見出し画像

「高校入ったら告っていい?」今言えよ

大人なら絶対にありえないような不可思議でヘンテコな、それでいて大真面目なことが、子どもになら容易に起こりうる。

子どもの醍醐味は、人生経験の乏しさから生じる、目の前のことに対する一所懸命さにあると思う。

_____

大学生の頃、小学生向けの模試の試験監督をやっていた。

画像1

教室で小学生に試験用紙を配って、「それでは始めてください」「時間です。ペンを置いてください」と書き終えた試験用紙を集める仕事だ。

12月のある日、小学4年生の模試の試験監督をした。

外には大雪が降っていて、とても寒い日だった。

画像2

そんな悪天候にも関わらず、誰も遅れてくることなく、試験は無事に終わり、小学生はみんなそれぞれの面持ちで帰っていった。

試験監督の最後の仕事は、小学生を帰した後、教室での忘れ物をチェックすることだった。


ここで、不可思議でヘンテコな、それでいて大真面目なことが起きた。

画像4

高級でとても暖かそうな赤の「ダウンジャケットの忘れ物」があったのだ。


外は大雪で極寒。横須賀線沿いにある田舎の学校で模試が行われていたこともあり、教室内ですら少し寒いくらいだった。

百歩譲って教室内は暖かったとして、仮にダウンを着るのを忘れて教室から一歩外へ出てしまったとしても、

「寒っ!!!!あかん、ダウン忘れてもうた」

となるはずなのだ。我々のオトナ感覚では。


しかし、そうはならないのが奇々怪々な子ども感覚。

やっとこさ模試が終わり、苦しい勉強生活から解放され、一刻も早く遊びたい。勉強なんてしてる場合じゃない、僕は早く遊びたいんだ、俺に一時の安らぎを与えてくれ。

そんな真冬の寒さを吹き飛ばすくらいの強い想いからだろうか。

極寒の中、悠々と帰っていく。

薄着になっていても気付かない、強靭な肉体と鋼の精神の持ち主。


一番後ろの席にかけられたままの赤のダウンジャケットがやけに光って見えた。

画像3

忘れていた子ども感覚を思い出させてもらった気がする。

忘れ物をしていたのは試験監督の方だったのかもしれない。


___________

小学生だけじゃない。中学生もまだまだヘンテコで大真面目な子ども感覚を持ち合わせている。

中学生の頃、同級生のHが同じクラスのまいちゃんに告白をした。

いや、正確には「告白の予約をした」と言うべきだろうか。


卒業間際に、Hは大真面目にこう言った。

「高校入ったら告っていい?」


いや、今言えよ。

高校入ったらってなに?

告白の予約?予約制でやらせてもらってます?


「30歳になったら結婚してください」

オトナ感覚で言うと、こんな感じだろうか。なんか違う。


「高校入ったら告っていい?」


まいちゃんは答えた。

「いいけど断るで」

画像5

___________

不可思議でヘンテコな、それでいて大真面目な子ども感覚は他にもいくつも思い浮かんでくる。

最後に、僕の地元の小学校で一番有名な子ども感覚の話をしよう。


フチガミシンヤの話だ。


画像6

小学1年生の頃、「クレヨンで画用紙に自分の名前を書きましょう」という授業があった。

新しく習った漢字で名前を書いたら、先生のところに持っていき、添削してもらう。


ここで子ども感覚が爆発することになる。

画像9


フチガミシンヤはしっかりとクレヨンで画用紙に名前を書き、先生のところに持って行った。

すると先生が叫んだ。

「フチガミ君、何書いてるの!!!!」

みんなもすぐにフチガミシンヤの周りに集まって画用紙を見ると、どっと笑いが起きた。


何を書いていたのか?


フチガミシンヤの画用紙にはデカデカとこう書かれていた。


「さくらクレパス」


自分の名前ではなくクレヨンの名前を書いてしまっていたのだった。



_________

画像7

●極寒の大雪の日の「ダウンの忘れ物」

●「高校入ったら告っていい?」という告白の予約

●画用紙に書かれたクレヨンの名前「さくらクレパス」


これらは全て、人生経験の乏しさから生じる、目の前のことに一所懸命になってしまう子どもの醍醐味なんだと思う。

我々のオトナ感覚とはかけ離れた、不可思議でヘンテコな、それでいて大真面目な、もう味わうことのできない子ども感覚。


世界は無数の大人になる前夜の子どもたちで溢れている。そこにはミステリアスとシリアスがひとつに入り交じっている。

こういう経験を経て、子どもは大人になっていくのだろう。


フチガミシンヤはとても真剣だった。

画像8



■関連記事


この記事が参加している募集

大学生の頃、初めて便箋7枚ものブログのファンレターをもらった時のことを今でもよく覚えています。自分の文章が誰かの世界を救ったのかととても嬉しかった。その原体験で今もやらせてもらっています。 "優しくて易しい社会科学"を目指して、感動しながら学べるものを作っていきたいです。