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リアル店舗も構えられる

第8章 本屋を本業から切り離す(3)

 先に挙げた「杣BOOKS」はいわば不定期の移動本屋であり、その部分に面白さがあるわけだが、一方で本業の傍ら、定期的に開店するリアル店舗を構える人もいる。

 岩手・盛岡に「Pono books & time」という本屋がある。古本が中心で少しの新品の本があり、コーヒーをはじめとするドリンクを提供し、コワーキングスペースを併設している。営業時間は火・木・金の一七~二二時と、土日祝の一四~二〇時。つまり平日三日間の夜と土日祝だけの営業だ。店主の小山由香理氏は、昼間は会社員として働きながらこの店を経営している。開業前に上司にも相談し、就業規則上問題ないことも確認したうえで開店した。いまはその上司も客として訪れるという。

 東京・蔵前の「H.A.Bookstore」は土日祝の一二~一七時のみの営業で、店主の氏も平日は会社員だ。小規模ではあるが、店だけではなく雑誌や書籍の出版業、取次のような販売代行業も、すべてひとりで行っている。

 このような本屋の場合、まずは自分の人件費のことは考えずに、家賃と光熱費が払えるくらいの売上を最低限の目標とすればよい。営業日数や時間が短いぶん、それさえ決して簡単ではないだろうが、とはいえ不可能な目標ではない。本だけでは難しければ、これまでに述べてきたどのような掛け算でもできる。逆に、それらの経費もすべて本業の稼ぎから負担しようと考えれば、売上はまったく気にせず、自分が本当に売りたいと思える本だけをじっくり売ってもよい。

 もし一人でやるのが不安ならば、仲間を集めて複数人ではじめるという手もある。本屋を開きたい数人が集まって、出せる範囲のお金で店をつくり、曜日ごとに持ち回りで店番をする。それぞれの個性を品揃えや接客に出せれば、客にとっても毎日違った魅力のある、面白い店になるかもしれない。

 また、店舗物件を新たに借りるハードルが高いと感じるならば、まずは自宅やオフィスの一部を開放するという手もある。たとえば自宅を、週に一度だけ、紹介制で予約制の古本屋にする。売る本はすべて、これまでに自分が買って読んできた私物だ。これならば、はじめるのには一円もかからない。準備もせいぜい部屋を片付けて、売っていい本に値札をつけるくらいで、あとは知人に招待メールを出すか、SNSで告知するだけだ。やろうと思えば明日にでもできる。

 蔵書を売りたくなければ、閲覧だけにしてもよい。まずはイベント的に、友人と読書会を開いたり、知人の子どもたちに読み聞かせをしたりするのもよいだろう。友人や知人に開くことに慣れてくれば、いずれ私設図書館のような形で、地域の人たちに広く開放したくなるかもしれない。それは「私」の一部を「公」に開くことであり、家にとっても地域にとっても、有意義なコミュニケーションの変化を生むはずだ。

※『これからの本屋読本』P288-290より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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