本業に取り込める可能性はあるか
第7章 本屋を本業に取り込む(1)
本を売る商売は、残念ながら厳しくなる一方だ。少なくとも、システムに依存した昔ながらのやり方で、いまからはじめるのは無謀だ。厳しいことは承知で、それでもこれから本屋をやろうと考えるならば、できるだけ「ダウンサイジング」をしながら、「掛け算」をしていくのがよいはずだ。ここまで紙幅の許す限り、その方法について記してきた。
一方、ここまで読んで、いきなり独立して本屋として生計を立てようというのは、自分にはリスクが高すぎると感じている人も多いのではないだろうか。そういう人はまず、いま置かれた環境を手放すことなく、本業で生計を立てながら、副業的にはじめてみるのがよいだろう。できる範囲ではじめてみて、そこから本業としてやっていける可能性を感じたら、徐々にシフトしていけばよい。
あるいは、本屋で生計を立てることは考えず、あくまで個人的な活動として続けていきたいという人もいるはずだ。自分の人生の中で、できる範囲で少しずつ、「本」のおもしろさを誰かに伝えていきたい。「本屋」としての活動に、長期的に取り組んでいきたい。それは言い換えれば、「本屋」をライフワークと捉えることだ。
ライフワークということばは、出会うことができた天職、一生を捧げていく事業というような意味で、生計を立てる本業に対しても使う。しかし誰もがライフワークをそのような本業にできるわけではない。個人的な人生の中で、必ずしも本業として生計を立てられなくとも、むしろ本業で稼いだお金をそれに使ってでも取り組みたいと思えることが、ライフワークであるはずだ。そして、「本屋」をそのようなライフワークとして考えるのであれば、むしろ収益性からは積極的に切り離して考えたほうが、新しい形を生み出すことができておもしろい、とぼくは考えている。
そのような、副業あるいはライフワークと考えるのであれば、現在の本業は生計のために維持した状態で「本屋」をやることになる。そのとき、その本業と「本屋」とは切り離された、まったく別のものと捉えるほうが、一般的な考え方かもしれない。
しかし、ここまで「掛け算」の章で見てきた内容からもわかるように、本はあらゆるものと相性がいい。もし本業としてどこかの企業に勤めていたとしても、その事業内容やポジションによっては、そこに自分が「本屋」としてやりたい活動を、うまく取り込める可能性がある。本業がフリーランスであったり自分が組織の代表であったりする場合は、少なくとも自分に決定権があるという意味で、なおさら可能性が高い。
本業の側にある課題を発見し、それを解決する道具としての「本屋」のアイデアを考える。あるいは、なるべく自分が個人的にやりたい「本屋」の形に近いものを、本業の一環として理由がつくような形にチューニングして、混ぜ込んでいく。本章では、そうした本屋のあり方について書いていく。
本業が何であるかによってケースバイケースで、バリエーションは無限にあり得る。また、「掛け算」とも似ているが、こちらの場合は主従が逆で、あくまで本業を続けるという前提があり、それに「本屋」の側をすり合わせていくアプローチになる。どんな形であれ「本屋」をやるのはそれなりの手間がかかる。手間のかかるわりに、本を売ることで利益を出すのはまず難しいと考えたほうがよいので、こういう課題を解決するためにやるのだ、といえる理由を考えたほうがよい。
本業に寄り添って考える以上、それが幸運にも個人的にやりたい「本屋」に近いものになる可能性は、高くないかもしれない。けれど、もしその後に独立したり、本業とは切り離した副業やライフワークにするとしても、本業の傍らで本を扱う経験を積んだり、実感をつかんだりできるのならば、それに越したことはない。まず、そもそもそういう「本屋」がどのような形ならばあり得るのかを考えてみよう。妄想するだけでも楽しい。
ここでは、なるべく現実に落とし込みやすいように、わかりやすく抽象化した架空のモデルケースを挙げながらすすめる。中にはぼくが知らないだけで、既に実在するものに似ていることもあるかもしれない。一部は、自分が過去に提案して実現したものやしなかったもの、過去の講座やワークショップで出た案で実現可能性の高そうなものなどを元にしている。それぞれ、自身の現在の本業に置き換えるとどうなるか、それを会社に提案して自ら担当者になることができるか、など想像しながら読み進めていただければと思う。
※『これからの本屋読本』(NHK出版)P262-P265より転載
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