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お気に入りの記事まとめ

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好きだな、とか、また読みたいな、と思った記事たちをブックマーク代わりにまとめています。どの記事もとっても素敵なので、良かったら見てください。
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#眠れない夜に

どんな感情の中にも時に大切なものが眠っている

2014年、26歳の時。 ブラック企業をなんとか辞めて、ほとほと疲れていたわたしは、けれどのんびりしていられるほど貯蓄に余裕はなく、とりあえず派遣登録をして働くことにした。 働くことになった会社で、本業務とは別に総務のような仕事もすることになった。 アスクルで備品を発注したり、みんなが出す郵便物の重さを測ってまとめたり、コピー機が壊れたら業者さんと連絡をとったり、などなど。 その作業自体は、嫌いではなかった。 問題だったのは、その会社では総務は部署を設けておらず、派遣社

いつか忘れてしまうから

実家の母から「ばあばが入院することになった」と連絡が来た。どうして?と尋ねると、認知症病棟に。と、端的な返事。ああ、ついにそこまで。 祖父が亡くなってから祖母は、転げ落ちるような速さで認知症になった。 12月にわたしが帰省したときには、既に1人で生活を送ることが難しくなり、サービス付き高齢者住宅で生活を始めていた。 とはいえ身体は丈夫だし、もともと出かけるのが大好きだった祖母は入所してからも頻繁に電車を乗り継ぎ、繁華街まで行っていたという。「今は外出自粛の時期なの!」「コ

小説|はみでる夜

 深夜。自室の机で彼女は絵を描きます。ため息をつきました。決められた納期。決められたカラーコンセプト。決められたテイスト。絵の良し悪しは物が売れたかどうかで決まります。型にはまった絵。ペンを投げます。  窓が光りました。車のライトではありません。カーテンと窓を開けます。夜空には、欠けた太陽が浮かんでいました。半分に折れた虹が架かり、根を失った木々が夜風に吹かれ、半身しかない蝶や猫や人が歩いています。  彼女の頬に流れる涙が欠けた太陽に照らされました。窓から手を伸ばすと片羽

循環するファッションを考える

*カバー写真は2017年、ブルックリンミュージアムで行われた”GeorgiaO’keeffe Living Modearn”にて筆者撮影。メンテナンスしながら大事に着られていた事がわかるブラウス。 困った着物に呆然とする 私は途方に暮れた。箪笥に詰まった母親の着物を見た時に…。 かつて着付けを習い、歳を取ったら着物で過ごすのだ!という野望は五十肩により帯が結べなくなり挫折した。何よりこの着物は私のサイズではない。(母親は小柄だった)  例え帯が結べたとしても着られないのだ。

そして誰も見えなくなった

確かにそこに存在しているはずなのに、自分以外、誰にも見えていないということがある。 最近、そんなホラーのような場面を二度、目撃した。 一つ目は、家の近所にある池でだ。 その小さな池では、鯉(コイ)にエサをあげてもいいことになっていて、 とても蒸し暑い夏のある日、5歳くらいの女の子とお母さんがエサをやりにきた。 ホラーはすぐにそこで起きた。 子どもが言った。 「あ!金魚さんがいる!!」 すぐにお母さんが言った。 「あれはね、金魚じゃなくてコイって言うのよ」

コント「アンジャッシュ」

30年間生きてきて僕が最もすれ違ってしまっていた日の話をしよう。 すれ違いは恐ろしい。恋人を引き裂くこともあれば、つなぎとめることもできるからだ。 ____ まだ二十歳そこそこの頃、韓国人と付き合っていた。 韓国人といっても、日本で育ったので日本語はペラペラで、意志疎通は一切滞ることなくできた。 あるとき、僕が何度もLINEを返していなかったことがきっかけで、喧嘩をしてしまい、「もう私、韓国帰るから」と母国へ帰ってしまったことがあった。 それから数日して、韓国人の彼

「高校入ったら告っていい?」今言えよ

大人なら絶対にありえないような不可思議でヘンテコな、それでいて大真面目なことが、子どもになら容易に起こりうる。 子どもの醍醐味は、人生経験の乏しさから生じる、目の前のことに対する一所懸命さにあると思う。 _____ 大学生の頃、小学生向けの模試の試験監督をやっていた。 教室で小学生に試験用紙を配って、「それでは始めてください」「時間です。ペンを置いてください」と書き終えた試験用紙を集める仕事だ。 12月のある日、小学4年生の模試の試験監督をした。 外には大雪が降っ

私は結婚できない

「今度、夫と子どもを連れて家族で集まろうよ」 来月で私は35歳になる。周りは結婚をしていて、子どもがいる友人ばかりである。それに比べ、私は子どもはおろか配偶者すらいないのが現状だ。世間一般が求める幸せの尺度に当てはまらない私は、今日も友人たちの会話に馴染めないままでいる。 恋をした経験もあるし、結婚を申し込まれた経験もある。でも、家族を持つことにそれほど魅力を感じられなくて、結婚の申し出を断った。「結婚できないなら別れる」と言われ、当時お付き合いをしていた恋人とは、3年前

ショートショート01『就活料理』

「今日、ごはん何にする?」 「なんでもいいよ」 それが一番困ると、母さんが言う。この一連の会話は、夏休みに入ってからルーティンとなっている。そして、結局、夕食は母さんが決める。 いただきますと、食べ始める時いつも思う。さっきの会話は、本当に必要なのかと。結局、自分で決めるなら聞かなくていいじゃん。勿論、作ってくれたことには感謝をしている。 ただ、それを考えるのはほんの一瞬。一日の中でも、人生の中でも。新しい会話に塗りつぶされ、いつの間にかこの無駄な会話のことなんて忘れ

郵便屋さん

幼い頃に見ていた未来は 大人になると日々忘れていく。 幼い頃の私はとても無口で夢見がちな少女だった。 いつかの絵本で読んだ隣国の友達話し。 【空瓶に手紙を入れて海に投げると隣の国まで届けてくれる】 この物語が大好きで、どこかにコルクキャップ付きの洒落た瓶はないかと探し回ったほどである。 結局、洒落た瓶は見つからずペットボトルかなにかに手紙を入れて川に流した。近所に海がなかったので川にしたのだ。 しかし、なぜか当時の私は自信があった。川を辿ればいつか大海原へ出て隣国まで届く

代理人

「ああ、本当にいたのですね」  病室に入ってきたその人を一目見た瞬間、一度も会ったことが無いにもかかわらず、ぼくには彼がずっと探していた『その人』であることがすぐにわかった。 「はじめまして。こんばんは」  彼は見た目通りの柔らかい声でそう言うと、軽やかな風を纏いながらぼくの方へとゆっくりと近付いてくる。どこかで嗅いだことのあるような、懐かしい甘いニオイと一緒に。その匂いを感じた瞬間、ぼくの体は少しだけ重力から解放されたような気がした。  病院の消灯時間はとっくに過ぎ

夜空の下には僕達しかいなかった

部活はテニス部。都内の男子高に通い、部活をして帰る。 それだけで腹がへる。1日4食から5食。金がない。 おまけにテニスラケットのガットがすぐ切れる。僕の何も考えないプレイスタイル。ひたすらハードヒット&ハードスピン。ガットがすぐ切れる。今のような耐久性のあるポリエステルがなかったので頻繁に3,000円前後の張替費用が飛ぶ。金がない。 バイトをしたいが、テニスもやりたい。腹が減るがテニスもやりたい。 時間がない。 とりあえず夏休みの間だけバイトをやることにする。 テニス部の練