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「医療現場でNVCを活用する」 - 宮崎大学医学部でのワークショップを開催 [2024年3月]


『全人的医療を支える共感的コミュニケーション・NVC』(著:メラニー・シアーズ)を翻訳した宮崎大学医学部の横山彰三教授の企画により、同氏とこの本の監訳者の今井麻希子によって、2024年3月、宮崎大学医学部にてNVCのワークショップを開催しました。

宮崎大学医学部キャンパス

医療の現場で語られる必要のあることとは


医療現場における課題に、NVCがどのように貢献しうるのか。自らも看護師であった、『全人的医療を支える共感的コミュニケーション・NVC』の著者メラニー・シアーズさんは以下のように語ります。

本において紹介される、著者の医療現場への想い

もっとも過酷な精神病棟に勤める医療従事者にNVCを導入したところ、患者さんの暴力が減り、離職率がさがり、むしろ職員が自ら働きたいと願うようになるほどの変化が起きたという実績。ではそれを支える実践とは、どんなものだったのだったのか…。ワークショップでは、実際に現場でよく耳にする、医療従事者と患者さんの間の対立・葛藤を題材に、ロールプレイを通じて、NVCの捉え方を紹介しました。

「対立・葛藤」の奥底にある気持ちや願いを知る

大切にしてもらいものが望むほどケアされていないことに対する患者さんのいらだち、そしてそれに対応することによって生じる精神的な葛藤や疲労 - 。

「どうすべきであるか」を軸に、いたらなさに非難を向ける

それを「こうすべき」「・・・ができていない」といった「ダメ出し」「・・すべき」論争にとどまるかわりに、感情的な体験をうけとめ(例:「むっときた感じですか・・?」「悲しい気持ちも感じているのでしょうか・・・?」)、その奥の願いに耳を傾けること(例:「ケアを受けとっていると感じ、安心できたら、という願いがあるのでしょうか・・・?」などと寄り添っていく)。

ロールプレイでは、看護師が自己共感し、セルフケアをしたところから患者さんに共感するプロセスを紹介しました。
ご自身の働く病院でNVCを実践する看護師の益田真樹さんによるオンライン登壇

今回のワークショップには、現役の看護師でありながら、ご自身の働く病院でNVCを実践し、また、医療従事者を対象にNVCを伝える場ももっている済生会横浜市東部病院の益田真樹さんにもリモート登壇いただきました。益田さんからは、「パンを食べたい」と主張する患者さんと、危険性が高いことからそれを許可することが難しい看護師さんとの間の葛藤を例に、具体的なやりとりが紹介されました。どちら側もがかかえている「わかってもらいたい」という想い。なんとか説き伏せようとする代わりに、怒りの奥になる感情、願いに耳を傾けることで、患者さんの本当の想いを知ることができる。そこから、説得ではなく、「尊重しあう対話」をつくってゆくことができる…。ニーズを聴くことの力、そして、医療はチームであり、医療をチームで行う上で「想いを聴く」ということがどう支えになるか、という実感のこもったお話がとても印象的でした。

「共感的に聴く」 - 「手段・方法」にとらわれず「感情」や願い」に耳を傾ける

実例の紹介のあとは、実践タイム。NVCで大切にされている「共感的に聴く」を、小グループにわかれて行います。

NVCは「いかなる感情の奥にも、大切な願い(ニーズ)がある」と捉えています。この、感情やニーズをただありのままうけとめることを、NVCでは「共感」と呼んでいます。そこで、「共感的に聴く」の実践練習は、誰もが気軽に「感情」や「ニーズ」の語彙を言葉にできるようにと、これらの言葉が書かれたカードを用いて行います。

(ちなみに、今回のワークでは、「共感トランプ」というカードを使いました)

まず、ひとり話す人を決めて、その人が2-3分ほど、こころがざわついた出来事について話をします。聴いている人は、その人が話しているのを、ハートの耳を傾けるようにしてじっとだまって聴きます。そして、話し手が話し終わったのちに、まずは話し手が感じていたであろう感情を推測して伝えるのです。「悲しい、という気持ちはありましたか….?」「がっかりした、はどうでしょうか….?」というように。

カードをテーブルに並べて行った「共感的に聴く」の実践。

そして、その後に、その感情の奥にある願い(ニーズ)にこころを向けてゆくのです。「協力を大切に想っていますか… ?」「尊重、あるいは、相互理解…でしょうか…?」。

ネガティブケイパビリティ - 「解決思考」をわきにおき、不確かさとともにある力

ワークショップを経て、参加した方々から以下のような声が寄せられました。

  • 感情教育において、こういった「共感的に聴く」の実践が役立ちそう。とくに、どんな感情があるのか、言葉がでてこないしすぐに気づくことができないので、カードのようなものがあると支えになる。

  • 課題解決に慣れているので、このように、感情や願いに耳を傾けてただじっときく、ということには最初戸惑いがあったが、そこにこそ力があると感じた。答えがない状態にたちあう力 -ネガティブ・ケイパビリティにもつながる。

  • 聴いてもらうだけで、気持ちが晴れる気がした。こういう時間を持つことが大切だと思う。

  • etc.etc….

医療に従事する先生方が普段抱えていらっしゃる悩み、課題を共有し、「共感」を通じて互いの想いに触れる場をつくれたことは、とても有意義だったと感じました。

現場の課題と、NVC実践の架け橋を

医療従事者を対象としたこういった機会を、私たちは今後も是非多くの現場に届けてゆきたいと想っています。

ご関心のある方は、NVC大学まで是非お問い合わせください。

( 文責:NVC認定トレーナー  今井麻希子 )

https://ws.formzu.net/fgen/S269068907/

『全人的医療を支える共感的コミュニケーション・NVC』






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