これからの

印刷されて製本された冊子

第2章 本は定義できない (3)

 コードもついておらず、出版流通にも乗っていなくても、印刷されて製本され、形状として本の形をしたものは、たくさん存在する。

 出版流通に乗っていない本を指すことばは、「リトルプレス」「ZINE」「同人誌」「自費出版物」などいくつかある。それぞれのニュアンスは若干違うが、それらは取次に注文することができないため、書店ごとに直接、作り手から仕入れる。業務上の手間が増えるので取り扱わない書店もあれば、逆に品揃え上の特色になるため積極的に取り扱う書店もある。

 また、それらの本は書店ではなく、「同人誌即売会」や「ブックフェア」などと呼ばれるイベントで販売するために、そのスケジュールに合わせてつくられることも多い。最大規模を誇る「コミックマーケット」、オリジナルの創作に限定した「コミティア」をはじめ、「THE TOKYO ART BOOK FAIR」や「文学フリマ」などその名の通りアートブックや文学作品に特化したものまで、大小さまざま、その数は膨大だ。中には一部の書店に卸される本もあるが、大半はその日その会場に限って販売され、以降は手に入りにくくなることも多い。

 他にも、特定の場所でのみ販売される本はある。たとえば美術展の図録だ。公共の美術館から民間のギャラリーまで、展示に合わせて発行される本の多くは、ISBNがついておらず、書店でもほとんど売られない。映画や演劇、コンサートなどのパンフレットや、観光名所で販売されている解説の小冊子なども同様だ。また、社員や取引先向けにまとめられた社史や、図書館などに収蔵される地域資料や研究紀要なども、市販はされないが、たしかに本として存在する。場所やイベント、特定のコミュニティに紐づいた本には、そこでしか販売されないものも多い。

 また、販売を前提としたものではなく、無料で頒布される本もある。総称して「フリーペーパー」「フリーマガジン」などと呼ばれることが多いが、その内実もまた様々だ。駅などに設置されたラックで配布される情報誌、飛行機に乗ると必ずといっていいほど用意されている機内誌、カメラ会社やカード会社などがユーザー向けに定期的に発行している会報誌などは身近なところだろう。あらゆる企業が、広告費で成り立つ事業として、あるいは自社のブランディングや情報発信の一環として発行する。あらゆる地方自治体や商店街などの団体が、地域振興や集客を目的に発行する。サークル的な集まりやひとりの個人が、趣味で発行しているものも多い。

 さらに言えば、そのような読まれ方をするものでなくとも、冊子状のものはたくさんある。たとえば商品カタログや説明書などが、家の本棚に本と混ざって並んでいることも多いのではないだろうか。それらを本と呼ぶのに抵抗がある人も多いかもしれないが、たとえば車関連の専門古書店に行くと、むかしの車のカタログや説明書にも、立派な値段がつけられて売られている。本と同様に扱われているこれらを、本ではない、と言い切ることもまたむずかしい。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P62-64より記載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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