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実験ができる強み

第8章 本屋を本業から切り離す(2)

 本棚を担いで山に登り、山頂で本を売る「BOOKS」という本屋がある。重さや道のりを考えると運ぶのは大変で量にも限界があるし、そもそも山頂に来るのは登山をしている人だけだ。客単価を上げる、客数を多くするという発想とは真逆で、本を売ることで収益を上げたいと考えていたら思いつかない。けれど本も山登りも好きな人が、収益を度外視して単にやってみたいことを考えるとしたら、思いつくかもしれない。山頂で偶然出会った人からすれば、まるで奇跡のような体験だ。実際に、これまでにない珍しい本屋ということで、新聞や雑誌にも紹介されている。

 このような実験的な本屋ができることは、本業から切り離すことの強みだ。本業に取り込む場合、いくらそれ単体での収益は求められないとしても、できることは限られている。下手なことをすれば、本業のブランドイメージに傷をつけるかもしれない。しかし本業とは関係なく、まったく個人的にやるのであれば、あらゆる実験ができる。収益も度外視すれば、どれだけ時間をかけても、お金をかけてもよい。とくに演出的な部分は、手間をかければかけるほど、誰も見たことのないものになっていく。

 どういった形であれ名前が売れることは、フリーランスで仕事をしている人であれば、別の形で返ってくる。いまは企業に勤めている人でも、少しでも名前を知られていれば、独立するときに役に立つかもしれない。結果的に、後から本業に取り込んだり、掛け算の形で独立したりすることにつながることもあるだろう。

※『これからの本屋読本』P286-288より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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