんだ』と実感したんです。

障がい者の方も、手先が器用だったり、それぞれ特性があって素晴らしいお仕事をされるのに」

「お風呂のハーブ」の巾着のジャバラ型は、手作業でしか折れない。誰に頼むか考えていたとき、ちょうど福祉施設の方から声をかけてもらった。「色んな人を巻き込みたい」「標準の型にはまらない人の特性も活かしたい」という願いが叶うと思い、作業を依頼した。

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福祉施設の方が作業する様子(写真提供:松本梓さん)

また、経理や商品の受発注、SNS運用の仕事は、育児中の在宅ワークのママたちに依頼している。こちらも、経理が得意な友人から声をかけてもらい、依頼し始めた。

「全員、結婚や出産を機に会社を辞めた人たちですが、一緒に仕事をするなかで、ライフスタイルの変化が、個人のスキルを変えることはないと実感しています。

わたし含め、誰もが年齢を重ねるし、親になるかもしれないし、明日障がいを持つかもしれないですよね。これからもいろいろな人が、個性を活かせる場を作りたいです」

自分を大切にすることや、地方の魅力を伝え続けたい

今後は、もっとたくさんの人と一緒に、jiwajiwaというブランドを築いていきたいと話す。

「商談や出店で出会うなかで、チアフルの価値観に共感して、商品開発や企画を考えたいと申し出てくれる人もいました。今後はそういった方々も交えて、企画を練りたいです」

さらに、物販だけでなく、ワークショップや宿泊施設などの事業も考えている。

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ワークショップや宿泊の場として考えている「jiwajiwaな、おうち」にて
(写真提供:松本梓さん)

「お風呂のハーブを体調に合わせて手作りしたり、自然の中での宿泊を通じて、『効率の良さ』や『便利さ』とは違う、『自分を大切にすること』や『地方の魅力』を感じてもらえたら嬉しいです。使う人、作る人、地域、そして将来にとって本当によいものだとお勧めできる商品を通して。

社会の常識になっている効率主義とは反する価値観かもしれませんが、共感してくれる人が少しずつでも増えたらいいなと思っています」

日本社会の効率主義にあらがい、「手間をかけてでも、本当によい商品を作って地方や個人の魅力を活かしたい」という松本さんの挑戦は、これからも続く。

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【チアフル株式会社】
公式サイト:https://cheerfull.co.jp/

【jiwajiwa】
ブランドサイト・オンラインショップ:https://www.jiwajiwa.jp/
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