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N市の記憶。もしくはその断片。

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note創作大賞2023 ミステリー小説部門 応募小説まとめ
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2023年7月の記事一覧

小説/N市の記憶。もしくはその断片。#23 悪霊たち #2

小説/N市の記憶。もしくはその断片。#23 悪霊たち #2

 クッ、クッ、とくぐもった嘲笑が聞こえ、ようやく頭の芯から目覚める。
 目を開けると、戸塚絢が歯ブラシをくわえたまま頬を大きく膨らませて(ちょっと待って、ちょっと待って)と手振りで私に伝えると、ユニットバスに駆けこんでいく。
 口に含んだものを洗面に吐き出す。
 それから堰を切ったような笑い声。
「なんて顔してるんですか、おじさん!」
 ホテルのタオルで唇を拭きながら、戸塚絢が言う。「白目むいて寝

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小説/N市の記憶。もしくはその断片。#24 朝

小説/N市の記憶。もしくはその断片。#24 朝

 目覚めると、戸塚絢がソファで膝を抱えて眠っている。
 私の視線に気づいたのか、彼女は瞼をこすって、大きく背伸びした。
「おはよう」と私は声をかける。「いてくれたのか」
「それはそうでしょ」と戸塚絢があきれた顔で言う。「わたしがいなかったら、どうする気だったんですか?」
「たしかに」と私はうなずく。
 私の両手両足は、ベッドに縛りつけられている。戸塚絢がいなかったら、ホテル従業員に発見されるまで、

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小説/N市の記憶。もしくはその断片。#25 六月六日 #1

小説/N市の記憶。もしくはその断片。#25 六月六日 #1

 戸塚絢という生贄を拒否したが、私が知るかぎり何も起こらなかった。
 N市で地震が起こったとか、電車の脱線事故があったとか、そういうこともない。新しい殺人事件もいまのところ起きていない。
 訂正。
 この世界上から殺人事件はなくならない。事実、N市でも殺人事件は発生している。痴情のもつれ、介護疲れ、悪質な交通事故——殺人事件が起きていないというのは、黄魂山との関連性がないという意味で、呪いや祟りが

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小説/N市の記憶。もしくはその断片。#end 六月六日 #2

小説/N市の記憶。もしくはその断片。#end 六月六日 #2

「ろ、六月六日にUFOが?!」
「そうです。六月六日にUFOです」
 私はいわゆるムー信者ではない。未確認飛行物体を目撃したこともないし、宇宙人に遭遇したこともない。それでも〈古代の宇宙人〉を楽しめるだけのユーモアは持ち合わせているつもりだ。
「おそらく、黄魂山に眠っているのはUFOです。現在の言葉でいうUAP(未確認空中現象)ではなく、UFO(未確認飛行物体)そのものです」
 富井教授が言うには

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