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本を売ることの公共性

第9章 ぼくはこうして本屋になった(9)

 二〇一六年一二月、青森県八戸市に「八戸ブックセンター」がオープンした。市が直営する施設としては珍しく、本の販売を行う公共施設だ。

 八戸ブックセンターの開設は、八戸市の小林眞市長による三期目の政策公約として掲げられた、「本のまち八戸」を推進する拠点だ。市長の思いも強く、具体的にどのように実現させるかという段階で声がかかり、二〇一四年以降ディレクターとして、立ち上げの準備から現在まで継続的に携わっている。

 市内にも書店はあるが、ビジネスとして成立させるためには、どうしてもニーズがある本を中心とした品揃えになる。人文・社会科学や自然科学、海外文学、芸術などの分野の本は扱いにくく、あまり棚に並ばない。これは八戸市に限らず、多くの地方都市で起こっていることだ。書店の棚に並んでいないということは、そこに暮らす人たちにとって、直接その本を手に取って購入する機会がないということだ。民間のビジネスとして成立しにくく、しかしそれが教育的・文化的観点から提供されるべき機会だと考えると、行政が手がける事業としての公共性があるといえる。

 もちろん図書館はある。しかし、図書館の本は共有のものだ。本を生活空間の中に私有し、自由に扱えることとは、体験としての質が異なる。また、インターネット以降、本をめぐる環境が大きく変わってきている中で、書店だけでなく図書館も変化を求められているはずだ。そんな中、「本のまち」を目指す八戸市が、書店でも図書館でもない第三の施設をつくることは、これからの時代の地方都市におけるそれぞれの役割を再定義し、分担をしていくための先進的な取り組みになり得ると考えた。

 そのための基本方針として、八戸ブックセンターは「本を『読む人』を増やす」「本を『書く人』を増やす」「本で『まち』を盛り上げる」の三つを掲げている。本が並ぶエリアのほかに、さまざまなスタイルで本を読むことができる読書席や、本にまつわる企画展示を行うギャラリー、市内産・県内産のドリンクを楽しめるカフェカウンターを設けている。また、さらに特徴的な機能として、四面を囲む書棚の隠し扉を押して入る、読書会専用の「読書会ルーム」と、本棚の奥に二部屋ある、市民作家として登録した人だけが使える執筆専用の「カンヅメブース」がある。プログラム面でも、ブックセンター主催の読書会や、本を勧めあう定期イベント「ブック・ドリンクス」、大学や専門学校の先生を招いて本の話を聞く「アカデミックトーク」、本の執筆・出版に関心がある人向けの「執筆・出版ワークショップ」などを開催している。

 また、運営するスタッフ面にも工夫がある。八戸ブックセンターで働いているスタッフは、大きく三者に分かれている。市としてどうあるべきかを考えながら施設の管理・運営を行う市の職員、他の地域から移住してきて選書や企画を行う元書店員の嘱託職員、そして発注・陳列・販売などの現場業務を行う、市内に本社がある三つの書店が共同事業を行うために設立したLLPのスタッフ。この三者が一緒に運営することで、嘱託職員が持っているノウハウを市内書店とも共有しながら、市の施設として質の高いサービスを行っていくことを目的とした。

 いずれ日本全国の自治体に広がり、本の世界を豊かにしていくような事例になることを願って、いまも毎月八戸市に通い、スタッフと議論しながら運営をすすめている。

※『これからの本屋読本』P307-309より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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