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人を雇わない

第5章 本屋をダウンサイジングする(2)

 小さな本屋を経営していきたい。そのとき、まずダウンサイジングすべきものとして、一番わかりやすいのは経費だ。

 いきなり生々しい話のようだが、金額についてだけの話ではない。経費となる項目が多いということは、店に関わる要素、気にするべき要素が多いということでもある。特に固定費は、売上に関係なく毎月のしかかってくる。もしその項目ごと意識から外すことができれば、それだけ店としての理想を追求することに集中できる。

 中でも最大の経費のひとつは、人件費だ。ひとりで目が行き届き、回していけるような店にできれば、人件費という項目自体を気にする必要がなくなる。

 とはいえ、できるだけ毎日決まった時間に空いているのが店の基本である。いくらひとりで回せるサイズとはいえ、店を離れなければいけない用事が生まれることもある。その時に店を閉めたくない。あるいはたまには休みたいが、定休日はつくりたくない。そのように考える人も多いだろう。

 その場合は、なるべく家族だけで補えるようにする。前述の「誠光社」の堀部氏や、東京・荻窪にある「本屋Title」の辻山良雄氏は、夫人と二人三脚で店を営んでいる。

 働く人間を自分だけ、あるいは家族だけにすることができれば、人件費は、毎月決まった額が必要な固定費ではなく、売上に応じて変えられる、変動費に近いものになる。誰かを雇うにしても、店番をしながら空き時間に自分の仕事もできるような、時間の自由が利く友人に臨時のアルバイトをお願いするなど、コントロールしやすい状態であるとよい。

 家族だけで店をやるということは、人生と店とが密接に重なってくるということだ。きっと苦労もあるだろうが、代えがたいよろこびもあるだろう。また、誰も雇わなければ、他人の人生を背負うこともない。続けるのも止めるのも自分たち次第で、誰かに迷惑をかけずにすむ。

 ただし、もちろん、自営業そのもののリスクもある。夫婦でやる場合、万が一、店が急に立ち行かなくなったときのことを考えると、片方はどこかに勤めているほうが安全だという考え方もあるだろう。前述の「Cat’s Meow Books」の場合、日中は、店主は企業に勤めていて、代わりに夫人が店番をしている。夜帰宅した後と土日だけ、店主が店に立つスタイルだ。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P188-P190より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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