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何かを積み重ねること——内沼晋太郎×堀部篤史×中村勇亮(2)

Talk 本屋として生きるということ(2)

お客さんとの付き合い方

中村 具体的なお話で、お客さんの男女比率や、外から来ている人とリピーターの比率は、どういった感じですか?

堀部 買う人は年配の人が多いです。観光の人にも二種類いて、観光スポットの一つとして来る人はまず買わない。ただ、わざわざ本を買いに遠くから来る人はいて、そういう人はすぐわかりますし、客単価は比較的高いと思います。京都だから学生は多いけど、彼らはほとんど買いませんね。
 誠光社の店舗の月二一〇万円という売上は、ほとんど大人のお客さん、わざわざ遠方から来てくれるお客さんに頼っています。店の近くを通っている人をメインのターゲットにしていたら結構厳しいかもしれないです。
 あとは、一つのお店だけの力ではなくて、街の人の力もあります。「街」って抽象的な言葉を使いますけど、僕はそういうことだと思っていますね。京都が特殊なのは、狭いし山に囲まれているし、東京嫌いで、トレンドになびかないところがあるので、独自の文化が醸成されやすいところがある。その内部でちゃんと回転することが、文化の醸成になって、結果として外からお客さんを呼ぶことになっていると思うんです。
 例えば、政治は一世代とか一票とかがすごく大きな意味を持ちますけど、文化は自分ひとりで何かができるものではないんですよね。何世代にもわたって時間をかけてやらないといけないことだから、何かを始めたからすぐに変わるとか、フィードバックがあるとかいうものではなくて、もっと気の長い話ですよね。
 中村さんが本屋を始めて高松の文化が変わるとすると、お店ができて四、五年で変わるわけではないですよね。啓蒙し続けないといけないし、もしかしたら次の代になってから少しずつお店が多いエリアになっているかもしれない。他人に直接影響を与えることはできないけれども、そういうところで育った人って、場所に愛着があって、地元の文化的なものを吸収したからこそ、地元でできるかもと思えるものだと思うんですね。早急なリターンを求めたらダメで、長い目で見ないと、と思います。うちもようやく一年経ったけど、一周年で何かやるわけでもなく、何十年も続けることが大事だと思っています。

ウェブサイトの効用

中村 ウェブサイトでの販売もされていますけど、ウェブに載せる、載せないの基準はありますか?

堀部 少部数しか作られていないものなど、買いにくいものを多く載せています。でも、そういうものって限られているので、やっぱりバランスですよね。洋書ばかり出していると洋書専門店みたいになってしまうので、そうはなりたくないし。
 ウェブサイトは雑誌みたいな感じです。それを見て自分が面白いかどうか。ちょっとずつタグ付けしていって、このタグが異常に多いなと思ったら、別のこちらを増やそうという感じ。売れないけど、もうちょっと固めのものを出そうとか。売れるものをバンバン載せるという直接的なビジネスモデルからは迂回していて、売れなくてもバランスをつけるために、全体を見ているんです。
 ネットは検索してサイトにたどり着く人が多いので、検索したらそのサイトが出てくる、というのが一番近道になる。だから買いにくいものを載せるのは基本です。ただ、それだけを探しに来るお客さんよりも、本当は全体を見てくれるお客さんに向けて僕はやっている。検索したらこれが引っかかって何百件注文が入ったからそれでいい、というものじゃなくて、ウェブサイト自体も、お店のイメージをつくるもののひとつと考えています。
 通販に関しては、点数が増えれば増えるほどまとめて買いやすくなって客単価は上がるので、伸びてきているんです。店舗は、最初がいちばん良くて、いまは少し落ち着いて、設定した通りの数字をなんとかキープしているところかな。

「売れるお店」ではなくて「いいお店」

中村 通販に限らずお店でも、どういった種類のものが売れるというのはありますか?

堀部 種類に傾向はないですね。例えば、イベントをやることが決まっていて、そのイベント情報で注目を集めているものが売れる一方で、もちろん誠光社のオリジナルのものを出したらそれが売れるというふうに、お客さんによって見ているレイヤーが違うので。
 うちは意識してそういう風にしているんです。特定のジャンルだけが目立つような作りだと、他が背景になってしまうので。我慢して、売れなくても推し続けるものもある。その中で「うちのお客さんはこういう傾向があるな」というものがあれば、その棚が少し広がっていくことはある。お客さんとの綱引きですよね。
 これは売れるなという本はやっぱりあって、しかも日々変わっていく。でも、それはずっと現場にいて定点観測している醍醐味というか、経験なんですよね。マーケティングではできないけれど、店番していたらすぐわかると思います。
 ただ、あんまりそれに影響されすぎると、自分はこういうものが好きなのに全然違うものばかりが売れるということにもなりかねないので、変わりすぎるのもどうなのかと思っています。半分妥協して、譲れないところでは発信する。引っ張られつつもこちらも発信し続けるというのが「いいお店」の条件ですよね。
「売れるお店」ではなくて「いいお店」を作りたい、ということになってくるんですよ。「売れるお店」というのは数字の世界で、それを追うと、僕がやりたい世界ではなくなっていくので、どちらを目指すのかということですね。
 そもそも、これから本屋では「売れるお店」というのは成立しないと思うんですね。「いいお店」でいて、なんとか続けていくのが、これからの本屋の誠実なあり方だと思います。売れるものを増やしていって、売れる本屋にしたところで、売っているものは複製品なんで、どこでもできるから、大手資本に対して勝ち目がない。好きなもの、変わったもの、関係あるものを置いてるから行きたくなる、という個性が出ているお店か、超巨大資本のお店かの、両極端な話になってしまうでしょうね。超巨大資本の本屋は、結局Amazonでしかなくて、そうなってくるとリアルのお店である必要もなくて、情報をただ検索すればいいということになる。

やってきたことの積み重ね

中村 堀部さんも開店時に五〇〇万円ぐらい借りていると聞きましたが、私も可能なら借りる事も検討しています。どうやったら借りられますか? 今のプランで金融機関の相談会に行ったら「厳しい」と言われて、そもそも一五〇万~二〇〇万円という売上が現実的かどうか、疑問に思われたようでした。

堀部 それは、中村さんの今の状態ではなくて、これまでの状態を見られているからだと思います。キャリアということですよね。何かを積み重ねるとか、続けているということは、ビジネス面でもすごく重視されるんだなとわかりました。僕は中村さんの資料のようなしっかりしたものは持って行ってないですけど、自分が書いた本や、掲載記事や、ウェブサイトなどを見てください、という形で行きました。

内沼 そういえば確かに中村さんの資料には、せっかく書店経験があるのに、そのことがあまり書かれていないですね。奥様もいま、書店で働かれているんですよね。

堀部 キャリアのことは書くといいと思いますよ。お二人ともそういうことを続けてきて、これからはこういうお店をやりたい、と。

直取引で本屋を始めるには

中村 誠光社のウェブサイトに直取引のパートナーのリストを挙げられていて、そこからさらに増えていると聞きましたが、どういったところが増えていますか?

堀部 直取引に関しては、単にウェブサイトを更新していないだけで、かなり増えてますよ。

中村 それは仕入れたい本があるごとに増えていくんですか?

堀部 そうですね。欲しい本があって、まとめて仕入れたい出版社です。たまに一、二冊注文するくらいだと、そういう申し出をしても向こうの期待に応えられないし、面倒な思いをさせてしまうというか、特別扱いしてもらうことになるので。それは嫌なんですよ。ちゃんと向こうにもメリットがあると感じてほしい。せめて一〇~二〇タイトルくらい欲しい本がある出版社には直取引で、それ以下の場合は利幅が少なくても中小の取次に頼むので、利益率三割を保つのは結構難しい。実際には二割八分ぐらいになっていると思います。ただ、六掛のリトルプレスも多いので、厳密にはわかりませんが。
 でも利幅が少ないからやめようということではなくて、やっぱり置きたい本は置きたい。本屋の棚を作るためには、やっぱり外せないんですよ。数字の中には色んな矛盾が混ざっていて、数字では損するけど気持ちとしては得だからやる、ということもあるし。数字の世界ではできないからこそ、その店の個性になるんですよ。儲からなくても好きだからやることって、よその人には真似できない。そういうことをどんどんやると人は引き込まれますよ。

資金作りの大変さ

中村 最初、初期在庫を揃えられた時、支払いを一年後にしてもらったと聞きましたが、最近契約した出版社さんとも、そのような契約を結んでいるのでしょうか?

堀部 いや、それは初回だけで、初回以外は全部買取でやっています。結果的には最初に棚に並べたものを半年後に買い取ったので、その時には正直、資金繰りがきつかったですよ。半年後に、筑摩書房や河出書房新社の本が売れているから全部買います、となるとある程度ガバッと請求が来る。今はようやくほぼ全部支払い終わりました。一年かけてゼロから財産を作ったわけです。

内沼 精算は少しずつやっていったんですか?

堀部 三か月ごとに、という感じだったんですが、半年後の時には筑摩書房・河出書房新社・平凡社なんかは九割が売れていて追加は買取でやっているような状態だったので、たとえ他のものが少し売れ残っていても、一年経った段階では全部買い取りました。ミニコミとかイベントで一時的に預かって、というのは返品したものが稀にあるけど、一般の出版社さんから初期の棚作りのために仕入れて返品したものはゼロですね。

内沼 一回転はしただろうから、いったん精算しましょう、ということですね。

堀部 そうですね。これだけ売れたというのをリストで見て、未精算分は全部請求してください、というのをちょっとずつやっていきました。一年経った今では、委託で始めたものは全部支払っているということです。
 一一月、一二月が忙しくなるので、筑摩書房と河出書房新社だけ、一〇月にもう一度委託で大きく仕入れさせてください、ということで二箱ずつ仕入れました。自分のところで本を二冊出して、その二冊だけで支払いが一二〇万~一三〇万円あったので、今月お金はやばいけど本の補充はしないといけないということで、その二社だけ、そういうお願いをしてやらせていただきました。

内沼 一時的な資金の作り方というか。

堀部 本を一冊作るのって、中古の軽自動車一台買うぐらいのお金がかかりますし、それを年に五回やったんで。

内沼 だから、まとめてこのぐらい仕入れるから、今回は委託にしてくださいと個別に交渉したと。

堀部 それはちゃんと挨拶しに行きました。おかげさまで一年経ちました、今回はこれこれこういう理由で、お願いしますと。
 委託に関しては最初から、一年で精算して「また委託でも良いですよ、むしろ委託でどうですか」みたいに言ってくれるところも多かった。ただ、ちょっとでも条件がいいなら買取の方がいい、ということで交渉を進めたんです。委託だけど返品する必要がないほど売っている実績が出てきたので、向こうも委託にすることに抵抗はなくなってきたということではないかなと。
 もちろん本を五冊も作らなかったら、四〇〇万~五〇〇万円ぐらい残っていたかもしれないけど、本を作っていたからこそ話題になったという側面もある。結局ずっと同じようなことをしていると思うんです。


中村勇亮(なかむら・ゆうすけ)
一九八二年生まれ。信州大学人文学部卒業。新刊書店で三年勤務した後、商社に勤務。退職後の二〇一七年八月、香川県高松市に本屋ルヌガンガをオープン。

堀部篤史(ほりべ・あつし)
一九七一年生まれ。立命館大学文学部卒業。学生時代より編集執筆、イベント運営に携わりながら恵文社一乗寺店に勤務。二〇〇四年、店長就任。商品構成からイベント企画、店舗運営までを手がける。退職後の二〇一五年一一月、京都・河原町丸太町に誠光社をオープン。

※『これからの本屋読本』P237-P245より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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